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金色の吸血姫  作者: 杞憂
暁の従者篇
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飛来するモノ

「さて、ではこれからどうするかの」

 エリーゼは僕と紗織を一瞥し、ラウラさんに問いかける。

「私と一緒に、いったん屋敷に戻りましょう」

「むぅ、我は優介たちと別れたくないぞ……」

 エリーゼが難色を示す。

「しかし、もしこの子たちと共に生活すれば、被害が及ぶ可能性があります」

 ラウラさんの言う通りかもしれない。

 仮に巻き込まれて、普通の人間の僕たちが無事でいられるかは分からないのだ。

 それにはエリーゼも頷かざるを得なかったようで。

 しばし逡巡した後、渋々承諾をした。


「……ふむ、仕方がない。優介、紗織よ。一日という短い間だったが、世話になった」

 ぺこりと頭を下げて感謝を述べてくる。

「いつかこの事件が終息したら、是非また我を家に泊めてくれ。約束だぞ」

「さりげなく脱走宣言してませんか?」

 ラウラさんの鋭いツッコミが入った。

「でも、ちょっとだけどんな屋敷か見てみたいな~」

 紗織がポツリともらす。僕も同感だった。

「そんなに遠くないから、よかったら君たちも来るか? 食事がまだなら、屋敷の方でも用意できるが」

「え、いいんですか。ラウラさん?」

「もちろん。むしろ姫のお世話をしてくれた御礼に、もてなしをさせてくれ」

「やったね紗織! 今夜は食べられるご飯だよっ」

「ゆう兄……それどういう意味?」

 ギロリと睨まれ、失言してしまったことに気付く。むしろ本音が出たというほうが正しい。

「なんだったら泊まっていっても良いのだぞ?」

「それじゃ意味ないじゃんっ」

 最初はどうなるかと思ったけど、何だかんだで今笑い合っている僕たちがいる。

 ラウラさんもやり方はちょっとアレだったけど、根は優しい人のようだ。

 どんな不測の事態が起ころうが、こうして何とかなってしまうのだから。

 きっとエリーゼが僕たちの家に再びやって来る日も、すぐに訪れるだろう。

 僕たちが予想しているよりも、早く………


 僕たちは先ほどまでいたマンションの一室から外に出て、屋敷を目指し歩いていた。

 外はすっかり暗くなっている。この一帯は街灯が少ないため、月明かりを頼りに進んでいる。

「そういえば、なんでラウラさんは屋敷じゃなくてマンションを借りていたんですか?」

 疑問に思ったことをふと訊ねてみる。

「あまりに屋敷が古くて、リフォームを頼んでね。つい先日終わったばかりなんだよ」

「それでまだマンションに住んでたんですね、なるほど」

 今頃になってエリーゼを連れ戻すのも、姫狩りとかいう事態に備えてのことだろうけど、リフォームが終わったから、というのもあるんだろうな。

「どのぐらいでかいの? その屋敷」

 紗織がエリーゼに興奮気味に訊いている。

「我はすぐ家出したから、あまり覚えてないのだ」

「つっかえないやつ~」

「なんだとっ! やるのかおぬし!?」

 二人は言い合いを始めてしまった。仲が良いのか悪いのか、相変わらずだ。


 しばらく歩いていくと、林に囲まれた場所になっていった。

「この林を抜けると、屋敷の門に出るんだ」

「へえ、ここ全部エリーゼの家の土地ですか?」

「ああ。元々、姫のご両親が別荘として買った屋敷だが、滅多に来ないから放置していたのさ」

「我らは偶に日本に旅行に来ていたからな。その名残だ」

 エリーゼが補足説明をしながら僕の前を歩いている。

 紗織は僕の後ろについて来ていた。

「ゆう兄、なんか肝試しみたいじゃない?」

「そうだね、もう暗いし。怖いかい」

「そんなことないもん。もうあたしも大人ですから~」

 紗織はいつにも増して気丈に振舞っている。

 すると茂みから突然がさっと何かが動くような音がした。

「ひぃっ! な、なにっ!?」

「ただのリスみたいだよ」

「へっ……? あ、違うもんっ。ビビッてなんかないよっ」

 一瞬でメッキが剥げてしまったのだった。

「さあ、二人とも。屋敷に着いたぞ」

 エリーゼとラウラさんがこちらに振り返って僕たちを呼んでいる。

 その背後には想像してたよりもずっと大きな西洋風の屋敷があった。

「うん、いま行く……」

 その時、意識せずに後ろの屋敷を見て、僕は気付いてしまった。

 アレは、誰だ?


 屋敷の屋根に、月を背に立っている人がいた。

 黒いコートを羽織り、月が無ければ完全に闇と同化していたであろうその姿は。

 エリーゼに照準を合わせ、何かを向けていた。

 それは恐らく、銃口。

「あれま、気付かれちまったねぇ。でも、もう遅いよ」

 エリーゼもその殺意に気付き、そちらに顔を向けた。

「初めまして。そんでもって、さよならだ」

 弾丸が、発射された―――


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