表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の吸血姫  作者: 杞憂
暁の従者篇
12/34

雲行き悪き空

 エリーゼがそう告げた後、ラウラと呼ばれた女性は冷静に返答した。

「いいですよ、但しこちらにも条件があります」

「なんだ、言ってみよ」

 緊迫した空気の中、紗織は僕が縛られているベッドの方までやってきて、やむなく女装中の身体をまじまじと見つめてきた。早く紐を解いて欲しいのに……!

「紗織、そんな見つめないで……」

 妹にこんな姿を見られるなんて、恥ずかしすぎて死にそう。

「ゆ、ゆう兄ったら、そんなあたしを誘うような格好で…ハァ…ハァ……」

 こ、興奮してらっしゃるっ!?

 紗織は鼻血をポタポタとこぼしながら手をわきわきさせている。

 嫌な予感しかしないのだけど。

「ゆう兄が女装なんてちょっと驚きだよ……もしかしてそっち系なの? だったら、あたしがゆう兄に女の子の良さを直に教えてあげるよ……」

「僕はそっち系じゃないからーーっ!」

 頬を染めながら段々とこちらに近づいてくる紗織は、身動きできない僕には少し怖かった。

 なにせ身体の自由が利かないため、何をされても抵抗できないのだ。

「うへへへへへ……」

 マジで怖い。

「ま、待って紗織っ。そうだ、どうやってここが分かったのっ?」

「へっ? ああ、エリーゼさんが案内してくれたの。なんか手紙持ってたし、地図が書いてあったのかも」

 話を逸らすことで紗織の行動を妨害する作戦成功だ。

「すごいんだよっ、あたしの血をちょっとだけ吸ったら、ものすごく足が速くなったのっ!」

 主語がなかったが、おそらくエリーゼのことを言っているのだろう。

「足が? …………やっぱり普通の人間じゃないのか……?」

「吸血鬼なんでしょ、あの人?」

 随分と非現実的なことを冷静に言うものだ。

 少なくとも2,3日前にはそんな単語を口にするなんて思ってもいなかった。

「吸血鬼ではない、吸血姫だと何度も言ってるだろうっ!」

「ひぇっ!? す、すみませんっ……」

 突然怒鳴られ紗織は萎縮してしまった。そのおかげでなんとか僕も危機から免れたのだった。


「ちょうどいいですね。ではまず、その吸血鬼の話題からにしましょうか」

「むう……。なにか問題でも起きたのか?」

「ええ。近頃、吸血鬼による姫狩りが増加しています」

 それを聞いてエリーゼの顔が少し歪む。訳が分からないとその目は語っていた。

「ここ数週間で、既に六人も犠牲になっています」

「どういうことだ、なぜ吸血鬼どもはそんなことを?」

 問われたラウラさんも首を振って、分からないということを伝える。

「二日前、リーゼンフェルト家で会合が開かれ、姫には必ず一人以上の付き人をつけることが決まりました。事態は思ったよりも深刻なのです」

「……つまり、お前はそれを伝えるために来たのか」

「それだけではありません。あなたをお守りするのは、この私です」

「え、お前はただのメイドじゃないか」

 エリーゼが素っ頓狂な声を上げる。

「ラウラさんって、エリーゼのメイドさんだったの?」

 謎の人物だったラウラさんの素性が少しずつあらわになる。

「そうだ。両親が生きていた頃は、我が家でメイドをしていた。今は私専属だ」

「私はいつまでもあなたのメイドです、姫。武術は一応心得ているつもりですので」

 頼りになりそうなメイドさんだ。

 にしても、姫狩り、とは一体何なのだろう。

 音の響き的に、嫌な予感がする……


「えーっと、ラウラさん、だっけ? よく分かんないんだけど、とりあえずこの娘を預かってくれるんだよね?」

 紗織が不意に訊ねた。エリーゼはそれを聞き焦り始める。

「ど、どういうことだ妹君よ。我を捨てるつもりなのか?」

「捨てるって……犬じゃあるまいし」

「よもや身内に裏切られようとは」

「あんたは身内じゃありませーん」

 ぬぐぐ、と悔しそうに唇を噛みしめている。そろそろ止めたほうがいいだろうか。

「エリーゼ姫は私が責任を持って元の家まで連れ戻します」

「元の家?」

 そういえば聞いていなかったが、エリーゼは僕の家に泊まるまでどこで寝泊まりしていたのだろう。そもそも、いつここに来たんだ? やけに日本語だって流暢だし……

「屋敷はすぐ近くにあります。手配したまま放置されているのです。日本に来てすぐに姫は家出してしまいましたから」

「あんな古臭い屋敷に一人なんて寂しいではないか。クラスメイトの女の子の家はよかったぞ、なにしろ人の温もりを常に感じられた」

 ここに来るまでも女子の家を転々としていたようだ。

「屋敷には私もいるではありませんか」

「お前はいつも仕事してて構ってくれないから……」

 その言葉には年相応の子供らしい一面が見てとれた。

「とても心配したんですよ、急にいなくなるんだから」

「…………すまぬ」

 ラウラさんの顔は、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。

 しかしすぐに笑顔に戻り、

「……でも、帰ってきてくれるなら、許してあげます」

 その姿はまるで、エリーゼの本当のお母さんのようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ