転校生は金髪少女
この作品は多分にファンタジー要素を含みます。
苦手な方はご注意を。
退屈な日々、平和な日常。誰もがそんなものを望んでいる。
それはこの僕も望んでいるものだった。あの人が来るまでは。
「優介、早く出なさい。遅刻するわよ」
「はーい、今行きますっ」
玄関を出て、学校へと急ぐ。高校に進学してこの方、遅刻は一回もしたことがない。
でも家を出るのは大抵ぎりぎりになってしまう。朝は限界まで寝ていたい性分なのだ。
「あ、ゆうすけーっ! おっはよーーっ!!」
「このは、またパンくわえてるの…」
路地を曲がったところで、見知った女の子に出くわした。
ご丁寧にパン装備。ちなみにぶつかってはいない。
昭和の漫画かよっ! というツッコミはあえてせず、僕は幼馴染である大場このはと共に通学路を走る。いつもここでのダッシュで無理やり間に合わせているのだ。
通い慣れた並木道を通り過ぎる。入学して2ヶ月間通い続ければある程度は親しみがもてるという感じだ。入学時は見事な桜並木だったが、今は緑で生い茂っている。
やがて校舎が見えてきた。僕とこのははラストスパートをかけ一気に駆け抜ける。
県立風明高等学校。三年間を過ごすことになる僕たちの学び舎だ。
校門をくぐったところでチャイムが鳴り始めた。ぎりぎりセーフだ。あとはそのまま教室に向かうだけ。
「今日も走ったねー、ゆうすけ~」
「このははうちより学校近いんだから走る必要ないんじゃない?」
「もー、待っててあげてるんでしょーが。感謝しなさい!」
げし、と背中にチョップが入る。
「地味に痛いよ…」
「えっへへ~」
教室のドアをくぐると、いつもお決まりの声が聞こえてきた。
「よーよー、朝から仲のよろしいっこって」
「蛭賀くん、おはよ」
「おっす、優介」
蛭賀くんは同じクラスの友達…いや悪友的存在だ。
よく茶化してくるけど、根はいいやつ、かな。
「今日も先公遅れてるぞ」
「やっぱりか」
僕たちのクラスの担任は、正直言うとルーズだ。
遅刻は日常茶飯事。いい大人のくせに、それはどうかと思う。
僕が遅くに家を出て学校に間に合っているのも、先生のおかげかもしれない。
この時の僕たちには知る由もなかったが、実はその日先生は珍しく遅刻していなかったのだ。
では何故遅れていたのかというと―――
廊下を歩く音が二つ聞こえてきた。何故二つ? という疑問もつかの間。
先生は、その人を引き連れて教室に入ってきた。みんなの視線が一気にその人に向かう。
「えー、あれだ。みんな喜べ~、転入生を紹介するぞ」
ぼりぼりと頭をかきながらやる気のない声で告げる先生。
その横に立っているのは、まるで外国の人形のように可愛らしい、綺麗な金髪を腰元まで流した小柄な女の子だった。みんなが一斉に注目するが、物怖じすることもなく、堂々としている。
「ねえ、あの子すごく綺麗だね、ゆうすけ?」
横の席のこのはがツンツンと肩を押して訊いてくる。
「うん、ほんと人形みたいだ」
男女の区別なく、クラスの誰もが彼女に魅せられていた。
僕も一瞬で彼女に見惚れてしまった。
「さ、自己紹介どうぞ」
先生が転入生にチョークを渡した。それを使って黒板にすらすらと日本語ではない名前を書く。
「エリーゼ=アマーリア=ミュンヒハウゼンという。よろしく頼むぞ」
予想通りの鈴の音のような声で、彼女は挨拶した。
「彼女は海外からの編入だから、いろいろ不都合もあるだろう。みんなが支えてやってくれ」
「了解っす先生! 主に俺が支えます(キリッ)」
約一名の蛭賀はスルーされた。
「もっとエリーゼちゃんのこといろいろ知りたいぜ、なあみんな!」
「それはまあ」「名前だけってのもね」
ざわざわと波紋が教室中に拡大していく。
僕としても、もっと彼女についてのことを知りたいと思った。
騒がしくなってしまったクラスを抑えるため、先生が手を打つ。
「よし、エリーゼ。なんか自分の趣味とか、好きなもんでも言ってみろ」
「…ふむ。好きなもの、か。それならあるぞ」
みんなの期待が高まる中、彼女は今学期最大の衝撃発言を、いきなりぶちかますことになる。
「……我は、可愛い女の子が、大好きだっ!!」
みんなの目が点になった瞬間だった。