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エピソード4 幽霊動物

Episode4

登場人物

加地 伊織:主人公

吾妻 碧:急接近中の 幼馴染み

難波 優美:高飛車な ゴスロリ美少女

室戸 達也:無口な敵


 後先考えずに碧の頭の上を手で掃っていた。 何かが乗っかっている様に見えたからだ、かすかに青っぽい半透明のトカゲ? それはまるで水中のクラゲの様に半透明だった。 ところが手にはそれらしきものは触れなかった。 二、三回それを掃ったり、突付いたりしてみたのだが、全く感触が無い。 トカゲの方も伊織の手の事など全く意に介していないかの様だった。


混乱した頭を1秒で整理する。 ココは車の後部座席、自分は碧と一緒に県警本部から家まで送ってもらっている所、運転していた警官は、十字架ピアスのイケメンにぶちのめされて地面に転がっている。 車の後部ドアは何故だか外れて、これまた地面に転がってる。 目の前には(正確には碧の目の前には)ゴスロリ衣装を身に纏った小学生くらいの美少女が何故だか勝ち誇った様に仁王立ちしている。 そのゴスロリ少女の肩から車に飛び移ってきたのが、これまた半透明なクラゲの様な幽霊子猫。 それで、碧の頭の上には、、幽霊トカゲ。


碧:「あっ、うぅぅぅ、」


そうだよな、こんな時になんて言えばいいのかなんて、普通直ぐには思いつかないよな。 ただでさえ自分は頭良い方ではないのに、でも、SF映画とかでは見た事がある。 特殊映像効果って奴だ。 それとも誰かが変なクスリを嗅がせて俺たちは幻覚を見ているのだろうか。


優美:「何なの、あなた馬鹿なの?」


何でこのゴスロリ少女はこれ程までに上から目線なんだ? 今の台詞は明らかに年上の碧に向かって言ってたぞ! と言うよりその前に、そもそもこの少女は、一体何者なんだ?


碧:「へっ? あの、」


碧の頭の上の幽霊トカゲが、動いた様に見えた。 意外に、いや滅茶苦茶素早い。 そのトカゲに飛び掛るように、幽霊猫が跳躍した。 まるで猫がトカゲを追っかける様に、って そのままだが。 所謂 猫パンチ的な襲撃だ。 思わず 碧の身体を引き寄せて抱きしめる。 一瞬猫の爪が碧の顔面を傷つけたかの様に見えたからだ。 碧にも多分同じものが見えている。 猫を避けるように両手で顔をかばっていた。


ところが、それは実際のところ碧には触れることは無かった。 それどころか碧の頭をすり抜けて、後ろにいる伊織の方に飛び掛ってきた。 トカゲはすかさず碧とシートの背もたれの隙間? に逃げ込む。 子猫は伊織の身体の中をすり抜けてトカゲの後を追う。


伊織:「おおっ、うぅ」


嫌な感じだ、いや確かに自分の身体に吸い込まれていったのに何も感じないという事が脳内の常識を混乱させてどうしようもない違和感が体中に染み出してくる。 殴られる!と思ったのに殴られなかった時の異常な緊張感に似ている。 決してドサクサに紛れたわけではないが、自分でも気付かないうちに碧の胸を握り締めていた。 碧自身も、そんな事にはまるで動じていない様だった。


伊織:「ちょっ、待てよ!」


正常な理解を取り戻す為に怒鳴った。 自分は気がおかしくなってしまったのか? 今は怒鳴っていい時だよな。


次の瞬間、大きな音がして車体がかしいだ。 リアのサスペンションが千切れてスプリングが跳ねた衝撃と、車体の床が地面にぶつかる衝撃がシートごと尻を突き上げた。 続いて何か金属の塊が地面とこすれる音と振動が伝わってくる


碧:「きゃあああ!」


二人はシートベルトをしたままだったから、何だか遊園地の絶叫アトラクションに乗っている変な錯覚が沸きあがってきた。 今度は碧の方が伊織に抱きついていて、多分、正確に状況を把握する為に叫び続けている。


伊織:「い、一体、何なんだ」


ようやくまともな台詞が口をついて出た。 見ると、ゴスロリ少女が汚れたものでも見るような目つきで伊織と碧がしがみ付き合うのを見下ろしている。


すると今度は床下からトカゲが飛び出してきた。 猫も後を追う。 二匹はあっと言う間に運転席の下に潜り込んだかと思うと、間髪居れず何だかバキバキ砕け折れる金属音が轟きわたり、エンジンルームから勢いよく湯気が立ち上った。 続いて何か重いものが地面に落ちる音がする。 同時に一瞬車体の前方が上に跳ね上がった。


それから二匹は何時の間にか屋根の上に居て、今度は天井をすり抜けて飛び降りてきたかと思うと、幽霊トカゲが伊織の股間に飛び込んできた。 幽霊猫は天井からぶら下がったまま 一声「にゃぁ」と可愛らしく鳴いた、様な気がして、、


いきなり車の天井の鉄板が避けて、凄い勢いでひん曲がりながらその切先が伊織と碧に迫って来た


碧:「何、何なのこれ!」


みるみる捲り上がる鉄板の切先は、ギリギリ伊織の寸前で、止まった。 よく見ると何か細い、蜘蛛の糸の様なものが絡み付いていて、鉄板の変形を防いでいる。 蜘蛛の糸?は、何時の間にかそこにいたトカゲの足元、車の天井の布地からまさしく蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


優美:「へぇ、それが貴方の能力なの? 他にはどんな事が出来るのかしら。」


ゴスロリ少女の目配せと同時に、今度は左右両側のリアドア周りのピラーがバキバキ折れて捻じ曲がり、伊織と碧に迫って来た。 これが突き刺さって来たら痛いだろうなぁと他人事の様に想像しながら、何故だか抱きしめた碧の柔かさと髪の心地よい匂いが伊織の全感覚を支配していた。


次の瞬間、車体はすっぱり、まるで漫画のようにすっぱり左右に分断されて、伊織と碧を載せた後部座席を残して、左右に転がり落ちた。 それは粘土細工を細い糸で斬ったみたいに! 


何時の間にかトカゲ達は車の外にいて相変わらず目にも留まらぬ速さで追いかけっこを続けている。らしい。 ゴスロリ少女にはそれが見えていて、確実に目で追えているようだった。


優美:「全くちょこまかと逃げ回って、それでも白虎と並び立つ聖獣の王としての自覚があるのかしら?」


今や左右に転がった かつて車だった残骸の真ん中で、伊織と碧はしがみつき合ったまま 呆然と見ていた。 正確には殆ど見えないので、陽炎のような空気の揺らめきが行ったり来たりするのをぼんやり眺めている。


すると今度は 地面から砂鉄が煙のように巻き上がり、それが数本の針の様に束なったかと思うと、トカゲを串刺しに貫いた。 いや幽霊だからか、実際には刺さったようで刺さっていない。


やがてゴスロリ少女が何か独り言のように唱えると、今度はいきなり稲光がはじけた。 空気の破裂音が耳を劈く。

それが、少女の、いや正確には幽霊猫を中心とした半径5mの範囲で、中華街の爆竹の様に弾けまくった。


その一つがトカゲを直撃する。 ようやくトカゲの動きが鈍くなる。 駄目押しでもう二発、強力な静電気がトカゲの身体を突き刺した。 その度にトカゲの半透明な身体が墨の様に濁り、透明度を増して宙に消え入りそうになる。


優美:「まあ、幾ら青龍と言っても、生まれたての貴方と、レベル2に進化したシロとでは始めから勝負にならないのは分かってたけどね。」


ゴスロリ少女は勝ち誇った表情で幽霊トカゲを見下ろしている。 どうやらこの異常な雷は、あのゴスロリ少女と幽霊猫が意図的に発生させていた様だった。 幽霊トカゲは、よろよろと地面を這い、やがてとうとう動きを止めた。 幽霊猫がそのトカゲを前足で押さえつける。


優美:「もう、お終いなのかしら? 青龍さん。」


幽霊猫は瀕死のトカゲを咥えると、悠々とした足取りで優美の方に戻っていった。 


優美:「いい子ね、捕まえたのね。」

優美:「それじゃあ、最後にもう一つの宿題を終わらせておきましょうか、」


ゴスロリ少女が独り言のように何かをつぶやき、幽霊猫がトカゲに突き立てた牙から強烈な破裂音と共に稲妻が迸った。

幽霊トカゲは今や完全に力を失ってだらりと力なく垂れ下がり。 子猫の口から吐き出されて地べたに落ちた。 


優美:「無様ね、貴方の事はこれから 貧血トカゲ と呼んであげるわ。」


やがて、トカゲはにじんで消えてしまった。


我に返ると、十字架ピアス男が伊織達の方に近づいて来ていた。 碧がしがみつく腕に更に力が入る。 先ほど血反吐をはいた警官の光景が脳裏によみがえってきた。 その警官は、、地面に転がったまま微動だにしない。


伊織:どうする? 戦うのか? 俺が碧を守れるか? いや、幾ら拳法を習い始めたからといって無理だろう、 何しろ3連コンボ技どころか、立ち方しか習ってないのだから、あんな化け物みたいに強い奴に勝てるわけが無い。


幸いな事に、十字架ピアス男の方は、伊織達のことなど全く意に介していない風だった。 車体の残骸にくっ付いた幽霊トカゲが出した蜘蛛の糸の様なものを回収している。 恐る恐る視線を、十字架ピアス男からゴスロリ少女に向けると。 ゴスロリ少女は、少し頬を赤らめた様な表情で、じっと伊織たちを見つめていた。


優美:「全く、いちゃいちゃして、不潔!」

優美:「室戸、用は済んだわ。 帰りましょう」


ゴスロリ少女はそう言い放つと、伊織たちに一瞥をくれて十字架ピアス男と共にその場を立ち去って行った。


伊織:「助かった、のか?」


正確には、何が起きたのか未だに良く分からないでいた。 二人の胸の鼓動が、今になってやけに大きく聞こえてきた。

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