表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

エピソード3 ゴスロリ

Episode3

登場人物

加地 伊織:主人公

吾妻 碧:最近気になる 幼馴染み

三船三十郎:武術の先生

鳥越啓太郎:刑事

難波 優美:ゴスロリ少女

室戸 達也:強すぎる敵


三船:「じゃあ、まず 立って見ようか」

伊織:「立つ、ですか」


武術の練習は基本的に早朝に行う事になっていた。 その後学校に通う。 三船も本業の会社勤めに出勤する。 今日が伊織の練習の初日だった。


三船:「とりあえず、まともに立てなければ、相手を撃つ事は出来ないからな。」

三船:「まともに立つって言うのは、撃った威力を余さず相手に伝えられる姿勢を作るって事だ。」

三船:「だから、最初に立ち方の癖を見て、鍛える必要がある不足した筋肉とか、固まって使えていない筋肉とか、余分に力が入って威力の伝達を阻害している筋肉とかを知っておくんだ」


とりあえず言われた通り、ただ立ってみる。 そもそも、立つ事を意識した事なんてこれまでには無かった。


三船:「先ずは首と肩と腰、これで身体に軸を作る」

三船:「頭頂部を天井に突き当てるように、あごは引く。 次に肩、肩が上がっていると腕の筋肉しか使えないし、敵に腕を取られたらそこで極められてしまう。 まあ、最初は肩甲骨を意識する事も難しいけどな。」

三船:「両腕を真直ぐ上に上げて、耳につく様にぴったり、そしてそのまま肩を降ろしてみて。」

三船:「そうすると腰から下の背骨周りが緩むから、後ろに突き出してる尾骶骨を下からグルッと前に持って来る。 腰の辺りの背骨を後ろに突き出す感じで。 お陰で腹は凹む。」


とは言っても、どうしても爪先立ちになって、何だか太ももの前の筋肉がプルプルする。


三船:「もっと意識して力を抜くんだ。 一旦わざと力を入れて、それから脱力すると分かりやすい。」

三船:「次に手は胸の高さまで下ろして。 その時に肩が上がらないように、それから肘と膝、肘は真下を向くように絞り込んで、膝は敵の方を向くようにする、これで身体の中心からの力を通しやすくする。」

三船:「この格好で楽に立っていられる様になるまで、必要な筋肉を補い余計な筋肉の力は抜いて行く。」

三船:「各関節は固定するのではなく、むしろ何時でも自由に動けるように緩めておくんだ。」


その後、30分間同じ姿勢で立ち続けた。 立っているうちに直ぐに姿勢が崩れるから、その都度注意される。

ただ立つだけなのに、こんなに苦労するなんて知らなかった。



家に帰ると警察からの出頭命令が届いていた。 何だか追加の事情聴取らしい。 しかも最寄の警察署ではなく県警本部まで来いと言う。 まあ他にやることもないし良い天気だったので、外出がてら出かける事とした。 平日昼前の電車はガラガラで、何だかのんびりした気分だった。


一人会議室で待っていると、現れたのはキチンと整えた白髪と鋭い目の小柄な男だった。


鳥越:「待たせてすみません。鳥越と言います。加地君と吾妻さんの傷害事件の担当者です。」

鳥越:「実は新たに他の事件との関連の可能性が出てきましたので、追加で幾つか質問させていただきたい事が出来ました。」


鳥越が特に興味を持ったのは黒衣の女とその儀式めいた行動だった。


鳥越:「その生卵のようなものは、何処から取り出されたか見ましたか?」

伊織:「いえ、よく見えませんでした。」

鳥越:「その後、教室を調べたのですが、言われているような遺留物は何も見つかりませんでした。」

鳥越:「勿論、だからと言って貴方の言っている事が嘘だと決め付けてるのではありませんよ。」

鳥越:「ところで彼らは、何か印、マークのようなものは身につけていませんでしたか? 何か彼らの所属する団体に関係しそうなものを見ませんでしたか?」


1時間ほど同じような事を何度も繰り返し質問された後、ようやく解放された。 思ったより大変だった。


鳥越:「また、お願いするかもしれません。」


もうこりごりだと思いながらロビーへ向かう途中で、偶然? 碧と出会った。


碧:「何、あんたも取り調べ?」

伊織:「ああ、吾妻もか?」

碧:「この後どうすんの? どっかよって行かない? 多分、私服警官の付き添い付きだけど、、」


碧は誘拐未遂&障害、更にはストーカーの被害者なので、先日から警察の警護が付いていた。


伊織:「遠慮しとくよ。」

警官:「吾妻さん、家まで車で送りますので、こちらに来てください。」


しかも送迎付きである。


伊織:「随分待遇が違うなぁ」

碧:「あんたも一緒に送ってもらったら?」

伊織:「普通、ストーカー位でこんなに厳重警備してくれないよな。」


と言う経過で首尾よく碧にくっ付いて一緒に家まで送ってもらう事になった。 後部座席に碧と並んで座る。 パトカーではない小型のハッチバックだった。



やけに、碧がくっついてくる。 触れた太ももがやけに暖かい。


伊織:「ちょっと、お前、幅取りすぎだよ、そっち空いてんだろ。」

碧:「せこいこと言わないでよ。 男でしょ、本当は嬉しいくせに。」


郊外に出た所で、一台の黒い外国製高級ワゴン車が幅寄せしてきた。


警官:「こいつ、いい度胸してるな」


次の瞬間、いきなり自分たちが乗ったハッチバックが制御を失ってスピンした。 まるで遊園地のコーヒーカップのように回転して、大きく揺れながら止まる。 碧は、何時の間にか伊織の腕にしがみついていた。 どうやら車はエンストして、それっきりエンジンがかからないらしい。 先ほどの外国製高級ワゴン車がゆっくりと近づいてきて、直ぐ傍で止まった。


ワゴン車のドアが開いて中から人が降りてくる。 一人は長身の男、一人は小学生位の女子? 二人とも痩せていて、腰まである長髪、嫌味なくらい美形である。 男はグレーのロングコートに十字架のピアス、少女はゴスロリっぽい洋服を纏っていた。 ゴスロリ少女が一瞬伊織の方をちら見して、その後、汚いモノからそうする様にあからさまな仕種で目を逸らした。


警官がパトカーから降りて警戒する。


優美:「そこに女が乗ってるでしょ、出しなさい。」

優美:「邪魔すると怪我するわよ」


警官にむかって、小学生女子の様なゴスロリ少女が凄む。 もう一人の十字架の男の方は、終始無言だった。

私服警官は当然のことながらゴスロリ少女の方は無視して、十字架男の方に話しかけに行った。 何の前触れも無く、男の掌が警官の胸に触れたかと思った瞬間、警官は一瞬のけぞって、そのまま尻餅をついて動けなくなった。 最初は正直何が起こったのかわからなかった。 ただ、仰向けに倒れた警官の腹部を十字架男が踵で踏み蹴って、警官が口から何か血の混じったものを噴き出した処で一気に場が凍り付いた。 もう一人の私服警官も車を降りて警戒態勢に入る。 


警官:「きさま、何をした。」


十字架男を確保しようとして掴みかかった警官をすり抜けて、その背後に回ったと思った瞬間、男の掌が警官の顔をなぞるようになで上げて、そのまま警官の首が後ろに折れ曲がった。 警官は膝を折ってその場にうつぶせに転がる。


拳銃の音が鳴り響いた。 先ほど口から血反吐を吐いた警官が地面に倒れたまま威嚇発砲したのだ。


警官:「おとなしくしないと、当てる。」


その台詞を吐き出すのも精一杯で今にも力尽きてしまいそうだが、必死に拳銃の狙いを定めている。

ところが次の瞬間、その鉄砲の砲身が溶けて崩れ落ちた、様に見えた。


十字架の男はすでに警官に背を向けていた。 反撃など出来ない事を十分に理解している風だった。 続いてゴスロリ少女が伊織たちの乗るハッチバックに近づいて来て、見下すように二人を睨み付けた。 少女の肩に、何か半透明の陽炎のようなものが見えた気がした。


次の瞬間、ハッチバックの後席ドアがヒンジから取れて、地面に転がった。


伊織:「うおっ!」

碧:「きゃっ!」


思わず吃驚して叫んでしまった。 いきなり車のドアが取れたからだが、その後、声も出ない位おかしなものを見る事になる。


白っぽい半透明の実体の無い幽霊の様な、水にすっかり溶け込んだ水溶性ゲルの様な、単なる空気の揺らめきの様な。 それが、ゴスロリ少女の肩、長い黒髪の間からすーっと降りて来て、同じく唖然として何も言えないでいる碧の膝の傍にチョコンと座った。 確かにそれはつぶらな瞳で見上げる子猫の様な姿をしていた。


優美:「わざわざ会いに来てあげたんだから、感謝しなさいよね。」


ゴスロリ少女の視線の先、直ぐ傍らの碧の頭の上に、確かに何かが出現していた。

それは陽炎の揺らめきの様な、かすかに青っぽい半透明の実体の無い幽霊の様な、トカゲ。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ