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エピソード12 リンチ

Episode12

登場人物

加地 伊織:主人公

木下 兆次:ちょっと不良だけど比較的ノーマルな男

小浜 哲郎:コロウの変態ドS男

難波 優美:女王様の様に見下ろす少女


いまや木下は、まな板の上の鯉よろしく息も絶え絶えに転がっていた。 コロウの若い連中が6人がかりでその手足、体を押さえつける。 スマートフォンを構えて一部始終を撮影しようとしている奴が居る。 後で、これから起こる惨劇をネットにでも流すつもりなのだろうか。


伊織:良いのか、このままで良いのか。

伊織:知り合いが目の前で無理やり傷つけられようとしているのを、ただ 黙って見ていて、俺は平気なのか。


残る二人は、既に涙目になって処刑の風景を凝視している。


伊織:俺は、これから先、そんな恐怖と後悔におびえ続けながら生きていけるほど強いのか?


やがて、ナイフを持った男が現れた。 アクション映画で見るような大きなランボーナイフである。


小浜:「さあ、どこが良いんだ? 自分ではっきり言ってみな。」

木下:「ぉおおお! うぉおお!!!」


木下が、叫んでいる。 身体をよじって逃れようとするが、押さえつけられた身体はびくともしない。


小浜:「あんまり暴れると、余計なところまで切っちまう事になるぜ。」


小浜はニヤニヤと笑いながら、木下の顔面を押さえつけた。

伊織:こいつは、こいつらは、普通じゃない。


伊織:「まて、…まて、…待てぇ、待てぇ!」


気がついたら、何時の間にか自分は立ち上がっていた。

恐怖の為か、最初の方は殆ど声が出ていなかった。 自分でも、歯が震えて噛み合ってないのが分かる。

一瞬、辺りが静まり返った。


伊織:「お、お前ら、…ず、ずるいじゃないか、…何人も入れ替わって、 こ、こっちは一人きりなのに、」

男4:「何だと、こらぁ。」

男5:「何言ってんだぁ、こいつ。」


小浜が、こっちを見た。 自分の事を値踏みしている様だ。


小浜:「お前も、…やるってのか?」

男6:「小浜さん、こんな奴の話、聞く事ぁないっすよ。」


空手使いの羽田が、つまらなさそうに自分をチラ見する。 口元が笑っている。

小浜が立ち上がり、自分の方に近づいてきた。


小浜:「良いだろう、特別サービスのおまけだ。」

小浜:「但しお前が後二人抜けなかったら、あいつとお前二人を処刑する事になるが、文句は無いよな?」


これ見よがしにナイフをちらつかせてくる。

周りの怒号が治まらない…と言うよりも、こんな弱そうな相手なら自分がやりたいと言うのが本音かもしれない。


小浜:「いいか! こいつはまだビビっちゃいねえ。 誰一人として、コロウをなめたまま帰す訳にはいかねえ!」

小浜:「それとも、お前、ドMか?」


威嚇する様に睨みつけながら小浜が下がり、代わりに木下を一撃で葬った羽田が出てきた。 結構でかい。 自分は160cmあるかないか、羽田は、ゆうに180cmは超えていそうだった。 先ほどの木下との勝負を見ても、こいつは相当の空手の実力の持主であろう。 一方こちらは…いくら拳法を習い始めたからと言っても、未だ立ち方の練習しかしてないド素人である。


伊織:一撃でもまともにくらったら、それで終わりだ。


頭の中では、少しでも助けになりそうな三船の言葉を捜している。


三船:「相手が強ければ強いほど、その相手の力を利用する事を考えるべきだ。ボクシングで言うカウンターだな。」


しかし自分はパンチの打ち方なんて知らない。 どうすれば、相手の力だけで戦えると言うのだろうか?


あっと言う間に、羽田の中断突きが腹に突き刺さる。


伊織:早い。 見えない。 こんなもの、どうやって捌けば良いってんだ。


辛うじて戦意は保てている。 滅茶苦茶痛い。 後から後から痛みがグイングイン体内にねじ込んでくる。

羽田は、未だ小手調べのつもりか、いや、というよりも一撃で終わらせずになぶり殺しにするつもりの様だった。 余裕の笑みを浮かべながら、素早く間合いを詰めてくる。


残念な事に、自分は未だ、歩き方を習っていなかった。 どたどたと後ずさりするが、あっと言う間に間合いに入られて、狙いを定められ、…胸の上に打ち込まれる。


不思議と未だ耐えられている。 羽田が加減しているからか、こっちが打ち込まれる事を予め分かっているからか。


伊織:そうか、こいつは、…素人だ。


空手の真似事をしてはいるが、技が単調で予測しやすく、威力は表面破壊に留まっている。 予め覚悟していれば、相当な打撃にも耐えられるとはこういう事なのか。


伊織:大体、まじめに空手をやっている奴が、不良なんかやってる暇があるわけが無い。


再度、羽田が構える。 羽田の視線は…見るからに上段突きだ。

動き出しの腰の回転を見る。 羽田の引き手に合わせてこちらの両手を前に伸ばして…


伊織:力を抜け! 肩を落とせ!


自分の心の中でそう念じながら、間接を緩める。 見えている突きをかわす事は、丸っきり不可能な事ではない。

…打ち込んでくる羽田の腕に自分の両腕をあずける。 押し込まれるままにしゃがみこむ。


伊織:力を逃さない為には、正しい姿勢と正しい筋肉!


撃ち終わりの羽田の懐に向かって、立ち上がる!

カウンターで、頭突きが羽田の顎、首?を捉えた。 二人の身長さも幸いした。


不意を突いた反撃に、羽田の顎はカチ上がり、体制を崩して膝を突いた。

一瞬で辺りは静まり返った。 何が起きたのか、誰にもわからない様だった。


急いで体勢を立て直す。 手ごたえはほとんど無かった。 羽田は直ぐに立ち上がってくるだろう。 更に同じ手が二度通用するとは思えない。


ところが、羽田は動かなかった。 いや、動けなかった。 そのまま、うつぶせに倒れて、沈黙した。

自分でも一体何が起きたのか分からなかった。 やった自分自身がパニックだった。 やがて、辺りが騒然とし始める。

数人が羽田に近寄る。 未だに、羽田はピクリともしない。


伊織:始めて、人を傷付けた。 …人って、こんなに簡単に傷つくんだ。


小浜が、誰かと話をしている。 誰かを呼びに行かせた様だった。 多分、確実に勝てる誰かを。 羽田が負けることは小浜にとっても予想外だったのだろう。


そうして、ガタイのデカイみるからに鍛えてそうなのが現れた。 もはやアメフトの選手か、…プロレスラー。


小浜:「やれ、遊びは無しだ!」


そいつがゆっくりと間合いを詰めてきた。 殴りかかるでもなく、蹴るでもなく。 どちらかと言えば大人が幼児を捕まえるみたいにして、、 つかまらない様に逃げ出そうとしたが、予想外に機敏に反応して来る。 あっと言う間に周囲を取り囲むコロウのメンバーの所まで追い詰められて、…あっけなく捕まった。


腕をとられて、必死に引き戻そうとした。 その瞬間に肘をねじ上げられて、腕を背中に回される。 そのまま膝をつかされて、今度はごつい腕を首に回してきて、絞り込まれた。 所謂チキンウィングフェイスロック、…という体勢に持ち込まれて、アッと言う間に落ちた…つまり、気を失ってしまった。


何秒経ったのだろうか、気がつくと額を地面に擦り付けられていた。 相変わらず肘は背中にねじ込まれて極められた状態のままで、完全に動きを封じられている。両膝をついて、尻を突き出す哀れな格好だ。


小浜:「お前みたいなのに良い様にやられたって事になると、コロウの箔が落ちちまうからな。」

小浜:「一生今日の事を悔やむ様に、二度と忘れられない印を付けてやるよ。」


誰かが、ズボンを脱がしている。 それどころでは無い。 下着まで脱がされて、下半身を素っ裸にされる。 相変わらず首は絞められていてまともに息ができない。 下半身を露出させられた位の事は、はっきり言って二の次だった。 次の台詞を聞くまでは…。


小浜:「誰か、ライター持って来い。」


何か、オゾマシイ事が行われ様としている。 尻を突き出したままの格好で両膝をつかされて、しかも両足を思い切り開かされて二人がかりで押さえつけられている。 …ジッポに火が着く音がした。


小浜:「焦げるまではやらないで置いてやる。 そうだな…もし自力で火を消せたら、そこまでで終わりにしてやってもいいぜ。」


連中の笑い声が頭蓋骨を響き渡る。 何を燃やそうとしているかなんて想像したくも無かった。 誰かこんな酷い仕打ちを受けた自分を、可哀想だと哀れんでくれるだろうか?


伊織:この、馬鹿野郎!


その時、この場には到底似つかわしくないものが視界に入りこんできた。 エナメルの靴と白いひらひらの靴下。 裾の長い黒の…ゴスロリの衣装。



優美:「少しは やるかと思って暫く様子を見てたのだけど、所詮ミジンコはミジンコだった、と言う事の様ね。」


男7:「誰だ、こいつら?」

男8:「ゴスロリ? いかしてんじゃない?」

男9:「こいつらどっから沸いてきたんだよ? 誰か、知り合いか?」


予想外の乱入者にコロウのメンバー達がどよめき始めた。


優美:「うるさいわね、あんた達みたいな汚いのが知り合いなわけ無いでしょう?」


わずかに動く視線の先に、その少女の表情を見つけ出す。


優美:「ねえ貴方…「お願いします、何でも言うこと聞きますから助けて下さい。」って、泣いて頼むなら、助けてあげても良くてよ。」


相変わらず嫌味なくらい美形で、勝ち誇った様に見下ろしていた。

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