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エピソード11 タイマン

Episode11

登場人物

加地 伊織:主人公

木下 兆次:がんばる不良グループの頭代理

小浜 哲郎:残忍なコロウのリーダーっぽい男


伊織:俺は、なんでこんな所に居るんだぁ? 何か変じゃないかぁ??


一秒で状況を整理する。 今は深夜2時過ぎ、ちょっといい雰囲気な碧との密会の帰り、何故だか通りかかったコロウのアジト、何故だか既に中に閉じ込められている。 傍に居るのは学校の不良グループのNo2木下、とその連れ二人。 自分達を数十人で取り囲んでいるのは、最近売り出し中の不良グループ コロウ、一部ではタイガーウルフとか呼ばれている。 そして、現れたリーダー風の男。


小浜:「俺の名前は小浜哲郎、まあ…偽名だがな。」


再び周囲からどよめきが上がる。


小浜:「まあ、そんなに心配すんなって、俺達だって常識ある立派な人間なんだぜ、皆殺しにしようなんて考えちゃいねえ。」


小浜:「ここは穏便に、タイマン勝負といこうじゃないか。 30対4じゃ嫌だろう? だから、1対1だ。」


木下:「う、嘘付け、…てめえ、なに考えてやがる。」

小浜:「嘘なもんか、しかもスデゴロだ。 得物は無しだ。 お互い大怪我しちゃまずいだろう?」


木下は小浜の「人中」目掛けて木刀を構え直した。


小浜:「お前達が何の目的でここに着たのか、は取り敢えずおいといてやる。 まあ、言ってみれば道場破りみたいなもんだろう。 お互いに自分達のどっちが強いか、それがはっきりすれば良いんだろう? 俺らの場合。」


小浜がじりじりと間合いを詰めてくる。


小浜:「こっちは30対4だって構わないんだぜ。 でも、こっちの言い分を聞いてくれたら、タイマン勝負で見逃してやるって言ってるんだ。 つまり、うちの若い奴らに真剣勝負の喧嘩って奴を教えてやりたいのよ。」


今や、木下の木刀は、小浜の顔に触れる寸前の所まで近づいている。 今打ち込めば、確実に手傷を負わせる事が出来るだろう。 しかし、木下は躊躇し続けていた。 周囲にのまれたからか、もしかしたらこの男の言うとおりにタイマン勝負をすれば、無事にこの場を切り抜けられると思ってしまったからか。


小浜:「但し、5人抜きだ、タイマン勝負でうちの若い奴を5人のしたらお前らの勝ちにしてやる。 そしたら、帰っていい。」


木下:「ほ、本当か。」


5人ならやれるかもしれない、木下はそう考えたに違いなかった。 木刀を握る手から、見る見る殺気が失せていく。


小浜:「本当だ、但し、お前らが5人抜けなかった場合は、コロウに勝負を挑んで負けたって証拠を残させてもらうがな。」

小浜:「なあに、顔でも、腕でも、脚でも、どこでも好きなところを選ばせてやる。 ちょっと、一生残る傷って奴をつけさせてもらう。 まあ、少し心が痛むかも知れんが、それも5人勝ち抜けなかったら、って場合だけだ。」


これが、奴らのやり口なのだ。 自分達のメンバーへの被害は最小限に抑えつつ、最終的には必ず勝てる。 しかも効果的に「コロウは怖い。」と言う噂を広める事ができる。


小浜:「分かったら、さっさと得物をしまいな。 おい、遠藤! お前からだ。」

遠藤:「オス!」


空手のような掛け声と共に、比較的小柄な男が前に出てきた。


最も始末に終えないのは、5人と言う全く可能性が無い訳でもなさそうな人数。 それと、それ程強そうでも無い相手。 最初から勝負にならない人数と相手なら、木下だって木刀を手放したりはしなかったかもしれない。



周囲をコロウのメンバーに囲まれた工場内の空き地で、木下と遠藤が対峙していた。

自分と、不良グループの他二名は、地面に座らされて勝負を見ている。 いや、見させられていた。


流石に木下は強い、強烈な右フックが見る見る遠藤の顔面を血まみれにしていく。 鼻血を流し、口からも血とよだれを垂らしながらも、遠藤はひるまず果敢に攻め込み続ける。 小浜は、一方的な試合にもかかわらず全く気にしていない風だった。 


普通の人間が人間を殴るというのは想像以上に体力を消耗する。 一発一発のパンチに渾身の力を込めて、知らず知らずも全身の筋肉を絞り上げていくからだ。 それに、最初から殴られる事を覚悟している人間を殴って黙らせるのは容易ではない。 闘争心が萎えない限り、ナカナカ人間は沈黙しない。 


それでも、木下は、十数発の渾身の一撃を加え続けてようやく遠藤を気絶させた。 相手から受けたダメージは全く無いが、早くも息が上がり始めている。


小浜:「次、正木!」

正木:「オス!」


今度も、それ程背も高くない、どちらかと言うと細身の男が前に出てきた。 木下の気勢は衰えていない。 再びアップライトに構える。


ところが、今度は少しかってが違ってきた。 正木という男、見かけによらず何かの拳法に通じている風な構えを取っている。 突きも早い。 一発一発に重みは無さそうで、木下はそれらを腕でブロックしつつ間合いを詰めていくが、 近づいて打ち込もうとしたところで、一瞬早く正木が下がる。 その度に木下のパンチは空を切る。 その攻防を数回繰り返す。 


やがて正木の攻撃にバリエーションが増えていく、顔面狙いオンリーから、顔面、腹の使分けで散弾のような突きを散らばせてくる。 時折、腹部にパンチを受ける。 木下はそれを物ともせずに打ち返す。 正木は休まずに撃ち続けてくる。 奴は、一撃で仕留めよう等とは考えていないようだった。 とにかく撃ち続け、避け続ける。 むしろ木下のパンチを避けるのが主で、自分の突きはついでみたいなものである。 ダメージを与える事など考えていない。


木下:「こいつ、いい加減にしやがれ!」


木下は叫ぶと、突進して正木を突き倒した。 ようやく捕まえた正木の脚を捉えて引きずりこみ、馬乗りになって顔面を叩き続ける。 10発、20発。 正木の顔が見る見るはれ上がっていく。 既に戦意は喪失しているようだった。



小浜:「次、佐々木!」

男1:「便所でーす。」

男2:「ウンコでーす。」


次の相手が現れないらしい、 このインターバルを利用して木下は息を整えていた。

しかし、同時に、拳の傷が痛み始めたようだった。 


空手家の様に、拳を鍛えて居ない限り、人間の拳はそれ程強くない。 人間を何十発も本気で殴れば、あちこち皮が擦り向ける。 戦い続けている間は泣き言 言ってられないから、アドレナリンのお陰で痛みも疲れも二の次になっている。 しかし、一旦緊張が緩むと、途端に痛みも疲れも押し寄せてくる。 そうして今度は、身体は傷付いたままで戦い続ける事を避けようとする。 逃げる事が正しい選択なのだ。 しかし取り巻く状況は、身体が思う通りには進んでくれない。


男3:「佐々木! 出番だぞ」

佐々木:「おーわりい。」



現れた男は、ガタイのしっかりした、しかも、相当鍛えた体つきをしている。 どうやらボクサーらしい。 軽くシャドーボクシングしながら近づいてくる。


伊織:「木下、大丈夫か?」

木下:「ああ、心配いらん、お陰でコッチも、休憩出来た。」

そう言いながらも、まだ息が整っていないままだ。 皮が剥けて血が滲んだ両拳をギュッと握り込む。


佐々木のパンチは半端無く早く、重かった。 木下が始めてまともに顔面にパンチを食らう。 はたで見ていても確実にダメージを受けているようだった。 しかも、木下のパンチはいっこうに当たらず宙を切る。 絶妙なタイミングでよけられている。


更に一発。 鼻を打たれて、涙が噴き出す。 別に戦意が喪失したわけではないが、生理的にどうしようもない。 木下が折れた歯を、吹き出した。


今度は佐々木のボディブロー。 木下の動きが止まる。 一瞬、息が止まる。 すかさず佐々木のラッシュが来る。 それに合わせて手をだそうとするが、間に合わない。 更に顔面に二三発食らう。


少し離れたかと思ったら、再び佐々木のボディブロー。 完全に、木下の足が止まった。 膝が震えている。 追い討ちをかける様に佐々木の綺麗なワンツー、木下はこれをこめかみに食らう。 必死の形相で耐えている。


また少し離れて、飛び込みざまのボディブロー、流石に三度同じパターンなら反応できる。 佐々木のパンチに合わせて、木下のパンチが始めて佐々木の顔面に決まった。 しかもカウンターだ。 思わずよろける佐々木、たたみかける木下、左フックが顎に決まり、あっけなくダウン。


木下は倒れた佐々木の上に馬乗りになると、鼻を殴る。頬を、顎を殴る。5発、10発、15発。

ようやく、佐々木が沈黙する。



小浜:「次、羽田」

羽田:「オス。」


次は空手家らしい。

木下は、完全に息があがってた。 ボクサーでもプロレスラーでも無い普通の高校生、しかも日頃から部活で鍛えている訳でもない。 スタミナなど、最初からたかが知れている。


伊織:これじゃ、まるで闘牛だ。


本命と戦う前に、武器である拳は傷つき、スタミナも尽きている。 しかも木下の身体は既に戦いを避け始めていた。

当然動きも緩慢になる。 腕にも力が入らない。 


それでも木下のパンチが、羽田の顔面を捉えた。 羽田は全く避ける様子も無く、まともにそれを顔面で受け止める。 ビクともしない。


同時に羽田の中段前蹴りが、モロに木下の溝うちに入っていた。


散々パンチに慣らされた処へ、自分の繰り出したパンチの死角、しかも蹴りの軌道からの一撃。 全く予想できなかった。


木下はとうとう倒れて、何も言えなくなる。 息が出来ないらしい。 よだれを吐き出しながら呻いている。


小浜:「こんなものか。 …おい!ナイフ持って来い。 ビデオも準備しろ。」


倒れた木下の傍に小浜がしゃがみこみ、傷だらけの木下を見下ろしながら薄ら笑いを浮かべた。


小浜:「約束通りやるのは一人だけだ。 お前頑張ったからな、全部とは言わねえ、耳なら片っ方の半分、鼻なら四分の一、指なら一本、爪から先を切り落とす。 どこでも好きなところを選ばせてやるよ。 なあに、直ぐに病院に行きゃ、大体元通りになるさ。」


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