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エピソード1 はじまりの傷

Episode1

登場人物

加地 伊織:主人公

古城 隼人:幼馴染み その1

吾妻 碧:幼馴染み その2

三船三十朗:武術家


今日は中間テスト終了日、今まさに終了のベルがなって切り詰めていた緊張感から開放され、全身を気だるさの成分が行き渡る。 それから少しして冷静に状況を把握出来る様になると、今度は出来の悪さに対する後悔が押し寄せてきた。 自分の成績は中の下位、だと思ってる。 ギリギリ赤点は取っていないくらい。


隼人:「終わったな、伊織、どうだった?」

伊織:「どうもこうも無いよ。いつもとおんなじ」


隼人は小学校からの幼馴染み。勉学優秀スポーツ万能、家は総合病院を経営していて、父親は町の顔役。 ルックスもスタイルもそこそこ整っているから女子からも結構人気がある。 そして、学校で唯一自分に声をかけてくれる友達、みたいなものである。


隼人:「俺もいつもと同じかなぁ、今考えると一問だけ確実に間違ったんだよな。」


何でも上手く出来る隼人を妬ましく思う。 そこへ突然、他のクラスから柄の悪い連中がなだれ込んで来た。 一瞬、クラスの雰囲気が凍りつく。


不良:「古城さん! 試験終わったんすから、南高と揉めてる件、よろしくお願いしますよ!」

隼人:「わぁってるよ。一寸位、この開放感を楽しませろよ。」


そして隼人は当学校の不良グループの頭でもある。



同級生たちはテスト終了で友達とツルンデ遊びに出かける。 自分にはそういう友人が居ない。 もともと背も160cmあるかないかで長身と言う程でもないし、どちらかと言えばメタボ体型、運動神経には全く自信が無いし、顔も平面で一重のつり目、お世辞にも格好良いとは言えない。 そんな外見よりも何よりも、人と付き合うのが苦手なのだ。 一人でいる方が何かと気を使わなくて済むし、落ち着く。 だから当然、友達はいない。


クラスでは普通らしくやれていると思う。 でも、気がつくと何時も一人である。 時々は少し寂しかったりもする。 にぎやかなクラスメイト達の話し声を通り越して、一人静かに帰宅の途につく。 大体毎日自転車通学だ。


帰り道、踏み切り待ちで小学校の時の知り合い(悪友) 碧 に会った。


碧:「よう!久しぶり、あんたも中間終わり?」

伊織:「吾妻。 久しぶり」


碧も隼人と同じ小学校時代の幼馴染で自分が唯一タメ語で話せる同学年の女子だ。


碧:「珍しいねぇ、あんたに会うなんてさ、何年ぶり? ちょっとお茶していかない?」

伊織:「えっ? お茶?」

碧:「言っとくけど、こっちから誘ったからって奢りは無しだかんね、割り勘にするからさぁ、公立(高校)の話、教えてよ。」


その時、二人の女子(知り合いの部活の後輩らしい)が碧に近づいてきて手紙を手渡した。


女子:「これバレーの中祖先輩から渡してくれって頼まれました」


碧はその場で手紙に目を通し、急ぎ自転車の方向を変えたかと思うと元来た道を戻り走り出した。


碧:「伊織、ゴメン、野暮用が出来ちゃった。 また今度ね」

伊織:「相変わらず慌しい奴だなぁ」


碧は昔から活発で、何に対しても積極的で、だから問題ばかり起こしていた。


踏み切りが開いて渡ろうとしたその時、先程の二人の女子が隣を通りすぎ際に歩きながら携帯で誰かと話しているのが聞くとも無しに聞こえた。


女子:「吾妻は計画通りそちらに向かいました。はい、疑ってる様子は有りません。」


その話し方が余りにも業務連絡っぽいので、何だか違和感を覚えた。


自分はどちらかと言うと心配性な性質である。 学校のイベントには30分以上前に着いていないと不安だったし、家を最後に出る事になった場合には、一旦家を出て鍵をかけた後からもう一度戻って電気ガス戸締りを再確認する、なんてしょっちゅうだった。


気がつくと碧が向かった後を追っていた。


伊織:「どうせ暇だからな。」


正確には何か理由は分からないけれど不安なモノを感じたからだ。 あるいはせっかく久しぶりに再開した碧とこのまま分かれてしまうのが少しもったいなかったからかも知れない。 碧は学校の方に引き返して行った様だった。 彼女は駅前にある私立の中高大一貫校に通っていた。 特に確証があった訳でもなく碧の学校の前まで来てみたが、やはり姿は見えない。 あきらめかけて引き返そうとしたその時、駅前の学習塾の前に碧の自転車を見つけた。


伊織:「なんだ、塾か、」


学習塾なら特に問題はなさそうだと思い改めて帰りかけたその時、今度はいかにもガラの悪そうな二人組みの男が塾の中に入っていくのが見えた。 


伊織:「やっぱり、何か変だ、」


決心して学習塾の中に入る。 後先考えないで行動するのも自分の悪い癖だった。 不思議とロビーには誰も居ない。 見ると張り紙が去年のままである。 どうやら今は使われていない塾らしい。 奥で誰かが言い争ってる声が聞こえた。

声のする方へ向かうと、幾つか並んだ教室の一つから、今度は女性の叫び声?わめき声が聞こえてきた。


何時の間にその教室にたどり着いたのか記憶が定かではない。 我に返ると、教室では碧が羽交い絞めにされ、左手の掌を十字に切り裂かれていた。 流れ出すその血の上に、黒衣の女が何か生卵のようなものを垂らしているのが見えた。


伊織:「何をやってるんだ?」


卵の黄身が傷口に吸い込まれていくように見えた。それは本能的に危険な尋常ならざる光景だと悟った。


伊織:「止めろ!」


一切の危険も顧みず叫んでしまっていた。 すぐさま如何にも柄の悪そうな二人の男が現れた。


男2:「なんだこいつ。」


いきなり襟元をつかまれて、吊るし上げられる。 男の表情がゆがんだ笑い顔になる。


男1:「知り合いか?」

男2:「いや、こんな奴、見たときねえ。」


そのまま顔面を殴られた。一発、二発、口の中に血の味がし始める。もう一発。


碧:「伊織!」


碧が泣きながら叫んだ。


男1:「面倒だぜ、こいつ事務所につれて行って始末しよう」

男2:「その前に、俺にもやらせろや」


もう一人が伊織を取り上げて力いっぱい顔面を殴りつける。 その反動で教室の端まで転がる。 男が近づいてきて、更に蹴る。 踏みつける。


男2:「おもしれぇ、肉バッグみたいだ。」


惨めだが、肉体的には耐えられない痛みでもない、今は、何とかして碧を助けないといけないと分かっていた。 蹴ってくる男の足を掴んで、ねじってひっくり返す。


男2:「この野郎!」


油断していた男は見事に尻餅をついた。 その隙を見て這い上がり、廊下の方に逃げ出す。


男2:「待ちやがれ」

男1:「馬鹿野郎、逃がすんじゃねぇ」


ヨウヨウノ体で廊下を走る。決して足が速い方ではないが、必死だった。 何度か掴みかかってくる不良の手を振り解き、学習塾の玄関にまで到達する。


伊織:「誰か! 助けて。」


そこでとうとう捕まった。 後手にねじ上げられてロビーの奥に引きずられ、顔を床に押し付けられて何度もたたきつけられた。


男2:「この野郎、ふざけやがって!」


一体、何人の人間が助けを求める声を聞いてくれただろうか。 その後が酷かった。 いきなり口を押さえつけられ、左手のひとさし指をきつく握られて、折られた。


伊織:「うぅうぅうぅううぐうぅ」


閃光の様な衝撃は一瞬で、その後はじわじわとどうしようもない痛みが湧き出して来た。


男1:「いいか、もう一本折られたくなかったら、おとなしくしろ」


そう言いながら伊織のわき腹をつま先で蹴り上げる。


伊織:こいつら滅茶苦茶だ。何でこんな処に俺はいるんだ。この後、俺はどうなってしまうんだ。


床に押し付けられたままの顔で、誰かの足を見た。 ミドルカットのトレッキングシューズだった。


男2:「何だお前、何見てんだよ。」


何が何だか分からない内に男達は倒されていた


三船:「大丈夫か?」


ようやく腕の自由が戻ったが、膝を抱え込んだ格好のまま動けない。


伊織:「塾の中に友達が、助けて 下さい」


碧は教室で一人うずくまっていた。 左手の掌からは、未だ血が流れ続けている。 悪党達の姿は既に無かった。 三船に倒された二人の男の姿も見当たらない。



碧と共に警察で手当てを受ける。 その後別々に事情聴取。 迎えに来た碧の親が伊織に言いがかりを付けようとしたのを碧が制止した。


碧:「加地君は私を助けてくれたのよ」


別れ際に碧と連絡先を交換した。 学校、塾、病院、両親以外で始めて入手した携帯の連絡先だった。


碧:「電話するから」


何だか、とんでもない一日だった

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