第9話
(翌月、馬場レースを二日後に控えた日に父さんは帰ってきた)
父さん
『ただいま・・・』
みきお
「おかえりなさい!父さん! ねぇ父さん、
馬場レースにハナも出るんでしょ?ボク応援に行ってもいい?」
父さん
『ああ、好きにしろ・・・オレは疲れたから寝る・・・』
(そう言うと、父さんは奥の部屋へヨタヨタ歩いていってしまった・・・
顔も赤いし、すごくお酒臭い・・・どうやら酔っ払っているようだ)
みきお
「ねぇよしお兄さん、父さん・・・どうしちゃったんだろうね?」
よしお兄さん
『・・・ただ酔っ払ってるだけだろ?そんなことよりみきお、犬の散歩の時間だぞ!』
みきお
「あ、ほんとだ!日が暮れる前に行ってくるね!」
(みきおはチビを連れ田んぼのあぜ道へ走りに行った、そして田んぼの奥にある
大きな木の下で一休みしてチビをあやしながら、なにかいつもと違う父さんを心配していた)
みきお
「なぁチビ、父さんどうしちゃったんだろう・・・
なんかすごくお酒臭くて、すごく怖い顔してたんだ・・・
何かあったのかな・・・あんな父さんボク初めて見たよ・・・」
チビ
『ク~ン ク~ン』
(チビは優しくなぐさめるようにみきおのほっぺを舐めた)
みきお
「チビ、ボクよくわからないんだけどすごく嫌な予感がするんだよ・・
何か良くないことが起きそうな・・・」
チビ
『ワン ワン ワン ワン』
(チビはみきおを励ますような声でやさしく吠えた)
みきお
「うん、ありがとうチビ!ボクあまり気にしないで元気出すよ!」
(みきおとチビは夕暮れのあぜ道をじゃれあいながら家へ帰った)
みきお
「チビ、たくさん食べて早く大きくなるんだぞ!ボクに駆けっこで勝ったら、
駆けっこで勝ったら・・・勝ったら・・・・そうだ!
チビにもアイスキャンデー食べさせてあげるよ!すんごく甘くてうんめぇんだぞ~
チビもきっと大好物だと思うよ!まぁ、ボクに駆けっこで勝てたらの話しだけどね~
それと、アイスキャンデーの話しは、他の誰にも内緒だぞ!絶対だぞ!」
チビ
『ワン!』
みきお
「じゃあボクもご飯食べてくるから、チビまた明日ね!」
チビ
『ワン!ワン!』
(囲炉裏で皆ご飯を食べているが、母さんの姿が見えない)
みきお
「よしお兄さん、母さんは?」
よしお兄さん
『なんか、さっき父さんに呼ばれて奥の部屋へ行ったっきりだよ・・・』
みきお
「ふ~ん、何か大事な話しでもしているのかな?」
よしお兄さん
『知らないよそんなの、でも父さん・・機嫌悪そうだったなぁ・・・』
みきお
「母さん、大丈夫かなぁ・・・ボク様子見に行ってこようかな・・・」
よしお兄さん
『バカ、やめとけ!いいからさっさとご飯食べちゃえよ!』
みきお
「うん・・・・・」
(その夜、みきおが寝るまで母さんは一度も奥の部屋から出てこなかった・・・
そして翌朝、みきおがチビを散歩へ連れて行こうと外へ出ると、珍しく外の水道で
顔を洗っている母さんの姿を見かけた・・みきおは母さんに近づきながら元気に声をかけた)
みきお
「おはよう!母さん」
母さん
『おはよう、みきお・・』
みきお
「え?・・・母さんどうしたの??その顔!」
(みきおは母さんの大きく腫れ上がった顔を見てびっくりした)
母さん
『ああ・・・これかい? ちょっとぶつけちゃってね・・・』
みきお
「そんなに腫れるほど・・・どこにぶつけたのさ」
母さん
『・・・転んでテーブルにぶつけただけだよ、心配いらないよ』
みきお
「心配するよ!すごく腫れてるんだもん、ほんとにテーブルにぶつけただけなの?」
母さん
『ええ、ほんとにテーブルにぶつけただけだからたいしたことないよ
それよりどうしたんだいみきおは?犬の散歩じゃなかったのかい?』
みきお
「うん・・・散歩だけど、母さんが心配で散歩どころじゃないよ・・・」
母さん
『母さんなら、ほらこの通り大丈夫だからお前は散歩へ行っといで』
みきお
「ほんとに大丈夫なの?母さん・・・」
母さん
『大丈夫だから、ほら行っておいで!』
みきお
「わかったよ母さん、じゃあボク行ってくるね・・・」
(母さんが心配な気持ちを堪えながらチビを連れて散歩へいくみきお)
みきお
「なぁ チビ、母さんほんとに大丈夫なのかな・・・」
チビ
『ワン!ワン!』
みきお
「・・・チビはのん気でいいなぁ 母さんほんとにテーブルにぶつけただけなのかな・・・
テーブルにぶつけただけであんなに顔中腫れるものなのかな・・・」
チビ
『ワン!ワン!ワン!ワン!』
みきお
「わかったよ、いつものように走ればいいんだろ!
ほら!ついて来いチビ!モタモタしてると置いてくぞ!」
チビ
『ワン!ワン!』
(散歩を終えて戻ると、よしお兄さんが入り口に立っていた)
みきお
「おはよう、よしお兄さん」
よしお兄さん
『みきお、どこ行ってたんだ!母さんが大変なときに!』
みきお
「え?どうしたの?・・やっぱり母さんに何かあったの??」
よしお兄さん
『朝、みきおは母さん逢ったんだな・・・母さんが台所で倒れたんだよ、
今、かずお兄さんが病院へ連れていってるところだよ』
みきお
「母さんは大丈夫なの? ねぇ母さんは大丈夫なの??」
よしお兄さん
『そんなことオレにも解らないよ、とにかく母さんすごい熱なんだ・・・
かずえ姉さんと、たかこ姉さんも一緒に病院へ行ったからとしお兄さんとオレで
朝ごはん作るしかないんだ・・・みきおも犬の餌やり終わったら朝ごはんの支度手伝えよ』
みきお
「うん、わかった! 母さん大丈夫かな・・・あれ?そういえば・・・父さんは?」
よしお兄さん
『それが・・・さっきからずっと探してるのに、どこにも見当たらないんだよ・・・』