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第30話

(高校の先生が帰ったあと、みきおは一人木の上で考えていた)


みきお

「高校の陸上部か・・・でも勉強もしなくちゃならないんだよな・・・

 でも学費がかからないなら母さんにも迷惑かからないしな・・・

 先輩は県大会で優勝したのか・・・

 オレだって頑張ればそのくらい速くなれるのかな・・・

 でも家の仕事がたくさんあるから部活なんて無理だろうな・・・

 家の仕事と両立しながら部活なんて出来るのかな・・・

 でも更に速くなった先輩ともう一度勝負したいな・・・       」




『おーーい、みきお!何してんだそんなところで』


みきお

「あれ?としお兄さん・・・ もう仕事帰り?」


としお兄さん

『・・・ああ、まあな

 それよりみきお、みきおに頼みたいことがあるんだけどいいか?』


みきお

「いいけど・・・なに?」


としお兄さん

『誰にも秘密にすると約束出来るか?』


みきお

「え?どうしたの?」


としお兄さん

『誰にも絶対秘密にすると約束できるか?』

(としお兄さんはいつになく真剣な表情で念を押すように言った)


みきお

「・・・うん、誰にも秘密にするよ!」


としお兄さん

『今日の夜中、誰にも内緒でオレの手伝いをしてくれ』


みきお

「夜中に?どういうこと?」


としお兄さん

『今夜、オレは家を出るつもりなんだ!』


みきお

「え??家を出るって・・・どういう意味?」


としお兄さん

『オレは家を出て、新しい職場の寮に住み込みで働くつもりなんだ』


みきお

「新しい職場って・・・今の会社はどうするの?」


としお兄さん

『今日、辞めて来た! 明日のうちに引越しを済ませ

           明後日から新しい職場で働くことになってるんだ!』


みきお

「そんな急に・・・ 母さんは知ってるの?」


としお兄さん

『バカ、誰にも秘密だとさっきから言ってるだろ』


みきお

「そんなことしたら母さん、きっと心配するよ」


としお兄さん

『落ち着いたら母さんには手紙を書くつもりだ』


みきお

「でもとしお兄さん、なんで内緒で家を出ないといけないの?」


としお兄さん

『・・・オレは高校に入ってすぐ、オヤジの借金のせいで高校を辞めて

 働き出したのは知ってると思うけど、その後ずっとオレは給料を全部家に

 入れ続けていたんだ・・・

 苦しい家の為に、母さんの為にと思って辛抱してきたのに・・・

 あのクソオヤジときたら・・・       オレはもう限界なんだ・・・』


(こんな悔しそうな表情をするとしお兄さんをみきおは初めて見た)



みきお

「・・・父さんがまた何かしたの?」


としお兄さん

『何かしたどころじゃないよ!!

 ・・・そんなことよりオレは帰って荷造りが忙しいんだった話の続きは今夜な!

        とにかくみきお、今夜は手伝ってくれよな・・・頼んだからな!』


みきお

「うん、わかったよ」




(その夜、みんなが寝静まってからとしお兄さんとみきおはとしお兄さんの荷物を

 家から運び出し、リヤカーに載せて真っ暗な夜道を駅に向かい二人で歩いていた・・・

 最寄の駅まで歩いて3時間以上かかる道のりをリヤカーを引きながら静かに歩き続けていた)


みきお

「ねえ、としお兄さん・・・」


としお兄さん

『なんだ?』


みきお

「父さんの話・・・聞かせてよ」


としお兄さん

『・・・知らない方がいいと思うぞ』


みきお

「だって、としお兄さんが家出するほどだもん・・・知りたいよ」


としお兄さん

『みきお・・・悪いことは言わないから、お前も出来るだけ早く家を出ろ』


みきお

「え?どういう意味?」


としお兄さん

『もうすぐ、家の畑がまた半分無くなるぞ」


みきお

「え??でも母さんが毎日がんばって・・・」


としお兄さん

『クソオヤジの博打の借金でまた持ってかれちまうんだ!

 そのうちクソオヤジのせいで家の畑なんか無くなっちまうぞ!残るのは小さな田んぼだけだ!』


みきお

「そんなぁ・・・ 畑が無くなったら大変だよ・・・」


としお兄さん

『そうだよ、これから家はもっともっと貧しくなるんだよ!クソオヤジの借金のせいでな!』


みきお

「・・・みんな頑張って働いてるのに・・・どうして?」


としお兄さん

『あのオヤジはもうダメだよ・・・

 戦争へ行ってからオヤジは頭がおかしくなっちまったんんだよ・・・

 毎晩のように戦争の時の仲間達と博打を打っては酒を飲んで・・・

 俺たち兄弟が一生懸命働いて家に入れてるお金だけじゃ足らず、

 母さんが必死に耕してる畑まで売っちまうような酷いオヤジなんだよ』


みきお

「父さん、そんなにヒドイんだ・・・」


としお兄さん

『みきおがこの前の夏休みに毎日泥だらけになって働いた土手作りの一ヶ月間の給料だって、

                     みんなクソオヤジの博打に消えちまったんだぞ!』


みきお

「え?ほんと?・・・・・あんなに一生懸命働いたのに」


としお兄さん

『なぁみきお、悪いことは言わないからお前も早く家を出た方がいいぞ!

 あのオヤジが居る限り、家は貧しさからは抜けられないし働いたお金も

 全部取られちまう、オレはオヤジの博打の為に必死に働いてるんじゃない!

 オレは・・・これからはオレの人生の為に働くつもりだ!

          そのためにオレは家を出て住み込みで働く決意をしたんだ!』


 

(みきおはなんだか言葉を失い、それ以上話せなくなってしまった・・・)




としお兄さん

『やっと駅に着いたな、みきお悪かったな・・・こんな夜中に手伝わせちまって』


みきお

「ううん・・・としお兄さん、この荷物はどうするの?」


としお兄さん

『始発列車の最後尾に貨物車両があるんだ、そこに積むつもりだから

 ここに荷物全部降ろしておいてくれ!あと、悪いけどリヤカーは引いて帰ってくれないか』


みきお

「うん、いいよ・・・  としお兄さん、元気でね・・・」


としお兄さん

『ああ、みきおも元気でな・・・』



(みきおは夜明け前に帰るために早々に駅を後にした・・・

               一人での帰り道は暗く寂しい道のりだった・・・)



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