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第24話

(チビがみきおの家にやってきて一年が過ぎようとしていたある日、みきおがいつものように

 学校から急いで帰ると、いつもはみきおの足音で犬小屋の前まで出てくるチビの姿が

       今日は無い、みきおは犬小屋を覗いてみたが中にもチビの姿は無かった・・・)



みきお

「母さん、ただいま~」


母さん

『・・・おかえり、みきお』

(今日の母さんはなんだか疲れた様子だった)


みきお

「母さん、なんか今日疲れてるみたい・・・畑仕事もボクが手伝うから、少し休んでていいよ」


母さん

『ううん、平気よ 母さんは元気だから・・・ みきおにこれ以上お願いできないわ』


みきお

「ボクなら全然平気だよ!ボク体力には自信があるんだから!

 それより母さん、チビが犬小屋に居ないんだけど・・知らない?」


母さん

『・・・・・・さっき、 父さんがね・・・』


みきお

「え?もしかして父さんがチビを散歩に連れてってくれてるの?」


母さん

『そうじゃないの・・・ごめんね みきお・・・チビは父さんが連れて行ってしまったの・・・』


みきお

「どうしたの母さんそんなに悲しい顔して、父さんがチビをどこへ連れていったっていうの?」


母さん

『父さんに口止めされていて、あなたに黙っていてごめんなさい・・・

 チビはもともと成犬になったら父さんは売るつもりで買ってきた犬なの・・・

 秋田犬は子犬より、1歳くらいの成犬が一番高く売れるの・・・

 父さんは初めからそのためにみきおにチビを育てさせたの・・・

 父さんに内緒で、何度もみきおにそれを伝えようと思ったけど

 チビを可愛がるみきおを見ていたら、どうしても言い出せなくて・・・

         本当にごめんなさい・・・   みきおごめんなさい・・・』


(母さんは涙を流してみきおに何度も謝っていた・・・

 みきおは頭が混乱していたが、母さんが疲れた様子だった意味がやっとわかった)



みきお

「・・・母さん、もう泣かないでボクは平気だから! 

 チビともう逢えなくなるのは寂しいけどもっとお金持ちのいい飼い主に飼われた方が

 チビもきっと、チビもきっと幸せだと思うから、ボク・・・ボク・・・・ボク・・・・・・」

(みきおはその場にしゃがみ込み大粒の涙をこぼした)


母さん

『みきお、ごめんなさい・・・』


みきお

「どう・・て・・ どうして父さんは・・・ 

 どうしてチビにさよならも言わせてくれないんだよ・・・

 チビは・・・家族なのに・・・ どうしてさよならも言えないんだよ・・・」


(みきおはこぼれ落ちる涙を必死に堪えながら、いつも通り豚、牛、馬の世話をはじめた・・・

 そして夕暮れ前のチビとの散歩の時間になるとみきおは一人あぜ道を歩き、

                     チビとよく休憩していた大きな木の下で寝転んだ)




みきお

「チビ、どこへいっても元気でね・・・いつも残り物ばかり餌にしてごめんね・・・

 チビ、駆けっこすごく速くなったね・・・いつかまた一緒に駆けっこ勝負しようね・・・

 チビはボクのこと忘れてしまうんだろうなぁ・・・でもボクは絶対忘れないよ、

 一生忘れないよ・・・離れ離れになってしまっても一生チビはボクの家族だよ・・・

 チビ・・・・チビの名前、ボクずっと考えてたんだよ・・・

 最近やっといい名前が見つかったのに・・・

 父さんが名前をつけていいと言ってくれたらつけようと思っていた

 チビも喜んでくれそうなとっておきの名前があったのに・・・ 必要なくなっちゃったね」


(みきおは木の枝を拾い、地面にチビにつけようと思っていた名前を日が暮れて

 見えなくなるまで、何度も何度も書いては手で消しながら何度も何度も別れの涙を流した・・・) 



(日が暮れてみきおが帰宅すると、父さんが帰っていた)


父さん

『おお!みきお!!お前よくやったぞ!!』

(父さんは酔っ払ってはいるが、えらく機嫌がいい様子)


みきお

「・・・父さん、おかえり」


父さん

『みきお!お前のおかげで今日は大儲けだったぞ!』


みきお

「ボクのおかげ?どういうこと?」


父さん

『お前が育てたあの犬な、競売で一番人気だったんだぞ!見る見る値が上がっていって・・・

   みきお、聞いて驚くなよ!5千円で買ってきたあの秋田犬が1年でなんと10万円だぞ!!』


みきお

「じゅ・・10万円?? チビが?!」


父さん

『ああそうだ!10万円で売れたんだよ!!みんな、こんなに美しい秋田犬は見たことがない!

 と言って大人気だったんだぞ~ 特に全身の筋肉の付き具合が素晴らしい!って

                       凄い人だかりが出来たほどだったんだぞ~!』


みきお

「チビが・・・そんなに?」


父さん

『みきおと毎日散歩で一緒に走り続けていたからだろうな~

 なにせ筋肉が発達していない頃から毎日みきおを追いかけて走り続けてきたんだから、

                        引き締まっていて当たり前だよな~』


(父さんは珍しく上機嫌で、おしゃべりが止まらない・・・)



みきお

「そっか・・・じゃあチビはお金持ちの家へ貰われて行ったんだ・・・

       だったらチビもきっと幸せに暮らせるはずだな、よかった・・・」


(みきおは淋しい思いと嬉しい思いの狭間で頭が混乱しつつも、チビが他の人達に

 褒められてお金持ちの家に貰われて行ったことには何となく嬉しさが込み上げてきていた・・・

 なにより、父さんがこんなに上機嫌な姿を久しぶりに見た・・・

           そしてみきおはチビの居ない犬小屋の前で一人座り込みチビに話しかけた)




みきお

「チビ、ありがとう

 チビは家にたくさんのお金と、

 たくさんの笑顔をプレゼントしてくれたんだね・・・

 チビがくれたたくさんの笑顔をボクはずっと大切にするからね!ありがとう、チビ」



(みきおは星空を見上げ、光る流れ星に大きな声で同じ願い事を何度もくり返していた・・・)


みきお

「チビが幸せになれますように・・・

 チビが幸せになれますように・・・

 チビが幸せになれますように・・・」



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