第20話
(そして遂にみきおは、2周目に入ったところで6年生を抜いた)
みきお
「はあ・・はあ・・ああ・・ああ・・ああ・・ああ・・」
(みきおは、まるで心臓を誰かにつかまれて顔の前まで
引っ張り上げられているかのような心肺の苦しさと戦っていた)
みきお
「あっ あっ あっ あっ」
(抜いた6年生の様子を見るためにふり向く余裕もない・・・
とにかく全身が苦しいが、みきおは1歩1歩を大切に走り続けた・・・
さっきまで顔の前に引っ張り上げられていた心臓が更に
頭の上まで引っ張り上げられているような・・・そんな激痛にも似た苦しみとみきおは闘っていた)
みきお
「・・・・れ・・て・・・・」
みきお
「・・・・こ・ま・・・てって・・・」
みきお
「このまま・・・ゴールまで・・・・・連れてって・・・・・」
(みきおは引っ張られたままの心臓に心の中で話しかけていた)
みきお
「このまま・・・心臓ごとボクをゴールまで連れてって!!」
(みきおの胸は大きく前に張り出され、ゴールへ向って再びどんどん加速していった・・・)
みきお
「あっ あっ あっ あっ」
(静まりかえった会場の全ての人が、みきおのその走りに、その気迫の走りに、釘付けになっていた)
みきお
「ああっ ああっ ああっ ああっ」
(会場には選手二人の足音と、みきおの荒々しい息使いだけが響き、
そしてみきおはそのまま夢中で走り、夢中でゴールテープを切った)
観客
『うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
(みきおがゴールテープを切った瞬間、いままで静まり返っていた観客から
地鳴りのような大歓声が沸き起こった!そしてリレーチームのメンバー全員が
みきおに駆け寄ってきて、6年生も5年生もみんなみきおに抱きついた!
さっきの同級生は泣きながら抱きついてきてみきおに何度も何度もお礼を言っている)
みきお
「ボク、1番でゴール出来て・・・すごく・・・すごく嬉しいよ・・・・」
(みきおはそう言うとみんなに抱かれながら、意識を失った)
(みきおはこの日、20m以上差があった6年生で一番速い選手を抜いただけでなく、
ゴールテープを切った時点で更にその6年生を30m以上も引き離していた・・・
その日、みきおの走りを観ていた全ての人々の脳裏にその日のみきおの走りが
焼きついて離れないものになったという・・・そして村中が、その日のみきおの走りの
話題で持ちっきりになりその日のみきおの活躍を知らない者は誰も居なかったという・・・
ただ一人を除いては・・・)
母さん
『みきお、みきお!』
みきお
「・・・・・あ、母さん」
母さん
『気がついたかい?』
みきお
「ボク・・・・・どうして?」
母さん
『ゴールしたあと急に倒れて保健室に運ばれたんだよ』
みきお
「・・・ねぇ母さん、ボク・・・リレー勝ったよね?」
母さん
『ええ、勝ったわよ!みきおは凄く頑張ったわよ!』
みきお
「よかった~・・夢じゃなかったんだ・・・」
母さん
『すごく頑張ったし、すごく速かったし、すごくカッコよかったわよ!』
みきお
「ほんと?嬉しいなぁ~走っている時は凄く苦しかったけど不思議と気持ちよかったな・・・」
母さん
『とにかく今は疲れてると思うから、もう少し休みなさい』
みきお
「うん ・・・それと母さん、リレーチームのみんなは喜んでくれてたみたい?」
母さん
『リレーチームのみんなは飛び上がって喜んでたわよ!
それだけじゃない、会場中がみきおの走りに大声援をおくっていて
母さん、あんなに嬉しくて興奮した気持ちになったのはじめてよ!』
みきお
「そっかぁ~ みんな喜んでくれてボクとても嬉しいよ」
母さん
『そういえば、同じリレーチームの同級生の子がみきおに
聞いておいて欲しいことがあるって言ってたわねぇ・・』
みきお
「え? 何を?」
母さん
『母さんもよくわからないんだけど、みきおにタッチしたとき
負けてるにも関らず、みきおがすごく自信のある顔をしてたって・・・
まるで勝てるのを確信してるように見えたって・・・
もし本当にそうだとしたら、なんであの状況で勝ちを確信出来たのか?聞いて欲しいって』
みきお
「それは・・・チビやハナのお陰だよ」
母さん
『え?チビやハナのお陰?それはどういう意味なの?』
みきお
「ボクはチビやハナと一緒に走っているとさ、これなら追いつける!とか、
これは追いつけない!とか思いながらいつも走っているんだ、だからなんとなく
前を走る6年生を見て感じたんだ・・・ これなら追いつける!って・・・」
母さん
『・・・みきおは、すごいのね』
みきお
「ボクはこれからもっともっと駆けっこが速くなって、
いつかハナを抜かしてやりたいんだ!いつか抜かしてハナをびっくりさせてやりたいんだ!」
母さん
『・・・みきおなら、母さんきっと出来ると思うわよ』
みきお
「うん、ボクもっともっと速く走れるように頑張るね!」
母さん
『頑張ってね、 でも今はもう少し休みなさい』
みきお
「うん・・・・zzz」
(そのまま再び眠りについたみきおの頭を撫でながら母さんはみきおにそっとささやいた)
母さん
『みきおは母さんの大切な夢よ・・・』