第1話
時代は昭和25年、日本が戦争に負けて5年が過ぎた頃、
日本は敗戦ムードから復興ムードへ変り活気を取り戻しつつも
まだまだ各地方では貧困に苦しむ家庭が多かった。
青森県の山に囲まれたある村の貧困家庭の7人兄弟の6番目に生まれたみきお9歳。
「産まれろ~・・ 産まれろ~・・・ あ!産まれた!やった!! あ!こっちも産まれた!!
よーしこいつをそ~っと取って・・・土の中に隠して・・・ これでよし!」
『お~い!みきお! おい!みきお! どこに居るんだ? お~い!みきお!』
みきお
「ここだよ、おはよう! どうしたの?よしお兄さん」
よしお兄さん
『そんなところでなにやってるんだよ、台所で母さんが呼んでるぞ!』
みきお
「え?えっと・・・トイレだよトイレ、母さんが?何の用だろう?」
よしお兄さん
『いいから早く母さんの所へ行ってこいよ』
(急いで台所へ向う みきお)
みきお
「母さんおはよう!」
母さん
『おはようみきお!どこへ行ってたんだい?朝早くから』
みきお
「え?・・・トイレだよトイレ、それより母さんなんの用?」
母さん
『悪いけど鶏小屋へ行ってタマゴを取ってきておくれよ、朝ごはんのタマゴ焼きに使いたいから』
みきお
「うん、わかった!取ってくるね~」
(鶏小屋からタマゴを取ってきて母さんに渡すみきお)
母さん
『あれ?今日は3つしか産んでなかったのかい??』
みきお
「うん、3つしか産んでなかったよ」
母さん
『おかしいねぇ・・・いつも毎朝5個はタマゴ取れてるのに・・・』
みきお
「今日はニワトリの調子が悪かったんじゃない?」
母さん
『そうなのかねぇ・・・ みきお、悪いんだけど今日も兄さん達のタマゴ焼きだけで
おまえの分が無いんだよ・・・ いつもごめんね』
みきお
「ボクなら平気だよ、働いてる兄さん達にみんなタマゴあげてよ!」
母さん
『すまないねぇ・・・よしおも、みきおも小学生で食べ盛りなのに
栄養のある物をたくさん食べさせてあげられなくて・・・』
みきお
「いいんだよ母さん、ボクもよしお兄さんもまだ小さいから
たくさん食べなくても全然へっちゃらだよ!」
よしお兄さん
『おい、みきお! 豚小屋に餌やるから早くお前も手伝えよ!』
みきお
「今日はよしお兄さんがカボチャを切る番だからね!!」
よしお兄さん
『そうだったっけ?今日はみきおの番じゃなかったっけ?』
みきお
「昨日はボクがカボチャ切ったじゃないか!!」
よしお兄さん
『えぇ~そうだったっけかなぁ・・・?』
みきお
「ずるいよ、よしお兄さん!この前もそう言ってボクにやらせたじゃないか!
今日はボク絶対にカボチャ切らないからね!!」
よしお兄さん
『ちぇっ、バレたか・・・わかったからおまえは早く水を汲んでこいよ!
もたもたしてると朝ごはん無くなっちゃうぞ!』
みきお
「わかったよ~ それにしても・・・ 腹へったなぁ・・・・」
みきお
「よしお兄さん、早く朝ごはん食べに行こうよ~ ボク腹ペコだよ・・・」
よしお兄さん
『はぁ・・やっとカボチャ切り終わった、みきお!餌箱持ってこい!』
みきお
「ボク、カボチャの生のニオイって嫌いなんだよなぁ」
よしお兄さん
『いいから早く餌箱持って来いよ! オレだって苦手なんだから!』
みきお
「今日は僕たちの朝ごはん残ってるかな・・・」
よしお兄さん
『今日からしばらく父さんが居ないからきっと残ってると思うぜ』
みきお
「父さん今度はどこへ行ってるんだろうね~・・」
よしお兄さん
『そんなこと知るかよ、でもおかげで朝ごはんちゃんと食べれるし
こき使われることも無いから、学校おわってから遊べるぜ』
みきお
「でも、牛を山へ連れて行かないと・・・」
よしお兄さん
『あんなに大きいんだから1日、2日草食わなくたって死なないよ』
みきお
「ダメだよ、お腹空くとモーモー鳴いてかわいそうだもん」
よしお兄さん
『じゃあ、お前が山へ連れて行ってやればいいだろ!』
みきお
「だって、2頭いるんだよ、ボク一人じゃ2頭も無理だよ」
よしお兄さん
『オレは絶対連れていかないからな!お前が好きにしな!』
みきお
「よしお兄さんずるいよ~・・」
よしお兄さん
『そんなことより、急がないと朝ごはん食べる時間無くなっちゃうぞ!』
みきお
「待ってよ、ボクだって腹ペコなんだから~」
(朝ごはん)
よしお兄さん
『母さん、また味噌とごはんだけなの?』
母さん
『ごめんね、よしお・・・タマゴも梅干もみんな兄さん達が食べてしまったもんだから・・・』
みきお
「母さん、大丈夫だよ!ボクは味噌ごはん大好きだよ!」
よしお兄さん
『ごちそうさま! そういえば母さん、こいつ昨日も給食の脱脂粉乳飲まなかったんだぜ』
みきお
「だって・・・あれ飲むとお腹痛くなるんだもん・・・それにまずいし」
母さん
『みきお、栄養のためだから少しでも飲むようにしないとダメよ』
みきお
「・・・うん、がんばって今日は少し飲むようにするよ」
よしお兄さん
『おい!みきお そろそろ学校行かないと間に合わないぞ!』
みきお
「大丈夫だよ、ボク走っていくから!」
よしお兄さん
『今日こそは負けないからな!さっさと用意しろよ!』
みきお
「悪いけど駆けっこではよしお兄さんに負けないよ!」
母さん
『みきおは足が速いものね、でも転ばないよう気をつけてね』
みきお
「うん、じゃあ母さん行ってきます!」
よしお兄さん
『母さん行ってきまーす! よーしみきお、学校まで競争だ!』