第7話
自分の命もここまでと、燕が覚悟を決めたその時、事態は思わぬ方向へ展開した。
「……邪魔するなよ。」
「これ以上、お前の羽を黒くさせるわけにはいかねえからな。」
一人の男が広樫の前に立ちはだかった。
まるで、燕と吉村を守るかのように男は二人の前に立ち、広樫の放った光は男を直撃したのだ。
男の背中にもまた羽がある。
「フェムト……。」
かつての友人の名を燕は懐かしみを帯びた声で呼んだ。
「悪かったな、ミリ。俺がちゃんとこいつのこと見てたら、こんなことにならなかったのにな。でも、もうこれ以上はさせねえから。」
フェムトは少しだけ燕に微笑むと、広樫に向かってその歩を急速に早めた。
「ナノ、お前がいる場所はここじゃない。お前ならちゃんと元に戻れるから。俺が元に戻してやるから……」
「やめろ!来るな!死にぞこないに何ができるって言うんだ!!」
広樫の放つ閃光がいくら命中しようとも、フェムトは歩を止めなかった。
そして、決して無傷ではないその腕で抵抗する広樫を軽々と抱えると、灰色がかった羽で天空へと高らかに飛び去っていった。
「なんだってできるさ。それに、俺はこの程度で死ぬほど柔じゃない。」
「あれ、誰?」
救急車で病院へと搬送される途中、吉村は燕に問いかける。
「友達。私とナノとあの人…フェムトって言うんだけどね、幼馴染みだったの。いっつも一緒に遊んでた。」
「……戻すとか何とか言ってたけど…」
「ナノの羽……黒くなっちゃってたから。それと、きっと色々。」
「そっか……戻れるといいな、幼馴染みだったころみたいに。」
「うん。」
燕の瞳から、一筋の涙が頬を伝った。