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reunite  作者: 季樹
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第6話

燕は行く当てもなくただ走っていた。

全てを思い出したことで、頭がパニックを起こしている。恐怖と後悔とでどうしていいのかがわからなかった。

「向居?」

不意に名前を呼ばれて、燕は立ち止まる。声のする方に顔を向けると、そこには吉村がいた。

「やっぱり向居だ。こんなところでジョギングでも……泣いてる、よね?」

言われて初めて、燕は自分が泣いていることに気がつく。

「あれ?やだ、なんでだろう?」

無理やりに吉村に笑ってみせる燕。

「何かあった?」

燕は笑うの止めた。

「前に吉村君、詩音に言ったよね?私のことずっと前から知っているような気がするって。」

「え、ああ、確かに言ったけど……」

「それ、気がするとかそういうのじゃないよ。」

「どういう意味?」

「事実なんだよ。」

「事実?」

「吉村君はきっと全部を覚えていないだけで、忘れてるだけ。私たちはずっと昔に知り合ってる。今の姿で生まれるずっと前に。」

「それって前世がどうのこうのっていう……?」

話の展開に吉村は混乱していた。燕自身も、今ここで全てを理解してもらおうなどとは思ってもいなかった。

「とにかく、今は私の傍にいない方がいい。早く逃げて!」

「ちょ、待ってよ、逃げるって?なにから?」

「お願いだから早く!もうあなたが死ぬところなんて見たくないの!」

「死ぬって……」

燕の目から再び涙が零れ落ちる。そうして、しきりに「逃げて」と吉村に呟いていた。

「向居、ちょっと落ち着けよ。なにいってるかわかんないよ?どうしたんだよ?」

泣きじゃくる燕に吉村は必死に問いかけるが、燕はただ同じ言葉を繰り返すだけだった。

「無駄だよ、パニックを起こしてる。お前のせいでね。」

吉村が振り返ると、そこには広樫が立っていた。燕を追ってきた割には息一つ切らさず、広樫の周りだけなにか別の空間のようでもあった。

「あんた誰だよ?それに、俺のせいってなんだよ?」

「燕のことは覚えていても、僕のことは覚えてない、か。まあ、それは正しい判断かもしれないね。」

「一体なんのことだ?」

近づいてくる広樫から、無意識に吉村は後ずさりをしていた。

「体は覚えているみたいだね。お前は知らなくてもいいことだよ。」

「吉村君、逃げて!」

背中越しに聞こえてきた燕の声は、吉村に何かを思い出させた。

「……いや、逃げるわけにはいかない。俺は、君を守ると約束したんだから。」

「吉村君?」

吉村の顔に戸惑いはなく、真っ直ぐに広樫を見据えていた。

「まいったな、燕もお前も、どうしてそうポンポンと都合よく思い出してくれるかな……」

困っている様子など微塵もみせずに広樫は呟く。そうして広樫はゆっくりと右手を吉村に向かって上げた。

「何をするつもりだ?」

「わかってるだろう?お前が邪魔なんだ。燕は僕のもの。お前には消えてもらう。」



一瞬の出来事だった。

広樫の右手が光ったと同時に、吉村はその場に崩れ落ちた。

その光景を目の当たりにした街の人々は我先にと逃げ惑う。

「……くっ……あんた、それでも天使かよ……ミリとは大違い…だな」

「へえ、強くなったもんだね。前は話すことすらないまま終わったっていうのに。」

倒れた吉村を見下ろしながら、口元に笑みを浮かべて広樫は続ける、

「天使ね……そう見えていたのなら光栄だ。」

不敵な笑みをした広樫の背中にはいつの間にか黒々とした羽があった。

「そんな……どうして……」

漆黒の羽に燕は愕然とした。少なくとも彼女が覚えている羽の色ではなかったからだ。

「どうしてだろうね。わからないよ……君が居なくなって、気がついたらこうなってたんだ。」

「あの時……あなたが彼の命を奪ったあの時まではまだ、そんな色じゃなかった。」

「ああ、そうか、じゃあその後かな。」

些細な記憶違いなどどうでも良い。そんな口調だった。

先ほどまで纏っていた異様な気配を消して、微笑みながら広樫は燕に手を差し伸べる。

「さあ、行こうかミリ。」

「やめて……私はもうミリじゃない。」

意識が遠のきそうな吉村をしっかりと抱いて、燕は必死にその場から離れようとした。

しかし、大人の男一人を運ぶのに燕には少し力が足りない。

「また、僕を置いていくの?」

笑顔がみるみるうちに悲しげな表情へと変化する。

「ごめんね。でも、もうナノの気持ちには応えられない。こんなことするなら余計に無理。」

後悔の意味を燕はわかっていた。その全てを覚悟して地上に降りてきたことも。

「なら仕方がない、また全てを忘れてもらうまでだよ。」

広樫は差し伸べていた手を、吉村に向けたときと同じように燕に向けた。

「また同じことを繰り返すの?」

「そうだね、もう一度やり直してみるよ。」

「何度やっても結果は同じよ。」

「大丈夫、今度は他のことを思い出させたりなんかしないから。」



再び広樫の右手が眩しく光を放った。



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