第1話
将来を誓い合った二人がいた
二人は小さな頃からいつも一緒にいた
互いに相手を思いやり、誰もが羨むような、そんな二人だった
だが、それも束の間のこと
やがてそのすべてが壊されてしまったのだった―――――
不意に誰かに呼ばれたような気がして、燕は立ち止まった。
「ん?どうかした?」
急に立ち止まった燕を、詩音は不思議そうに顔を覗き込んだ。
「ううん、なんでもない。なんか、誰かに呼ばれたような気がして……。」
振り返り、あたりを見回してみるが、誰もそんなしぐさをしているような人物はいなかった。
「気のせいでしょ。」
「だよね。」
大したことでもないだろうと、二人は他愛のない会話をしながら歩いていく。
その様子を遠くから見つめている男の視線に、その時二人は気がつくことなどなかった。
「……やっと見つけた。」
数日後、燕は一人昼食をとっていた。
お昼時ということで、店内はやや混雑し始めている。燕は2人がけのテーブルに座り、ぼんやりと外を眺めていたのだった。
「ここ、よろしいですか?」
一人の男が手にトレーを持ちながら微笑んで立っている。
「え?……ああ、どうぞ。」
つられて笑顔になりながら、燕はテーブルの上の場所を空ける。男は「すみません」と席に着いた。
「ここはいつもこんな感じなんですか?」
「え?」
「いつも、こんな風に混むんですか?今日、初めて来たので……」
「ああ、まあ、お昼はだいたいこんな感じですよ。」
男の唐突な質問に戸惑いながらも答える燕。納得したように頷くと、男はパスタを食べ始めた。
「僕のこと、覚えてませんか?」
そろそろ店をでようかと立ち上がった燕に、男は再び声をかけた。
「いえ……あの、すみません、どこかでお会いしましたっけ?」
首を傾げ、燕は記憶を辿るが、全く覚えがなかった。
「そう……やっぱり覚えてないんだ……」
男の顔に影が差したかと思えば、今度は薄く笑ったように見えた。
「……?」
「いえ、突然すみません。急にこんなこと言われても困りますよね。」
一転、警戒心を失わせるような表情で、男は再び微笑みかけた。
何がなんだかわからない燕は、ただただ唖然とするだけだった。
「あの……」
「それじゃあ、またどこかでお会いした時は、その時はもっとゆっくりお話できることを期待してますからね。」
一方的な男は、未だ動けない燕をよそにさっさと店を出て行った。
「なんなの?あの人?」
あれだけ印象に残るような人物をそうそう忘れるわけがないが、以前に会った記憶など燕には一切無かった。それでも、不思議と初めて会ったような感覚が燕にはなかったのは、男の声がどこか聞き覚えのあるような、そんな声だったからだ。