ボクシング
ボクシング。それは、己の拳だけで相手を殴り倒す、極めてシンプルなスポーツだ。
過酷で苦しいトレーニングを積み重ねた者だけが、プロとしてリングに上がる事
ができる。そして今日、そのリング上で橋野雅之と言う、俺の名前が初めてコール
される事になる。試合時間が刻一刻と近づいてくるに連れて、俺の鼓動も激しく揺
れる。プロとして選ばれた恍惚感と不安感が全身を支配し、頭の中で何度も
試合のフラッシュバックが起きる。「テンカウントゴングを聞くのは、絶対にこの
俺だ。」「絶対に俺が試合を終わらせてやる」そう自分に言い聞かせ、少しでも試
合へのプレッシャーを軽減させる。俺ならできる、そんな事わかりきってることだ。
「橋野さん、時間です。」
スタッフに呼ばれ俺は席を立ち、あの興奮の坩堝と化しているリングへゆっくり
と足を進めた。ロープをくぐりリングインした。ライトがリングだけを照らし
観衆の視線と声援がリングへ集まる。いやでもボルテージは上り、試合開始の
ゴングが待ち遠しい。リングアナウンサーがリングへあがり、マイクに向かい選手紹介を始めた。
「青コーナー、中野ボクシングジム所属、116ポンド、マックス大下!」
「変わりまして赤コーナー、大野ジム所属、118グリフォン竹中ー!」
「レフェリー、橋野雅之。」