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07 疑似ロボット高性能

<07 疑似ロボット高性能>


ファーン!

ダダンダダン・・・!

真横を風とともに走り抜けたのはクリーム色の電車。


「ふ~、今のは少し寄り過ぎたかな・・・。もうちょっと引いた方が良いかも」

液晶で撮影したカットを確認しながら、位置を微調整。


ただいま、駅ホーム端で三脚たてたカメラで電車を撮影中。いわゆる駅撮りです。

ここは自宅からだと乗り換えを2回で2時間。学校最寄り駅からでも1時間半離れた

とある駅。

とにかく、まあ程々の遠出です。

新緑が気持ちの良いこの季節ならでは!の醍醐味。光線具合もまずまずで、ほんと久しぶりの癒される時間です。


新しく手に入れたレンズテストでもあり、何本かの電車をおさめてまずまず納得できたのは

11時の鐘が聞こえた頃合いでした。


「それにしてもステンレスカーが多過ぎて困るな~」

「やっぱり狙うのは旧型車ね」

「そうそう、来る確率が少な・・ク・・?」

「狙うポイントを変えたら?もう少しターミナルに近い駅のほうがスジにはいっているかも」


「・・・・・会長!?」

「あら、奇遇だわ」


後ろからの声に応えてしまった自分が・・・少しハズカシイ・・・。

ではなくって、なんでここに?こんな所に??

今日は日曜だし????


「丁度良い頃合いだわ。行きましょう」

「・・・は??。ぼ・・・僕も??」

「ごめんなさい。待ち合わせ少し遅れちゃって。いそがなくちゃね」

「え?。。え?。。。。ええ??〜」






陸上競技会ですか・・・。運動場最寄り駅でしたね、あそこ・・・。

待ち合わせ・・・・って、お約束してましたでしたっけ?スミマセン・・・。

うっかり忘れてたみたいで・・・・ほんとに失礼なことを・・・


「約束してないわ」


おいいい!!


「ほんと、奇遇ね」


そうでした、最初から「奇遇ね」といってました、よね!会長ぅぅぅ!!






スタンドに入ると、ぽつぽつ固まった集団が思い思いの場所に。おそらく学校ごとに

わかれているのだと納得。

この競技会は大きな大会ではなさそうです。そのかわり中学と高校とでの合同開催らしい。

まだ小学生の面影が濃厚な選手も居て、なんだか不思議です。


「やっほー!応援ご苦労〜!」


ちょうど座ろうとした場所の正面からすこぶる元気な声。

会長は少しニコッとして手で答えてます。

自分はたちあがって「礼!」




蘭さんもニコニコした後、スタンド手すりの下へ消えていった。

(なんか変な踊りもしてたけれど・・・、後で聞いてみよう)

どこのトラックも同じように、スタンドとの間に半地下の通路があるようで、

たぶんそこに入っていったのだろう。


「蘭ね、大きな競技会には出ないの」

「・・?、そうなんですか・・・。」


会話もそこで途切れた。少し横で走り幅跳びの競技中だったので、そちらを無意識に

見てみる。


「やぁ!!!・・・」

ドス!


ひとりの女子が跳んだ。おそらく高校生、それも上級生だと思われる。

走り始めは遠かったので解らなかったが、踏み切った手足がまるで空中を

走り抜けるように・・・、そして前に合わさった姿勢のまま少しずつ落ちる。

最後は、ほんとにその姿勢のまま、遠くへ、少しでも長くとの声が聞こえてきそうな。


「ふう・・・」


自分、思わず息を止めてたみたいです。

それだけ・・・綺麗なスローモーションに見えました。




「出てきたみたい」


会長の声で顔を正面に戻すと、数人の女子がトラックの中へ。

向こう側がスタート地点みたいです。少し遠くて顔がよく見えません。


「赤い上下ね」


やさしく教えるような声で、その一人に集中します。ああ、あの髪は

たしかに蘭さんかもです。


「あ、カメラ」


持っていたのを忘れてました。望遠を通して見たら良く解るかもしれません。

ついでに撮影して後で渡すと喜ばれるかも。


「!」


息をのみました。ファインダーいっぱいに蘭さんの顔が見えます・・・が、

違うんです。たしかに蘭さんなのだと思います。

でも・・・・・。


「・・・目が・・・」


そう、目。いつもの大きくクリッとした目ではありません。

細く・・・・、少し瞳を落としてどこか一点をみたまま動きません。

口は少しだけ開いたまま。


ズームを少し引いて身体全体を見てみます。

手はすっと下ろされたまま。胸はすこしだけ上下しているのは、みても判るくらい静かでゆっくりとした呼吸のせい。

腰から足もいっさい動きません。


カメラを通して見る自分も、呼吸をおとし、腕は胸に引き寄せた撮影スタイルのいまま固まります。

ただ顔をみるためだったのが・・・、今では一瞬のチャンスを逃さない緊張に。


「・・・・」


なにか係りの人が叫びました。

ゆっくりと動き出した蘭さん、あるポジションで腰を落として・・・動きが止まります。


「・・・」

二つ目の声。


腰が上がり、腕もまっすぐ伸びて


・・・動いた!!

「パァン!」

かすかな音が耳に届いた時には、もう身体は一直線に伸びている。顔はまだ下向きのまま。

胸にまでとどくように折り畳まれていた方の足が、前に延びていく。長い!

頭はまだ下向きのまま、ほとんど変化なし。

カーブを回ってくると、足先まで長くて真っすぐな身体の動きがより鮮明になった。

やがて正面の直線に入ってきた。前にはもう誰もいないことで、トップだと気付く。

足先が地面を蹴っているのだろうが、とてもそう見えない。

さっき見た幅跳びのシーンが思い出された。まるで空中を走っているよう。


後ろとは、2人ほど入りそうな間が出来ている。もう間違いなくトップだろう。

そう、そのままラインを抜けていった。


流している蘭さん。カーブ半周くらいしてからゆっくりと止まった。

ヒザに手をあてて前屈みたいなまま息を整えている。


「やはり、今日は少し遅いわ」


タイムを見ていた会長の声で、自分もやっとカメラから顔を外した。

指に力を入れてたみたいで、ちょっと硬直気味に震えている。

息も忘れてたかもしれない。


「・・?、なにか具合でも?」

「ほら、この前足を傷めてたでしょ。」

「あ、そうでした」


捻挫していた・・のを忘れてました。


「感想は?」

「・・・・あ、ああ。・・・いえ、・・なんと言ったらよいのか・・。今は思いつかないのですが・・・。綺麗でした」

「そう。伝えたらきっと喜ぶわ」


会長の手がすっとカメラを指さします。


「撮ってたのでしょ。今見れるの?」

「あ、はい。デジタルなので。画面小さいですが確認できます」


そして最初の顔アップまで戻して会長に渡し、先送りの操作を手まねで伝えた。

じっと見ていく会長。

自分も横から画面を見つつ、静かな時間がゆっくりと過ぎていく。


「目立ちたく無いんだって。小さな競技会だけ出てるみたい」

「え・・・?あ、蘭さんの話」

「それも一次予選だけ。後は辞退しちゃうのよ」

「え、ええ?なんで・・・、予選だけで本選は辞退ですか!?」

「ねえ、あんなに早いのに。出れば良いところまでいけると思うの」


「そ〜れ〜は〜!あたしもピチピチ女子高生だからでぇ〜す!恋に愛に生きるからでぇ〜っす!乙女の時間はとても貴重なのです〜!」

「・・!!あああ!・・・ビックリした〜!!。蘭さん!急に耳元で声ださないでください〜!」

「あら、お疲れさま」

「えへへ〜!光ってた!?、ねえ光ってたぁ〜!!?」


黙ってカメラの画面を指す会長。


「おお〜!!、なんかあたし、かっこよくねぇ〜〜!!超マブくね〜〜!!」

「・・・マブ・・?」

「なに?違うっての?」

「いや〜!ほんとドキドキしました!!!すんごくかっこよくて・・・、蘭さん見る目、変わりました〜!」

「でしょ〜〜!!!って、あんた、今までどんな目であたし見てたのかしら?」


あ、目が座った・・・


「あ、これこれ!この画像見たらほれ直しちゃいます!!てか、ほれちゃいます!!」

「ん〜〜ふふ!よし!許そう!」

「でも、ほんとにすごくいいわ。これだけ引き出してしまうカメラマンも合格だわ」

「んん〜〜!よし、後で何かおごろう!」

「えへへ・・・」


「あら?」

「・・ん?」


二人の動きが止まった。

不思議に思った自分は、会長の手の中の画面をみてみ・・・た・・・・・ら・・・


「やだわ」

「・・・・・・み〜ずっきっちゃぁ〜ん・・。なあぁ〜にかなぁ〜?この写真わぁ〜?」


あ〜・・・、ちょっとのど乾いてきました。

ああ、どんどん乾きます。なので飲み込む唾も無いのに・・・、のどがこくこくと動きます。

。。。、そうだ、ジュ、ジュースでもかってこようかな・・。うん、そうしよう。


「大きいわぁ」

「ごらぁ!そこ!!声に出して感想を言わない!!!」

「アップね」

「・・・・・!!。ごおおぅぅらぁぁ!瑞樹ぃい!!」

あ、あ、。。こっちに矛先が・・・

「はい=ぃいいい!!」


だって、最後に前屈ポーズをするとは思わず・・・・!!

たまたまシャッターをおしてしまい・・・、

そのポーズもこっちに向かってしていただけましたらお尻アップにならずに・・・、

あ、こっち向きも少々ますいのでしょうか?ですよね?

胸の谷間とか・・・、では会長の感想はどっちにしたって「大きいわぁ」に

なりますねえ・・・ええ。






え〜・・・、蹴られました。せめてスパイク外してからにしてください〜!

ぽつぽつってズボンに穴明いたです・・・。あ、足も痛いのですが・・・。


「じゃあ、顧問に挨拶してくるから!一緒に帰ろ〜!」

「着替えないの?」

「帰ったらシャワー浴びるからジャージ着るだけ。」

「そう。では正面口で待つわね」

「ほいほい〜!」



あ〜、元気です。

僕に少しわけてもらいた・・・です。


「しかし、会長もピンポイントで蘭さんの競技だけ見にきたんですね。よく時間よめますね。」

「ふふ、ミステリーガールね」


・・・・ガールって・・・・


「何かしら?」


・・・・ミステリーガールで間違いありません。はい。







集合完了です。


「ちょうどお昼ね。食べてく?」

「このまま向かったほうが良いかもしれないわ」

「じゃあ、そうしよ〜!。腹へったらなんでも美味しいから!!」



あ、なんか美味しくないもの食べそうな気になってきました。



「次の行き先は、ワールドスクエア動物森林植物公園駅ね」


どこだそれ?・・・てか、帰るのではないのでしょうか?

あ、会長がそっと肩に手を置いた。


「あなたの身体で、もっと私を喜ばしてね」


・・・・・わざと言ってますね。その潤む目もやめてください!

呪文呪文・・・。ああ、やっぱり今日も自分には安らぐ時は許されないのですね・・・。





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