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39 フォレストガンプ(鈴が聞いた二宮先生)

<39 フォレストガンプ>(二宮)


「カリンちゃん、手を洗ってきなさい」

「フクママ、いつも子供扱い。」

「だって子供じゃない。私の自慢のお子」


カリンちゃん・・・は二宮花梨。

そうです。アラフォー決定女性教師の二宮先生。


フクママと呼ばれたのは、先生の相談員だったフクさん。




かりんちゃんこと、二宮先生の10代は、それはいろいろとあったみたいです。

一時は特別なご職業の方と同棲されてたとか。

そんな荒れてた時でも、年に1~2回フクママの家に顔を出しては話したりしてたみたい。


フクママは、そんなカリンちゃんへ諭すでもなく、怒るでもなく。

ごくごく近所から帰ってきた子供に接するように声をかけてました。





10代で荒れてても定時制でなんとか終了証書をもらえた頃、カリンちゃんの

お腹には命が宿ってました。


「ママ、楽しみだわ。きっとカリンちゃんみたいに可愛いと思うの」

「女の子とか解らないよ?」

「きっとそうよ。ママにはわかるのよ」


いつも通りのフクママ。怒るとかダメだとか言わないで、ただ楽しみだと言ってくれる。


「ひとつお願い有るのね。カリンちゃんはちゃんと食べること。

そしてタバコはしばらく我慢してほしいの」


「ママ、それじゃあ2つじゃない」

「違うわよ。ママとお腹のお子からカリンちゃんへのお願いなのよ。だから一つづつね」

「お腹の子供がそんなことわからないでしょ」


「ママにはわかるわ。ちゃんと食べなきゃお子もカリンちゃんも病気になっちゃうんだって」

「また勝手なことフクママ言ってるし」

「あら、ママからのお願いはタバコのことだけですよ」



のんびりなのか、天然なのか・・・。ニコニコしながら話す顔にはちっとも

疑問なんて感じてないみたいです。







冬でした。カリンちゃんのお腹も少しずつ目立ってきてます。

だけれども、この頃はいつも一人。

お付き合いしているお父さんは、まったく帰ってきません。


カリンちゃんはあまり良くないのだけれど、少し知り合いの男の人と

一晩だけおつきあいしたりします。

そしてお小遣いをもらってます。今はそれが生活費になってます。


その男の人は、お腹の目立ち始めた頃からなかなか相手をしてくれなくなりました。

食べるのを少し我慢してましたが、どんなにしてもお金は無くなってしまいます。


どうにもならない・・・と考え、知らない男の人と一晩すごすことにしました。

初めて合う人です。カリンちゃんを知らないのはあたりまえです。

3人目の男の人は、とても乱暴で、カリンちゃんは半分泣きながら相手をしてました。


朝になって、別れた後でもお腹が痛い感じです。それもだんだんひどくなります。

病院へ行くにはお金が足りません。

怖くて、痛くて・・・・いつのまにかフクママへ電話してました。



「ママ、痛い。私どうしたら・・」

「カリンちゃん、落ち着いて。すぐに救急車を呼ぶのよ。そして、私の電話番号を伝えるの。」



カリンちゃん、言われた通りにしました。

すぐにフクママが病院へ。そしていろいろと手続きしてくれたのです。


カリンちゃんの具合はあまり良くないみたいです。点滴を受けてますが、

なかなかお腹の痛みが治まりません。


「お子も頑張っているのよ。カリンちゃんも一緒にね」


フクママはずっと手を握っていてくれてます。






2日後、カリンちゃんは退院しました。ほんとうはもう少し安静にしなければ

なのですが、カリンちゃんのお願い。

赤ちゃんは女の子でした。ただ、どうしても状況が悪かったみたいで・・・・。


「カリンちゃん、ママ、おしるこ食べたいのだけれども付き合ってもらえる?」



フクママは何事も普通のようにカリンちゃんと甘味処にいます。


「フクママ・・・、ほんとうに・・ありがとう」

「カリンちゃんはほんとうに良い娘だわ。私が思うのですから間違いないことよ」

「でも・・・赤ちゃんが・・」

「自分を責めないのよ。赤ちゃんもカリンちゃんのこと責めてないわ」

「私のせいで」

「そうかもしれないわ。そうでないかもしれないわ。そう、カリンちゃんの

これからで、その答えが決まるのよ。」



この日からカリンちゃんはフクママの家で生活することになりました。

しばらくすると赤ちゃんのお父さん、同棲していた男の方が探しに来たみたいです。

フクママは終始「知りません」と言い通したとのことです。


カリンちゃんも遊びに来る同じような子供たちの相手をしたり、フクママの手伝いを

したり。その生活でだんだんと明るさも戻ってきました。


ある日のこと、フクママが1通の封筒を出してカリンちゃんに言いました。


「カリンちゃん。あなたのおばあさまにご連絡しましたの。おばあさま、知ってますわよね。」


それは幼い頃、何度か母親に連れられて行ったことの有る旅館の人。

お母さんの母親です。


「もしも、カリンちゃんにその気持ちがあるのでしたら、おばあさまの所で

一緒に住みましょうとのことなの。そして、これもカリンちゃん次第

なのだけれど。学校へ行くことも考えてらっしゃるわ。」


フクママの話をただ静かに聞いてたカリンちゃん。

自分の居場所はどこにあるのか・・・フクママにも迷惑かけれない・・・。

不安と心細さで涙が出てきてます。


「間違いないでほしいことが一つだけあるの。ママはね、カリンちゃんが

とても大事。見えない所に行ってしまうのがとても心細いわ。でも、

ママ、頑張る。カリンちゃんが頑張るなら、ままも同じで頑張るの。」



フクママは私を遠くへ出すことを、本当に悲しがっている?

こんな迷惑ばかりかけるのに・・・・。なぜ?


「カリンちゃんは大事なママのお子だわ。だから当然信じられるのよ。」






東北の祖母宅での生活がはじまりました。旅館も手伝って勉強もして。

翌年には大学へ入学。学校と旅館との生活で昔の自分がすっかり消えてしまいました。

おばあさんは、そんなカリンちゃんを大切にしてくれてます。

大学も残り1年となった時。


「あなたの人生はあなたのもの。この旅館のことは考えないで、自分に挑戦なさい」

ほとんどおいだされるかのように外で仕事することになったのです。


高校の教師。数年前では考えられない変わりようです。

名字も母方の二宮になってからは、もっぱら「二宮さん」で通ってますので。

カリンちゃんと呼ばれるのも、フクママと一緒のときだけになりました。




フクママももうすぐ75歳です。

いろいろと忘れっぽくなってしまいいました。


相談員も引退することに。


私は教え子と一緒に送別会を開きます。

内容はもう解らなくなっても見て楽しんでもらえれば。


「ほら、カリンちゃん、手を洗ったらおやつ食べましょうね」

「フクママも一緒に食べよう」

「カリンちゃんはほんとうに良い子だわ。ママとっても嬉しい」




フクママ、ありがとうね!





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