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34 旅


<34 旅>


「テストも土曜日までで終わるね。今週の日曜とか予定してるの?」

「そうですね、久々に写真を撮りに行こうかと思ってます。」

「鉄道?」

「はい、ちょうど現役を引退する車両がありますので」



最近よく美香さんと昼いっしょに食事したりしてます。春香や夏美も

たまに入りますが、同好の方(主にアニメ)とも集まっているようですので

週に1度くらい。美香さんとは2~3度ですので、かなりの頻度です。

放課後は弓道部の練習であまりTMSには参加できないようです。


周りもだいぶこの光景に慣れたようで、美香さんを眺めて楽しんでいる

愛好者には喜ばれているようです。

ただ、その寛容な心には、ある人物がゲイであるとの情報が大きくかかわってますが。

本人の知らない話です。



「ほんとうは土曜日の午後から行く予定なのです」

「テスト終わってすぐですか?」

「はい、知り合いの別荘・・・とは言っても小さな小屋ですが、

そこに泊まらせてもらって、翌日朝から撮影しようかと」

「一人で?」

「なかなか付き合ってもえらえる仲間も居ないので・・・」



そうです。残念ながら、鉄道趣味を話せる知り合いが未だ居ないのも寂しいです。

そのかわり以前では皆無でした異性の友人は沢山できました。



「あの、私もついて行っていい?」

「え?・・、だって鉄道見に行くだけで、全然観光地には行きませんけど」

「ええ。邪魔もしないし、ただついて行くだけす」

「そんなこと言う人、初めてですよ。旅が好きとか?」

「キライじゃないですけど・・・、瑞樹くんの楽しいってのが見たいと思いました」

「なんか・・・、後で幻滅されそうです」

「ダメ?」


「何もないですよ」


「ダメ?」


何故?ほんとに幻滅が心配です。


「良いですけど・・、後でクレームつけないでくださいね」

「了解しました」


「では撮影は日曜日だけにします」






テスト最終日。午前中で終わりました。

美香さんと打ち合わせしようと教室を出たら、丁度むこうから。


「待ち合わせを決めようとやってきました」

「あ、僕もその用件でした」


「何時にしましょう?」

「早いですよ。始発に乗りますから5時集合でしょうか」

「え、それでは夜になっちゃいます」

「そんなにかかりません。2時間ぐらいです。」


「?そうしましたら着くの8時ごろになります?もう電車も終わりになるのでは?」

「・・・いえ、そこから撮影はじめますが」

「夜って走るの?」


「・・・あの、行くのは日曜日ですよ」

「え?でもこの前土曜日からって」


「あ、その予定でしたが、美香さんも行くので明日日帰りです」

「?なんで?」

「なんでって・・・・、美香さん泊まりになっちゃいます」

「はい。そのつもりでしたが」


「・・・・それはマズイでしょう!女の子が男と外泊って!」

「え?もちろん家にはちゃんと言ってありますよ」

「・・・・僕と行くと?」

「ええ。・・・いやだった?」


ごくごく自然に言われる内容では・・・ないよう・・・なんてアホなこと

考えてないで・・。頭整理・・・、整理、


「普通、怒られるでしょ?」

「私は隠さないから信頼されてるのか?それとも放任主義かしら?」


・・・放任主義ってのはないだろうけど・・・オープンな家なのですね。

好きな人が出来たらすぐ報告しそうです。


「報告しました!」


・・・ああ、たっぱり。・・・・あ、そして好きな人が居るんですね。


「とにかく、早くいきましょう!」

「あ、でも僕、明日からの予定だったから」

「ダメ?」

「・・・・・手配します」






一度帰宅した家で、初期計画どおり今日から行くとだけ言って

機材と簡単な着替えを持って出てきました。

美香さんとは前に日替わり告白された公園で集合です。


「私の家もこの近くですよ」

「そうだったんですか」


「瑞樹くん、この公園で私と逢ったのですよね」

「は・・・、聞いてましたか。恥ずかしながらそんな夢をみたようで・・」

「夢・・なのね」

「男子高校生のはかない夢と流してください」


なんかつまらなそうですが、僕としましても夢なのがたいへん勿体ないことで・・。


「これからのことは現実ね!」

「あ、はい。・・・たぶん」


正直、また夢みているのかも・・・と思っていますが・・

夢でもこんなスペシャルなのでしたらすばらしく幸せなことです!

堪能しなくちゃ。







電車でおおよそ2時間。山に囲まれた小さな集落の無人駅で下ります。

今夜寝る小屋はここから歩いて15分ほど。小屋には自転車もあって、

以前ここをベースにしてアチコチ撮影しました。


美香さんとは今後の撮影予定を話したり、食事は美香さんが作ってくれるとか、

近くに小さな温泉があるとか、ココまでの間にいろいろと話してました。

こころなしか、学校の雰囲気とも違って少し子供っぽさがあります。



「昔話にでてきそうな山あいの風景だわ。俗っぽさなんて一切無い」

「ええ、僕もその普通な日本風景が好きで、電車の撮影以外でも何度か来てるんです」


「食料調達しなくちゃね」

「あ、お店は駅前しかありませんので」


そうです。百貨店と看板がでているよろずや1件だけ。


「じゃあ、私が買って先に行ってるね!」

「あ、はい!お願いします」


この駅で、日が暮れるまでの間に2本通る電車を撮影する予定を話しましたら、

美香さんは夕食を作るとかで、事前に小屋の地図を渡してあります。

楽しそうに行ってしまいました。




少し山道を登ったあたりにカメラを設置。電車が来るまでは暇です。

線路は築堤になってて、ぽつんと小さな駅。その周りは少ない平地いっぱいに田んぼ。

前後は山になってますので、まるで切り取った模型のような風景です。


「なんで、美香さんと一緒に来てるのかな?」


ほんとに不思議なことです。最近は会長ほかTMSメンバーの女性陣にもすっかり

慣れました・・、いえ、振り回されるのにも順応してます。

それは有無をいわさない状況に流されているのですが、今回のはちょっと違います。

僕のいつもの生活に、なぜか学年一番の美少女が居るのです。


「好きな人はほっといて大丈夫なのかな?・・・。夢だったら僕がその男なんだけど、

まあ、残念ながら夢は夢だし」


遠くで音がしました。山の向こうから電車が近づいてきたみたいです。

山あいの日没は早いのですが、今ちょうど良い光線が広がっています。

今回の遠征、良い写真が撮れそうです。






2本目の電車を撮り終え、静かに戻った山あいの風景を数カット。

夕陽に浮き出る部分と山の影とのコントラストが印象的です。


撮影しなが歩いて小屋まできました。美香さんは無事着いてたみたいで、

窓から明かりが見えます。



「只今かえりました」

「あ、おかえりなさい。満足できるの撮れた?」

「ええ!想定外でした。紅葉には少し早いのですが、今の季節は光線が良いです」

「ほんとに楽しそうですね!その顔、見れて良かった」


・・・なんか、一人興奮してるのが恥ずかしい?

あれ?こんな感じ、前にもありました。遠い昔。

ああ、ムツねえと電車を見に行った小学生の頃の思いと似てます。




「・・・、なんか、料理がスゴイのですが・・・」

「内容はシンプルなんですよ。ただ見栄えの良い感じで揃えてみました」


いやいや、これは・・。焼き物、揚げ物、煮物って・・・・シンプル?


「そうだ、お風呂が解らなくて・・・、瑞樹くん入りたいでしょ!」

「ああ、伝え忘れてました。ここ薪風呂です」

「あのなんかスゴイの、やっぱりお風呂なんだ。」


ええ、スゴイ・・・とは、ほとんどドラム缶みたいな桶の風呂で、

薪を燃やして入るんです。なので手間かかるんです。


「なので、いつも近くの温泉使ってます。今日やってるかちょっと見てきます」





少し奥側に湯治場みたいな温泉があります。時期によって開けるので、

いつも一番に確認してたのですが、すっかり忘れてました。


「あ~・・・・、明日からか・・・・」


張り紙には今週は今日までお休みと・・・。

今夜は風呂ナシだな・・。美香さんに悪かったかな・・・。




帰って報告後、さっそくご飯いただきます。


「やっぱり百貨店?にはあんまり無かったのね。でもおばあさんがとってきた

野菜とか山菜とかいっぱいあって。だからそっちメインのご飯なの。」

「ああ、それで野菜づくしですね。でも料理がいろいろあってビックリです」

「いろいろとおばあさんに食べ方教わったの。それを作ってみました!」


美香さん、楽しそう!

電車の撮影だからと心配しましたが、取り越し苦労だったのかもです。

楽しみ方はいろいろと見つけられるのですね。


「ふふふ!なんか夫婦みたい」

「え・・・、う、急に恥ずかしくなりました」


「瑞樹くん、後で夜景を撮りに出るのよね」

「ええ、夜の駅に停まっている電車をバルブ撮影しようかなと」

「でも寒いでしょ?」


たしかに。さすがに夜の冷え込みは街とは違います。



「あのね、私、あのお風呂作ってみたいのだけど」

「え、あの薪風呂ですか?」

「冷えきった身体にお風呂は生き返るわよ」

「たしかにそうですが・・・、作るの大変ですよ?見てなくちゃいけなしですし」

「なかなか体験できないもの。楽しそうだわ。良いかしら?」

「楽しんでいただけるのでしたら助かりますが・・・」

「決まり!作り方教えてね!」


ほんとに、楽しみは見つけるものです。





駅は日に数本しか電車が止まりません。最終と言っても9時前ぐらい。

あとは明日の朝まで一切来ないので、街に慣れた自分には空いた時間の

使い方が思いつきません。早寝早起きになるにはとても良いかもです。


小屋へ戻ると薪風呂から湯気があがってました。


「瑞樹くん、沸いたみたいだから入れるよ!」

「ほんとに作ったのですね。大変だったでしょう」

「楽しかったわ!ちょっと暗くてビクビクだったけど」


薪風呂は小屋の外にあります。ほとんど露天ですので、

日が落ちた山あいの暗さが僕でも怖く感じます。


「さっそく暖まってちょうだい!」

「あ、はい。・・・、でも美香さんだって冷えきったのでは?」

「そうねえ・・。だけど入り方がちょっと解らないので、後で入るわ」


ああ、すのこを沈めて入るんです。たしか五右衛門風呂でしたか。

慣れないと解りづらいですね。


「だから、私もここに居て良い?」

「は?」

「瑞樹くんが使うの見て覚えたいの」

「・・・・僕の風呂をですか?」

「やっぱり恥ずかしい?」

「・・・・なんとなくですが」

「ダメ?」

「はあ、まあ・・・いいです」


なんか、この「ダメ?」ってのにいつも負けるんです。

・・・まあ、地味な男ですから見られてたいしたかんじでないですし・・・。

他の女性陣には以前見られたらしいので、もう良いですが・・・。





弥次喜多道中記ではゲタで入って釜を壊す話が出てきます。

本来はお湯に浮いているスノコを足で沈めながら入ります。


かけ湯をして手ぬぐいを腰に回して


「じゃあ、入りますよ」

「はい、よろしくお願いします」


・・・・美香さんの家ではいろいろなことがオープンなのだろうか。

まったく動じることなく僕の動作を見てますが。


「こうやってゆっくり身体を沈めて行きます。」

「へえ~、面白い~。湯加減はどう?」

「ええ、冷えきってましたから今は熱いですが、しばらくしたら慣れそうです」

「ならもう少し薪入れれば良いのかしら」

「そうですね」


美香さん、薪を少し入れて「解ったわ!」と小屋へ戻って行きました。




は~、なんか、普通の家族みたいな・・・、自然な動作が僕の羞恥心を

消してくれている感じです。


上を見ると星の多さ。周りは山なので、真っ暗な部屋に天井だけきらきらと

明るく切り取った絵のようです。

落ち着きます。なんかじじむさい?


美香さんが戻ってきました。


「えへへ、こんなの一つだけ用意しました!」

「え、これって・・・?サワー?」

「ちょっとだけなら羽目はずしてもね!」


咽も渇いてましたのでありがたくいただきます!


「あ~!!酒が美味しい~ってのはこんなかんじなんですね」



「でね、お願い有るの。」

「はい?」

「私も入って良い?」

「・・・・?・・・はい?!」




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