31 潮騒
<31 潮騒>
「ねえ、この軽便って何?」
「あ、はい。これは普通より小さめで貧弱な規格の鉄道です。」
「なんて読むのこれ?」
「けいべんです」
「・・・・大便の反対?」
「違います」
「・・・便秘の反対?」
「それも違います。排泄物である便・・・から離れてください」
英語ではナローゲージ。ナローは狭い、ゲージは幅。
線路の幅などが狭い鉄道規格を言います。
詳しくはホームページで・・・・て、どこの?
で、この蘭さんとの会話って何?なのですが・・・。
10月の土曜日、僕は久々に鉄道模型イベントに来たのです。
軽便鉄道模型祭。年に一回、模型愛好者やメーカーが集まって開いているお祭りです。
特殊な分野だけに、愛好者も若い人が少ないかわりに、上級ベテランが揃っています。
僕の好きなモデラーも何人か参加されてますので、できれば作品をナマで見ようかと。
会場は同好の人でいっぱいでした。間をぬって模型作品を一通り見た頃、蘭さんからの電話が・・・
「瑞樹ちゃん!やっほ〜!何してる〜?」
「あ、蘭さん!僕は今ちょうど模型イベントに来てるとこです。なにかありましたか?」
「ねえ、そのイベントってどこ?」
「あ、えっと・・目黒です。」
「目黒?・・・目黒って渋谷と近い?」
「ああ、たしか2駅だったかと思います」
「ほんと〜!!!ラッキー。じゃあ、私も行くから場所教えて〜!」
「・・・・・へ?・・蘭さん?どこですか?」
「だからし・ぶ・や!。目黒ついたらまた電話するから〜、道教えてね〜!じゃ!」
・・・なんで蘭さんが・・・・。
数分後、目黒駅からほぼ電話つなげっぱなしでの道順誘導で目の前までやってきました。
「来ったよ〜!説明ごくろ〜。で、何見てたの?」
「はあ、ここで開催されてますイベントです」
で、冒頭の会話になったのです。
「じゃ!見ようか!」
「え〜・・・、蘭さんが・・・・?」
「何?見られちゃ不味いとかなの?やっぱスカトロ?」
「・・・・いえ・・、どうぞ。入場料¥500かかりますよ」
「学割は?」
「ありません」
先ほどより若干すいてる会場を、蘭さん先頭で歩いていきます。
「なにこれ?天空のラピュウタだって・・・。あ、見た見た!最初に空から落ちてきた女の子を受け止める所だ!」
「それは、その場面をジオラマで再現したんです。ほら、トロッコとか」
「こっちはすごい崖。なんだかネズミの遊園地にある乗り物みたい」
「ああ、ビックリさんマウンテンですね。似てますね」
「わ、ケーキの上を汽車が走ってる〜!お菓子の国みたい!」
「鉄道模型のアートですね」
「なんかテッチャンのイベントとか言ってたからあんまり期待しなかったけど、すごく面白い〜!。
いる人も子供はほとんど居なくておっちゃんばっかね〜」
「蘭さん・・・声、大きいです・・」
冷や冷やです!すごく浮いてます!!蘭さん制服だし・・・。コミケとかだったら馴染んだんでしょうが。
あ、なんか蘭さんに電話が入ったみたいです。キリが良いのでいったん外へ出て一休みです。
ほんと、少しの間で精神的に疲れました・・・・。
「は〜・・、面白かった〜!!来年はみんなも連れて来よう〜!」
あのメンバーですか!?
・・・・・・すごく・・・勘弁かもなのですが・・・・。
「あのね〜・・、瑞樹ちゃんにお願いが有って・・・」
「どうしたんですか?」
「え〜と、じつは今日さ〜、競技会あったんだよね〜。で、終わって電車のってたら・・・寝ちゃってね」
「あ〜・・、それで渋谷ですか?」
「そうそう!渋谷で降りたの。で、ついでだしちょっと見てたら・・、電車に荷物忘れてたの思い出したのね」
「あ〜・・・それは・・・・」
「それで、今見つかったって電話きたんだけど・・・、ちょっと遠いの。」
「え?どこまでいっちゃったんですか?」
「え〜・・・、海の方」
「それは・・・・辛そう」
「で、取りに行こうと思うんだけど・・・お金貸して?」
「え?持ってなかったんですか。」
「手持ちは少しで、あと荷物の中」
「それは・・、ますます災難でした。」
ほんとに、災難・・・と言いますか、蘭さんらしい?
「じゃあ、僕も行きます」
「え?なんで?遠いかんじだよ?」
「ええ、でも今から行ったら帰りはもっと遅いですよね。蘭さんが心配ですから」
「うわ〜!瑞樹ちゃんやさしぃ〜!!私のこと心配してくれてる〜!」
「あ〜、なんか遠いことに怒り始めて駅員さんに難癖つけそうで・・・」
「瑞樹ちゃん、言うようになったわね〜」
「鍛えられました・・・」
蘭さんに聞いた駅は、マジ遠いでした。いったいどれくらい渋谷で遊んでたのか・・・??
その間荷物のことすっかり忘れて。
荷物を無事受け取った頃には、帰るのにギリギリの時間です。
「蘭さん、もうすぐ電車きちゃいます!急ぎましょう」
「う〜ん、もう疲れた〜〜〜!!眠い〜〜〜〜!!」
「子供ですか!!」
「眠い眠いねむいの〜〜!!」
マジ子供です。
「ねえ、明日も休みだし、このあたりで泊まっていこう!」
「は?そんなの無理でしょ。だいたいこの時間で、しかも高校生を泊めてくれる旅館なんてありませんよ」
「え〜・・・」
しばらくブツブツ言ってましたが、突然どこかに電話をかけてます。
なんかよく聞こえませんが、借りは返すとか一生のお願いとか・・??
「よし!じゃあチャレンジしよう!。あの旅館がまだ開いてそうだ!」
「え?マジですか?失敗したらもう帰れませんよ!?」
手をグイグイ引っ張られながら一応忠告です。
「あ、瑞樹ちゃんは弟だから、よろしく!」
「は?弟?」
ガラッ
「あの、スミマセン!お願いがありまして」
中からおかみさん?らしき人が出てきました。
蘭さん、なにやら電話の電源を少しだけ借りたいと交渉中。
電車の時間が迫っているのに電池切れ、乗る前に家へ連絡したいとか・・・。
おかみさん
「まあ、急がなくちゃ!どうぞこれ使ってね」
ああ、優しいです。
で、蘭さんさっそく充電しながら電話を。
・・・・・声聞こえます。電話相手の。
何やら遅いから心配だとか、どこか見つけて泊まってこいとか・・。
あ、蘭さん弟も一緒だとか言ってます。
おかみさんを見た蘭さんが
「あの・・、今日ここに泊まることできますでしょうか?」
と聞いてます。
おかみさん、蘭さんとこっちをチラッと見て少し考えて
「部屋はあるけど・・ご兄弟?」
「ハイ、電車の忘れ物をとりにきたのですが、帰りが遅くなってしまいまして・・。
あの、母も出来ましたらと言ってまして・・。あ、電話をかわってほしいとのことなのですが・・・」
おかみさん、蘭さんの電話に出て話してます。うなずいて、あ、了承してるみたい。
「解りました。お母さんからもお願いされましたのでどうぞあがってください」
「ありがとうございます。助かりました」
「そうなの、競技会で・・。まあ、弟さんも一緒に?仲良いのね〜。
それにしても、ここまで荷物取りには大変だったわね〜。今日はゆっくりと休んでね。
明日も出る時間は気にしないで。疲れがとれてからで良いですからね」
部屋に通されて一通り話をしました。
ええ、荷物取りにきてこの時間はあってます。
その後のことは・・・?
そして・・・・、弟である僕は当然同じ部屋です。似てないのに・・・・でなく、
どうするんですか〜〜〜!!!
「えへへ〜!!不倫旅行〜!」
「・・・だれか結婚してますか!。しかし・・・蘭さんも大胆な嘘を・・・」
「見た通り真面目な女の子だからね〜!優しくしてもらえるの!」
「・・・・はいはい。ところで、さっきのアレ、誰ですか?」
「え〜・・・・、リンちゃんで〜す!」
「え?会長!?・・・声聞こえたけど解りませんでした」
「でしょ〜!何度助けてもらったことか」
「・・・・あまり聞かないようにします。」
「さあ、お風呂行かなきゃ!もうギリギリだし!」
「ご飯はおにぎりとオカズだけしか無いみたいですね」
「食べれるだけ良しでしょう!」
お風呂から出てくると、布団とおにぎりが用意されてました。
「あとビール有れば満足なんだけどね〜」
・・・あんた、高校生だろ
日付が変わる頃には食事も終わり、今日撮影した会場の様子をカメラでちらっと確認。
「あ、カメラ持ってたんだ。」
「ええ、一応いろいろと撮りました。」
「ねえ・・・、あたしを撮ってくれない?」
「え?いいですよ。浴衣姿ですか?」
「うん、なんだか記念にしたくて」
「バックは・・・夜なので外は無理ですね。」
「見えなくてもいいから、窓開けて外をバックでがいいかな」
ここは海が目の前です。松の木の向こうには青い海・・なのでしょうが・・、少し残念。
蘭さん、浴衣姿が色っぽくてちょっとドキドキです。
何枚か撮った後
「一緒に撮ろう!」
と言われて、カメラを固定しつつ蘭さんのとなりへ。
「えへへ、新婚旅行〜!」
「のりのりですね!こっちはドキドキです」
「じゃあ、もう一枚撮って寝よう!」
「そうですね」
用意してまた蘭さんの隣へ。
「リンとは前に撮ってるのよね」
「え?・・・・」
・・・・・・
「これでおあいこ!ほんとは顔をこっちに向けようかと思ったけど・・・自制した」
・・・・・固まりました。
「ほら!寝るわよ!」
「は・・・はい」
波の音だけがします・・・。寝れない・・・。ドキドキが止まらない。
蘭さんはもう静かになってる。すっかり寝たのかな・・。
今さらながら、同じ部屋で、横に寝ていることが気になってしまって・・・。
バサッ
・・・・お願いです。布団めくれてます。暗い中で妙なラインが浮き彫りになってます・・。
寝相・・・直してください。
・・・・・・・
「見たい?」
「・・・・・・わざとですか」
「正解!」
「・・・・・・寝ます」
「あら・・・残念」
モハ101・・くは201・・・さは301・・・・
朝に・・・、早く朝になってほしい・・・。