20 スクラム
<20 スクラム>
正直、いろいろ混乱しているのですが、今現在一番の混乱は自分の胸に押し付けられた頭。
ここからは顔が見えないのです。フッと持ち上がったら別人!なんてオチがいかにも現実だろうなあ・・・と
思えてきた頃。長い押さえ込みが外れてすっと離れていく感覚。
あ、やっぱ今柔道の組み手だったんだ。そうだ。そうに違いない!
なんせこの自分の胸にじょじょじょ女性が・・・、しかもあの会長がしがみつくわけが無いものなぁ・・・。
現実にもどらなくちゃ!
離れた影はやっぱじょじょじょじょせい?でもうつむいたままなので髪がかぶって・・、
やっぱ顔見えない。あ、これって貞子か?貞子なのか!!テレビ無いけど・・・・貞子か!!????
「さだ子・・・」
あっ!しゃべった!!さだ子って!!!おわわあわw・・・
「じゃない!」
バシッ!
ああ~・・・、落ち着きました。あ、会長!お疲れさまです。
てか、今のツッコミって蘭さんのパートでしょう!会長キャラちがうでしょう!!
「私が・・」
「色々と」
「思う」
「気持ちを」
あ~~~、春夏姉妹キター!?って、やっぱ会長のネタで無いです。
「!!!無にするなー!!!」
きぃ^^^~~~ん・・。
耳つかまれて思い切り叫ばれた・・・。
「・・会長。服が少し汚れてます。あ、このハンカチどうそ使ってください。」
「ありがとう」
ああ、僕は爽やかな好青年。ラララ空も海も山も風も僕にとっては美しい背景さ~。
・・・・・・・
・・・・・・・
え~、たった今、戻りました。長い旅でした。
「リンさん、送ります。」
「・・・ありがとう」
歩いてます。会長と二人です。
揺れる髪と背中を見てます。とても小さいです。
「あの、少しお聞きしても良いでしょうか・・・」
「・・・・・そうね・・・・。やはり・・ここまでね・・・」
「あの?」
「話すわ。ただ少しだけ・・・気持ち整理させて。」
自分と会長、駅前まで戻ってきてましたが、そこでベンチへ座ることにしました。
なんだかとても落ち着きの無い会長の姿を見ていたのですが、ここにいてはいけないような気がして、
飲み物を買いに自販機へ・・・。
戻るまでの時間はほんの数分だったと思います。
でも会長の顔はいつもの鈴会長に戻ってました。
「瑞樹・・・くんが聞きたいことっていっぱいでしょう」
「・・・・あ、それはそうなんですが・・・あまり立ち入ったことまではお聞きしないほうがと思ってますので・・」
「・・・優しいね・・・。」
会長の目が少し和やかになりました。
たぶん、気持ちの整理と一緒に、どこか決意をしてたと思います。それが自分の言葉で少し楽になったのかも・・。
「私が瑞樹くんより3歳年上なのは知ってるわね」
「ああ、はい。前にあったカミングアウト大会の時に・・・」
「でも、学年は1年上・・・」
「・・・・」
「空白の2年・・・、いえ、ほんとはもっと長いのだけれど、その明いた私の時間が、今日会った彼らとの時間なの」
「・・・・」
「私、片親でしょ。良くありがちだけど、思春期にいろいろと・・・・。でね、彼らと知り合ったのね」
「みんな若かったから・・・、身体だけ出来つつある子供だったから、今よりも押さえがきかなかった。」
「そんなことだから罰あたったのかも。有るとき、他のグループとイザコザおこしてしまったの。
私たち女ではなく男同士で。それでさっきの三人がつかまっちゃったのね。」
「相手は多かったわ。10数人ほど。丁度テツ・・・、あの後で仲裁してくれた彼も居なくて。
彼、わたしのあこがれだった。ケンカも、あなたも感じたと思うけど、ほんとに強いの。私にとってはあこがれでも、彼には妹だった。大事にしてくれた。」
思い出していたのだろうか。誰もいない改札を見つめながら少しの間、静かな時間が過ぎる。
「女がどうにも出来ないことは解っていた。でも、私は・・・どうしても何とかして助けたかった。
飛び込んで暴れれば・・・・、少しのチャンスが有ればみんな逃げることができるかも」
「そして・・・・その通りに飛び込んだの。ほんとうに若かった。他にも方法はあったかもしれないのに、その時はそれしか無いと信じてた」
「・・・・つかまったわ。無理ないことだわ。・・・・それで・・・・その・・」
「会長!・・・・・・僕は・・・、僕もまだ子供です。だけど・・・、会長は、鈴さんはそのまま僕の鈴さんです!」
震えていた。会長の手が、そして肩が・・・。
その手を知らない間に握っていた。
「・・・彼がね・・、テツ君が言ってた・・まだまだ足りないのは、私へのツグナイ・・・と思い込んでるのね。だけど、違う。
そんなこと、私要らないの。・・・・だって、違うのよ、もう」
「スッチ・・・って、なんだか可愛いですよね」
突然横から言われた名前にビックリしていると思います。涙が潤んでいる目が、とても大きな目が僕の顔を見たので。
「スッチの鈴さん、そしてリンの鈴さん。どれもみな素敵な女性です!」
だれが言っているの?と
訴えていると思われる目が、未だに自分から離れません。
いや、ここは自分でも思うので、それは正解な反応ですね。ほんとに女の子免疫無いはずなので。
そして、今一度聞いてみたい、ずっと疑問に思っていたことを実行するのは今ではと感じてます。
あ、僕が好き?とかの話では無いので・・・残念ながら・・・。
・・・でも、そっちも気にならないなんて言えませんが。むしろソレを確認したいのですが・・・、どうしても「僕」の思い過ごしに
思える・・・、いや思い込んで抑えているので。もう、傷つきたくないですし・・・。
「信じられない・・・。瑞樹ちゃんがそんな言葉かけてくれるなんて・・。女慣れしているわね」
「え?僕が女なれ?・・・そのイメージは無しの方向でお願いします・・・。ただただ明るくない未来になりそうなので・・・」
少し戻ったかな?会長。やっぱりその方が良いです!
「でも、お話だけお聞きしてますと、まるで別の人の物語みたいですけど・・・」
「そうね。別人よね。」
そう言って、少し嬉しそうに笑った会長。
「あのね、それにはちょっとした理由があるのだけれど・・・・」
見た感じ少し悩んでます。
「さっきの続きになってしまうのだけれど・・・。私とあの三人がちょっとやな状態に
なってしまっている時に、どこからか本が飛んできたの」
「え・・・・?」
「もうボロボロだったから正義の味方には遅いのだけれど・・・、そのことがきっかけで
その悪夢から開放されたのは確かなの」
「私、もう泣き叫んでたからハッキリとは聞こえなかったけれど・・・・、どうやらその本を投げた人が警察に知らせるとか大きな声で叫んでたわ」
「・・・・・・」
「無意識だったのね・・・。精神崩壊みたいな私はずっと投げられた本をかかえていたわ。そして・・・、少しずつ、投げた男の子の顔を思い出したわ」
「・・・・それって・・」
会長は静かに手を動かしてカバンを開けて・・・
「あなたね。あの時助けてくれた男の子・・・。そして、これがその時の本ね」
差し出された本を見た僕は、あの2年前の恐怖を思い出していた。
そう、毎月買っている月刊誌。あの日も買ってきたばかりのソレに目を通すため、少しゆっくり出来そうな場所を探していた。
そう、だから聞こえたのだ。あの悲鳴。
泣いているのに、回りの男達は笑っていた。怖かった・・・。まさか目の前でこんなこと見るなんて・・・。
どちらもヤンキーに見えたし、もともとケンカする力も度胸もない自分にとって、ここは
見ないことにして逃げるのが一番良い選択だと思った。
でも、その悲鳴の声が耳から脳へ、そしてなぜか「助けるんだ!」と思わせる強い声が思い浮かんだ。
そのことずっと謎だった。その時だけの感情だった。
僕はまだ携帯も持ってなく、そのため助けをよぶことも出来ない中学生。
手に持っているのは・・・・・本。
投げた。それは男達のだれかに当たった!
怒声が聞こえたけれど、恐怖が取り巻いている僕には解らない言葉だ。
ただ「警察に連絡した」と叫んでから思いっきり走った!
走って、走って・・・・一切振り向かずに。