18 決断(春香の回想)
今回は春香視線でのお話です。
そして少しシリアスです
<18 決断(春香の回想)>
「おれが戻してあげるよ」
男の子はそう言って走っていった。
無意識にだと思う。いつのまにか手に持っていた本は、さっきまで立ち読みしていたものだった。
「なっちゃん、返しに行こう。きっと許してくれるよ」
「でも、立ち読みをすごく怒ってた。きっと信じてくれないよ」
どうしたらよいものか、公園のベンチで目をうるませながら二人でただうなだれていた。
そこへ横から聞いてたのか、男の子が本を自分たちから取り上げて最初の言葉を言ったのだった。
しばらくすると公園へ男の子が戻ってきて
「ちゃんともどしといたから!安心だよ」
ほんとうに嬉しかった。
男の子は自分たちとは違う小学校みたいだった。でも学年は同じ。
なんとなくその後も公園で会ったりすると、一緒に遊ぶようになった。
有るとき、いつのまにか私の後ろに立っていた男の子。なにも言わずにスカートに手を
かけてまくりあげていた。
「いや!」
手を払いのけて拒否をした。なんでいきなりそのようなことをしたのか
頭の中で混乱している。
「見たいんだ。」
「そんなのいや、ハズカシイ!」
「・・・・・・いっちゃうよ」
「え?」
「本盗んだこと」
とても信じられない言葉が聞こえた。いつもの明るい笑い顔が、
いまはとても怖い笑いに見える。なぜ、そんなこと今更言ってくるのか。
「少しだけ見たいんだ。目を瞑ってたらいいから・・・」
お父さんやお母さんに知られたくない。学校の先生や友達にも・・・。
実際はそんなこと出来ないのだと思うが、その時は考えられなかった。
だまって目を、顔を手で隠した。・・・早く、帰りたい。
後で知ったのだけれど、夏美にも同じことをしたらしい。
怖いので、その後公園には行かなくなった。
そんなことも忘れていたある日、道であの男の子が立っていた。
見た途端、私も夏美もしばらく動けなくなった。
思い出したように、来た道を戻ろうとした後ろから
「いいものがあるんだ」
と、男の子が声をかけてきた。
なにか手に持ってさしだしている。遠くからでも解った。
それは・・・あの忌まわしい記憶。
そう、ハズカシイ姿の自分、そして夏美。
「また、見せてくれたらこれは閉まっておくよ。」
いつのまに・・・。
夏美が震えている。私も。
男の子は、忘れた頃に現れた。
要求はいつも同じ。それは中学に入ってもますますエスカレートしていった。
思春期。とてもハズカシイ。悔しい。
夏美と一緒に、いつも震えていた。どうしてこんなことになってしまったのか・・・。
中二になっても現れた男の子は、もう昔のような子供ではなくなっていた。
次に会ったら・・、きっとただではすまされない。
人に会わないよう、なるべく違う道を選んだ学校からの帰り道。どちらともなくただ泣き出して、
どこかの
マンションの階段に座り込んでしまった。
気がつくと一人の女の子が目の前に立っていた。自分たちと同じ制服。
女の子は3年生だった。やさしくいろいろと気にしてくれたことで、
我慢して隠して、いままで言えなかった忌まわしい出来事を話していた。
その3年の女の子はじっと聞いていた。話し終わって黙り込んでしまった私の耳に
「ゆるせねえ」と聞こえた。
次の日から、その3年生は一緒に登下校することになった。
名前は
「三木 蘭、ランちゃんって呼んでね」と。
歩いている時は、明るく、すこしふざけていろいろな話題をいっぱいにしゃべっていた。
3年の三木先輩。
いろいろと噂は耳に入っていた。とても素行が良くない内容ばかりだったが、目の前の女の子は
どこから見ても普通の女子中学生にしか見えない。私たちともなぜか相性が良かった。
蘭さんは「親友に似ているんだよ、二人とも」と言っていた。
あの男の子は現れなくなった。それは蘭さんが卒業して、また二人だけになっても変わらなかった。
私たちは、少しずつ男の子のことを忘れていった。
高校に進学した。また会いたかったこともあり、蘭さんの学校を選んだ。
「どう?順調〜!?」
「はい、」
「その後は問題もなく」
「良かったね〜!気分をかえて彼氏でも作りなさいね〜」
「「・・・・」」
「どしたの?」
「あの、まだ・・・」
「男の人は苦手で・・・」
「ふ〜ん、・・・じゃあ、一緒にサークルしようか!?」
連れていかれたのは「鉄道ミステリー研究会。」
まったく解らないのですが、魅力的な先輩と、すこし地味な男の子。
そして三木先輩がいるので、なにも考えずに入会することになった。
すごく楽しい日がはじまった。いままで他の人とこんなに過ごしたことなかった。
唯一の男子会員である瑞樹くん。地味だけれど誠実で、だんだんと緊張しないで
話せるように。そして少し悪戯もしかけるくらいに。瑞樹くんにはちょっと可愛そうだったかも・・。
ある日、思い切って瑞樹くんにお願いすることにした。
自分たちの写真を撮ってもらいたいと。
写真を撮られること。あの忌まわしい記憶がいつも拒絶で出してしまう。
瑞樹くんだったら、そして会の先輩方だったらその壁を取り除いてくれるかもしれない。
そして、願ったとおりに。
男の人に対する怖い気持ちもだいぶ無くなってきた。
その頃には、なぜかいつも瑞樹君を気にしていた。
夏美も同じ。私には解ってしまう。
夏休みも残り2日になった。
突然だった。目の前に、あの男の子が笑って立っていた。
「引っ越してきたんだ。こんな近くになるなんて奇遇だね。」
見ると引っ越しの最中みたいで、トラックから荷物を運んでいる男の人たちが見えた。
背中に「便利屋」と入っている。
私たちは逃げた。またあの忌まわしい記憶が・・・。
どこだろう。いつのまにか大木の影に隠れるようにしていた自分たち。
「春香。もう・・・、前みたいには戻りたくない」
「わたしも、同じ。なにか考えなきゃ」
私たちは一つ方法を考えた。忌まわしい記憶は、あの男の子が持っている写真。
その写真さえ無くなれば、私たちも、もう怖がることもない。
戻るとトラックの荷物はおおかた下ろされたようで、あとは
壁際に数点の荷物が。
私と夏美は見つけた。そこにPCと機材、CDなどの記録メディア。
飛び出してつかみあげ、後ろを見ずに走り出した。
手に抱えた機材。たぶんハードディスク。そしてCD。
PCはとても持てない。だが、おそらくそんな記録は外にあるはず。
カケだった。
怒鳴り声が聞こえた。足音もだんだん近くなってくる。
たぶん・・・ダメだ。もうつかまるかもしれない。おしまいだなのだ。
楽しい、充実した高校生活。・・・もう・・・・・
「やめてください!」
白い何かが目の端に飛び込んできた。なんだか解らない。
「早く!走って!」
その白いものが私たちに叫んだ。
解らない。でも、言われた通り、私と夏美はできる限り走った。