01 なぜ僕はここにいるのだろう?
01
「なぜ僕はここにいるのだろう?」
駅前広場とは言えない小さなスペースが有り、数年前までは
開いていただろう商店らしき建屋が1軒。
この無人駅が地域の中心であったシンボルのような大きな木に、
ささやかな駐輪場が全てだ。
赤く鮮やかなミニバイクだけが現実を認識させていた。
約束の時間からは数分ほどしか経過していないのに、
異次元に一人で迷い込んだような心細さと疑問ばかりが思考をくりかえしている。
「なぜ、僕はここにいるのだろう?」
新入2日目の授業は午前で終わり、昼食後は各クラブの勧誘説明会になっていた。
いわゆる鉄道好きな自分。高校生活で鉄道関連の倶楽部を満喫にとの願いも、
配れらた各部リストで見事に轟沈。
勧誘の声で賑わう校内をぼんやり歩いていた目に、「鉄道」の文字が飛び込んで
きた時は思わず声をあげて駆けだしていたのは我ながら単純だなあと・・・。
そこは喧騒から外れた教室で、廊下側の窓2枚に貼られた「鉄道」「研究会」の文字だけが
輝いている空間だった。
(別にきらびやかに装飾されているわけでもないので、単純な脳内補正だったのだろうとは後々に)
恐る恐る空いていた所から中を覗くと・・・、黒髪セミロングの女子が座っていた。
「入会希望?」
ほぼ逆光な影から発した声は、静かだがよく耳に通った。
見間違いではなく女子、そのことで初対面の挨拶を考えていた頭が一瞬で停止。
口は勝手に答えていた。
「はい」
「時間ぎりぎりなので急いでね」
教室を歩き出した女子は、未だ廊下側窓から見ていた自分の目の前まで来ると封筒を差し出した。
セミロングの髪が逆光に反射して作る光の舞いに見とれていたからなのか、
思考停止した自分を残し、用件はすんだとばかりに女子が廊下の角に消えるまでポカンと見送っていた。
時間にして数十秒か、頭には黒髪の後ろ姿と「急いでね」の言葉がくりかえされた頃・・・。
我に返って封筒を開けてみた。
[本日15:00 早川口駅。]
封筒の中の、いかにも女子な文字が何を意味するかまったく解らないのですが、
指定時刻(であろうと思った)になんとか間に合いました。
学校最寄り駅からさほど本数多くないローカル電車で2駅。
おそらく、ここに来れば本来のサークルメンバーが集まっていると判断したのですが・・・。
結果、冒頭の状況で途方に暮れております。
「てか、あの女子は何だったのだろう?最近は鉄女も居るようだし・・・居てもおかしくないのかな?
あまりの綺麗さにビックリで思考フリーズだったな~。
(仕草、声、黒髪により打ち出した脳内イメージ)
なんか甘い香りも・・。
(新たなイメージを錬成)
どうしよう、ちゃんと話せるかな?かなり不安だな・・・。
(年上女子との未来図に発展中)
あんな姉貴が現実に居たらもっと女の人に免疫できたかも・・。
どうしよう・・・、僕もいよいよリアル世界に・・・
(輝かしい未来と大人な自分を演出中)」
一気に広がった一人妄想劇場は、知らず知らずに声となってました。
早川口が無人駅で良かったです。
たとえ一人でも恥ずかしさは時刻表を確認とか誤魔化しの動きをしちゃいます。
時計も見ちゃいます。
「ええと・・、今は・・・3時10分か」
恥ずかしい言動に上書きする声も出します。
鉄道研究会関係者が居ればすぐ解りそうなんだけれど・・・、なんかだまされた?
あ〜・・・、そうなのかも。やっぱり・・・、女の子は・・苦手だ。
「ほんと、なんなんだ、あの女子・・・」
甘美な妄想が崩壊すると、反発した思考になるのは小さな人間ですので→自分。
と、半分やけになった目で帰る電車の時刻を調べ始めたのでした。
ふと目のハシに入った伝言板に気になる文字が見えたような・・・・
今一度じっと見直してみる。
>本日15:20 上り323M 2号車 8D
いかにも女子な文字と、323M・・?が目についた。
このローカル線には好きな電車が1日1往復走っている。よく写真を撮りにいっているので時刻はおおむね解っている。
通常列車には背番号といえるナンバーが決まってて、その列車が323M。
「15:20は多分時刻。おそらく2号車の8D席。」
本来指定席は無いのだが、それでもだいたい車内には座席番号札が付いている。
「これに乗れ・・・なのか?。まあ好きな電車だし時間も出来たし、帰るにも丁度よいので
もう少しダマされてみるか。」
少し面白がってみることにした・・とは大人ぶった言い訳で、実際はまたしても[女子な文字]で
ばら色思考発生中となったのは・・・言えない。
目標の電車は2両編成。
後側の2号車は程よく座席が埋まっていた。
真ん中あたりでポカッと空いたボックスが8Dだった。
なぜ空いていたか不思議に思うのもつかの間、座席の上に見覚えの有る封筒が
目についたことで、まよわす思考がその中に集中した。
[金十駅北口 鈴八]
北口?鈴八?なんだかさっぱり解らない?
金十駅はさっきまで居た高校の最寄り駅。だとするとまた戻ることに
なるわけで、早川口へ行くのはなんの意味があったのか?
「やっぱり・・からかわれてる?」と普通に思えば無視して帰るのだけれど。
いかにも[女子な文字]で・・・以下略。
以下思考続き。
鈴八・・・は、駅前に有るケーキ屋か?
カフェにもなってて、女子に人気のパフェやシュークリームが有るらしいが・・・。
あそこに入るのか?僕が?女の園だぞ??・・、。いや、しかし女子からの呼び出しだし有りか。(←崩壊中)
悩んで(妄想とも言う)いたらあっけなく金十駅到着なので、とりあえず鈴八に向かってみた。
で、入った。
・・・・・・・・・・・
出た。
水に潜るよりもたなかったような気がします。
店の中は近くの学校の生徒に埋め尽くされていたので、覗くだけですぐ出てきてしまった。
こちらに注目する者もなく、またそれらしい人相も見当たらず(を、ほんの数秒で確認)、
つぎの進展を少しながら期待していたのですが、あっけなく拍子抜け。
「なんか、甘美な謎解きもここまで。現実に戻ろう」
一度学校に帰ろうと思い直し、歩き出したとたん顔前を突然出てきた箱に遮られました。
その箱を見つめていた自分は、持っている手、持ち主の顔まで視線を・・。
と、そこには先ほど学校で見たセミロングが。
「行くわよ」
引き続きポカンと見てた自分に、あの静かでよく通る声が。
ああ、こんな声だったと思うのと同時に足は自然と後ろを歩き出していたです。
学校までの10分。その間に女子のセミロング(しつこい)がはなつ柔らかな光を
見ながら歩くだけで、思考は停止したままでした。
最初覗いた部屋まで戻る。くるっと振り向いた女子は
「合格だわ」
と一言声に出して、そのまま箱の中身を机に出し始めた。
直視されてない状況になり、やっとおちついて女子を確認。
ああ・・・、降臨。(我が想像は間違っていなかった!)
「あの・・・、いろいろとお聞きしたいことが・・・」
最初の疑問が口から出る頃には、魔法瓶から紅茶らしいものをそそぎ終わった女子が
正面に座ろうとしていた。
「座ってから、ね。」
瞬時に座る自分、加速装置が有ったのか・・・。
が、やはりハズカシイので正面の綺麗な顔を見ないことにする。
目は机の上に並べられたシュークリームを見て、じっと・・・、じっと・・・。
何だっけ?聞きたいことって・・・??
俺は鶏か!!
「今日から研究会のメンバーよ」
「あの、それは入会許可・・とのことでしょうか?」
思わす目線を上げると自分の問い掛けにただ一回うなずいて、ゆっくりと紅茶を飲んでいる。
目はこっちを見据えて・・・。
ダメだ、ハズカシイ・・・、見れない・・・・。
いろいろと聞きたいことがあるのに・・・・。
て、何だっけ?
再び机あたりまで視線をおとす。
何も言わずに、シュークリームのお皿をこっちに押し出してくる手が見えた。
たぶん食べろ・・・なのだろうが・・・。
「私、八神 鈴」(やがみ すず)
もう一度目をあげ、今度は今のことばの意味をたしかめたくジッと女子を見た。
「会長よ」
快調?
そうか、いかにも健康そうな美人は当然ですよね。
僕も一応健康には地震ありますが、運動とかは苦手です。
・・・、地震じゃなく自信だって。
・・・・?
あ、もしかして違う?今身体の話や天気の話は出ないよね。
天気はもともと出てないけれど・・・。
かいちょー、会長・・・、生徒会長・・・なんて。
あっ、サークルの会長!
「・・・・あ!、僕は新入生で・・」
と言いかけた所に
バタタタ・・
「リン〜!、甘いもの補給~!!」
ガラッ!
「お、おお~!新人~新入生!?」
ガコーン!!!ガタタ・・・・
「アイタタ・・・、イタ~。なんで私の前にイスなんか有るの~!ガツ!」
盛大に足ひっかけて転んで起き上がってイス蹴って・・・転んで。1秒くらい?
その間見ているだけでスローモーションでした。
大声発して飛び込んできたのは・・机の下の女子であろう物体。
「モー、まったくモ〜!!」
「・・・・牛?」
思ったことが思わず口から出てしまった自分、またもや無意識で後悔。
「ちょっと~、なに何~、年上のお姉さんにさっそくセクハラ~?」
バキっ!
脳天から何かの本でたたかれてやっと正常思考に。
「今度不穏な文字を連想したら・・・死!」
「・・・はい・・・」
でも、おかげでなんかやっと顔をあげて普通に目を見れる気持ちになりました。
「で、自己紹介ね!」
スカートの裾を整えながら斜め向かいに座った元気女子。
「会長の名前は聞いた!? 八神 鈴ね!。
そしてあたしが三木 蘭。
二人とも2年生で、この会の全メンバーで~す!」
またキレイ系女子が増えた・・・などと思いつつ。
「あ、え〜僕は先日入学しました 一条 瑞樹です」
まだ少し混乱しつつ、やっと自己紹介出来たのにホッとしたのですが・・・
「・・・・え??、お二人で全員なのですか!?」
「そうよ〜!まだ出来立てほやほや~!だし、入会規定厳しいからね!」
「・・そう。出来立て。」
二人の答えに少しだけフリーズ。
「ですが、鉄道研究会・・ですよね!?、女子・・、女性だけって?」
「そうねぇ~、そうかな〜?・・・。鉄道ってのがやっぱ限定しすぎだよね~」
「限定って・・・、でも、そのための研究会ですし・・・」
と、窓の字を指さしつつ疑問とも質問とも声に出していると、女子・・、
八神会長がすぅ~と窓際へ。
カラカラカラ・・・
「ありゃ~、文字隠れてたよ~!、どうりで変な質問ばかりくるわけだ!。
モデルとか、写真とか・・・。モデルクラブじゃないっつうの!」
出てきたのは[ミステリー]の張り紙。
ッ!
ええええ~~~!「鉄道ミステリー研究会」ですか~~~~!!!
目を丸く、口を大きく開けてるだろうな~・・・・となぜか自分で思いながら声も出せずに再びフリーズ。
「リンちゃんさ~、やっぱ名前限定しすぎじゃない?」
「そうかしら?・・・。でしたら・・・」
ペリペリっ
ッッ!
ええええええ~~~!「鉄道」をハガシマスカ~~~~!!!!
それじゃあ、ただのミステリー研究会ですよ~~~~~!!
(心の声、いや叫び!)
「てなことで、よろしくね~!瑞樹ちゃん!」と三木女子・・、いや先輩。
「蘭、ダメよ!」
「え~、セクハラの償いとしていただこうと思ったのに~」
気付くとぷぅ~っとふくれた三木女子に、諌めた八神女史の構図。
どうやら自分のシュークリームは早々に平らげ、こちらのシュークリームにまで
出してた手を叩かれたらしい。
そんな様子を停止した脳はなにも判断することなく、この先の高校生活計画が
別の路線に変わってしまったことを予感してます。
ただし、ほんの少し・・・この女子とすごすのもウレシイかもとも
思ってます。
・・・合格ですか。ミステリー研究会です。
鉄分無し・・・ですか・・・。
「牛」・・・は禁句決定・・ですね。
今日は、疲れました。