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第二十話

自分はベッドに腰を下ろしながら、軽く言う。


「適当に座ってください」


こういったが公安警察は座ろうとしない。

座っていては緊急時の対応に遅れが出るからだろう。


「では、改めて。俺は如月暁、神城工科大学の四年生です」


俺の自己紹介に応じて、男も名乗る。


「俺は公安警察課長、漆間諒也だ。後ろにいるのが俺の部下たち。全員、公安所属の精鋭だ」


後ろの男女は無言で軽く頭を下げた。


「早速ですが、情報の共有と状況の再確認をします」


俺は部屋に備え付けられていたプロジェクターで監視カメラの映像を映し出す。


「国際科学技術センターの監視カメラは全てハッキングし、制御を奪っているのでそこは安心してください」


「それは本当か?監視カメラを気にせずに動けるのはかなりのアドバンテージだ」


漆間が驚いた口調で言う。


「……ここから先は、絶対に外には漏らさないでください。事件が終わっても、です。約束できますか?」


男たちは無言でうなずいた。


「これまでの交戦で、相手が何者か——何か気づきはありましたか?」


漆間は顎に手を当て、記憶を辿るように言葉を選ぶ。


「報告ではアンチ科学団体とされていたが、実際にぶつかってみれば妙だった。素人にしては動きが良すぎる。あれは、訓練を受けた連中だ」


「その通りです。彼らは市民活動家などではありません。戦闘のプロフェッショナル……アメリカ軍です」


言い終わると、空気が一変した。

公安の隊員たちがざわつき始める。


「静かに」


漆間が一喝すると、場が凍りついたように静まる。


「今のは本当か? アメリカ軍がこの国で武力行使……それが事実なら、国際問題どころの話じゃないぞ」


「本当です。悲しいことに、確実な裏も取れています」


「その話が本当なら……アメリカの目的は何だ?」


漆間が核心を突いてくる。


「通話でも触れましたが、アメリカは“ある物”を探しています」


「で、その“ある物”ってのが何かは……やっぱり教えてくれないんだよな?」


「そうですね……」


俺は言葉を濁しながら、一度思考を巡らせた。

——永久機関に関するデータを外部に漏らすのは論外だ。

だが、“アメリカが狙っている物”がこのUSBだと示せば、公安もより明確な行動を取れるようになるはず。

中身さえ明かさなければ、実害はない。

それに、どんな研究成果かまでは知られなくても、何かの重要データであることくらいは想像がつくだろう。

俺は覚悟を決め、結論を出した。


「——これです」


胸ポケットから、永久機関のデータが収められたUSBを取り出し、テーブルに置く。


「アメリカが狙っているのは、このUSBです」


「その中身が目的、ってわけか」


漆間の視線が鋭くUSBに向けられるが、それ以上は追及してこなかった。

公安の隊員たちも同様だ。彼らにとって重要なのは“何を守るか”ではなく、“何を狙われているか”。

内部の詳細は任務に直接関係ないと割り切っているのだろう。


「了解した。で、俺たちはお前を護衛すればいいのか? あるいは、そのUSBをアメリカの手の届かない場所に移送するべきか……?」


「いえ、漆間さんたちには、囚われている科学者の奪還に協力してもらいます。通話でも話しましたが、アメリカはこのUSBを手に入れるまでは、むやみに殺しはしないでしょう。ですが——状況は刻一刻と変わっている。いつ“その方針”が変わるかはわかりません」


「お前の護衛はどうする?そのUSBが奪われたら終わりなんだろ?」


「確かに、USBを奪われるのが最悪の事態です。でも、それは起きません。俺が持っている限り、大丈夫です」


「……随分と自信があるな」


「はい。ここは国際科学技術センター。上層階にはあらゆる化学薬品、装置、未知の物質が山ほどある。いわば、ここは科学者たちの“聖域”です」


「俺がこの場所で本気を出せば——たとえ相手が戦場のプロであろうと、負ける理由は一つもありません」


この言葉は決して強がりではない。イレギュラーでもなければ俺からこの場所でUSBを奪うのは不可能。


「分かった。じゃあ、具体的にどうする? さすがに数百人の科学者を全員救出するなんて不可能だぞ」


「承知してます。だから、救出は一人に絞ります」


そう言って、俺は第一ホールの監視カメラの映像を指差した。


「その男です。真田忠彦。ぽっちゃりしたのが目印です」


「……その太った男だけでいいのか?」


「はい。というのも、漆間さんたちの侵入はもうバレている。監視は以前より厳しくなっているはずです。そんな状況で救出できるのは、精々一人が限界でしょう」


漆間は腕を組み、しばし考え込むような仕草を見せた後、再び俺に目を向けた。


「で、その真田ってのは、なんで選ばれた? まさか、単なる友人だから……ってことはないよな?」


俺は一拍置いて頷いた。友人という点は否定しない。でも、それ以上に理由はある。


「この男のハッキング技術は世界でもトップレベルです。実際、漆間さんたちと通話できたのも、彼が警視庁のセキュリティを突破したからこそです。彼さえ自由にできれば、アメリカの通信網に潜り込むことも可能になる。選ぶ理由としては、十分すぎるはずです」


「なるほどな……」


漆間は感心したように軽く鼻を鳴らす。


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