お願い
「……その、ほんとにごめん! 今すぐは無理かもしれないけど……その、絶対に弁償するから!」
朝のホームルーム前のこと。
二年D組の教室にて、深く頭を下げ謝る僕。大人しそうなクラスメイトの女子生徒、藤原さんへと。何に対してかというと……その、僕が壊してしまった彼女のキーホルダーに対する謝罪で。
それで、事の経緯なんだけど……僕には、ある習慣があって。朝早くに学校に来て、グラウンドにてクラスの男女10人くらいでドッジボールをするという習慣が。そして、今日も朝から爽やかな汗を……いや、爽やかなんて自分で言うことでもないけど。
ともあれ、時間ギリギリというわけでもないけど……まあ、ドッジボール後の高いテンションのせいかいつも結構なスピードで教室へと駆け込んじゃうわけで。そして……その、廊下側の先頭の席――つまりは、扉の一番近くにあった机へとぶつかってしまい、その衝撃で机に置いてあった彼女のキーホルダーを壊してしまったわけで。そして、その時のすごく悲しそうな藤原さんの表情が胸に突き刺さり……うん、本当に申し訳ない。謝って済む問題ではないけれど、それでもせめて必ず――
「――ううん、弁償なんてしなくて大丈夫だよ」
「へっ?」
すると、ふと届いた声。驚き顔を上げると、そこには穏やかな微笑で僕を見つめる藤原さん。……ひょっとして、気を遣ってくれてる? ……いや、でもそれは駄目だ。だって、そのキーホルダーは藤原さんにとって大切な――
「……でも、その代わりと言ったら何なんだけど……一つ、お願いがあるの。三好くんに」
「……ここ、なの? 僕を連れて来たいところって」
「うん、来たことある? こういうとこ」
「あっ、うんもちろん!」
その日の放課後のこと。
そう、少し驚きつつ尋ねる僕。すると、ニコッと微笑み答えてくれる藤原さん。今、僕らがいるのは街角の小さなゲームセンター。いや、正解にはそのすぐ外に備え付けられたUFOキャッチャーの前で。……いや、僕は好きだけど……でも、偏見だとは分かってるけど、大人しそうな藤原さんがこういうところに来るのはちょっと意外で。
ところで、本当は今日の放課後――今の時間は友達と遊ぶ約束があったんだけど……でも、申し訳ないけど流石に断るしかない。いくら先にしていたとは言え、藤原さんの大切なキーホルダーを壊しておいて遊ぶ約束を優先するわけにもいかないから。……でも、それにしてもどうしてここに――
「――ここ、私の家なんだ」
「…………へっ?」
すると、そう口にする藤原さん。……えっと、どゆこと? 私の家って、いったい――
「……ううん、この言い方だと語弊があったかな。ここに住んでるわけじゃないんだし」
「……あ、うん」
すると、クスッと微笑みそう口にする藤原さん。話によると、このゲームセンターは藤原さんのご夫婦が経営しているとのこと。そしてお宅はここから10分ほどのところにあり、藤原さん自身も昔から何度もゲーム――とりわけ、このUFOキャッチャーをするためにここに足を運んでいたとのことで。それはまあ、何と言うか……うん、正直すっごく羨ま――
「はい、これ」
「ん?」
そんな羨望の最中、彼女が差し出したのは数多の紙切れ。引換券、と書かれているので何かのチケットのようだけど……えっと、これはいったい?
すると、楽しそうな笑顔で僕を見つめる藤原さん。そして、僕の疑問に答えるように言葉を紡ぐ。
「――どうしても取ってほしいの、あのぬいぐるみを」




