Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #96
※2026/03/11誤字脱字修正しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #96
頭の上にある 液体のような黒い墨の膜 切り替えが起こるところに必ずある 黒い淵
指を入れてみる 波打つように波紋が広がる まあ…いつもの奴だ
手を入れて
「ちっ!」
また引っかける 鉄筋が横から伸びている かすり傷
それを避けつつ…穴の縁を……? 穴の大きさが向こうとこちらで違う?
「どうした? おい、マイケル?」
「穴の大きさが向こうとこっちで異なる。それとここに鉄骨のようなものが飛び出ている。上がる時、引っ掛けるな。切れるぞ」
「マジかよ…そんなとこにもあんのかよ。そんなのが……」
そうだな…これはそういったゲームだ
モップを差し入れる 何かに触るか? 試してみるが反応はない 次にデッキブラシ それと…曲がった薄い鉄の板 何に使うかわからない 真っ暗な用具入れの下 手探るとそこにあった わからないところにある なら何か? に使う 何に? かはわからない
それにしても…よく運べたもんだ ゲームは一括運搬 上限がある だが、人様は別々に運ぶという知恵がある 浅知恵だけどな
縁に手をかけ…周囲を探る かなり狭い ここに鉄筋が出ている わざわざ下向きに ホースをここに括り付ける…ムリだな 何か目印が必要だ
避けるように…反対に鉄筋を掴んで登る 本当にキムはここを降りてきたのか? 体を捩るようにしないと…抜けられない
黒い水面から顔だけを出す…おっと やはりいた…ん? どうなっているんだ? こいつらは?
上もトイレだ 便器はない 水槽もない ドアもない…下と一緒 異様に明るい 背中側…本来ドアがある空間の向こう そっちも個室がならぶ そっちにはドアがある
ただ……
頭の上 向こうの個室にもだ 奥の壁 タイルの壁 そこに死体袋に入れられた屍体…モノが壁から 上半身だけを出して、埋まっている
腰の部分で壁に埋められた男 性別不明 死体なら…だらん、と力なく俯く だが剥製や彫像のように反って…元気だ
立ち上がると…ちょうど目の前に来る位置 どうやって埋まっているんだ?
死体と壁の間に切り目がない ぴったりと入り込んでいる 隙間がない 死体を埋めつつ、壁を作ったかのようだ
足首を叩かれる キムが悲鳴を上げはじめた…こちらにまで声は聞こえない 境界の特異性
そういえば…隣人が出たな 墨のような境界のところ 出ないはずなんだが…場所か? 状況か? それともその両方か?
確かめられるのはもう少し先になりそうだな
身体を持ち上げる 鉄筋が少し引っかかったが…なんともない これぐらいなら……
「おめでとう!」
は?
「なんて素晴らしいんだ!」
………
「最高だ 天才だ! 祝福を! 並び立つ者もいないほどの偉業! なんて素晴らしい! おめでとう! 天才だ! 神に祝福されしものよ! 栄光あれ! 栄光あれ! 栄光あれ! おめでとう……」
何だこれは?
そいつらがいきなり、そんな事を詠唱しはじめた まだ…立ってもいない トイレの床へと…転がり込んだだけ それなのに話し出しはじめた
全員だ 何人もいる 頭の上の奴だけじゃない 何体いるのか…わからないが それが叫ぶ言葉がトイレの中に木霊する
「おめでとう! 最高だ! 天才だ! 並び立つ者もいないほどの偉業! 栄光あれ! 栄光あれ! 栄光あれ!」
誉め言葉? 恨み つらみ 呪いの言葉でもなくて?
死体袋 口の部分だけ穴が開き 黒くなった歯肉と歯が覗く 声はそこから聞こえている
あまりの異常さに…思考が停止する ここでこんな風にされるとは思わなかった…逆に気味が悪い
「おめでとう!」
ああ、ありがとう 個室のドアから…中を窺い見る 何もいない 個室の柱 ホースを結わえ付ける 下へと降ろす やや長さが足りないか?
「素晴らしい! 天才だ!」
頭の上の そいつに触れないように…這い出て 立ち上がろうとして…! 慌ててしゃがみ込んだ
なんだこれは?
「祝福を!」
出てすぐ その光景に冷や汗が出る ある意味、バケモノより質が悪い




