Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #93
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #93
身体をよじり なんとかそれを引きはがそうともがくキム だが すればするほど、体へと締まっていく
底なし沼と同じ ホラー沼だが それも……
そう助言をしてやるが…たぶんそれはもう無理だな
「があっ」
男のそんな姿ってのは…あまり好ましくない 後ろにいるのがイケメンリーマンなら考えてやってもいい
人形の手足が伸びる 首に 体に 足に 手に巻き付き 締め付ける
キムの顔色がどす黒く変わっていく
「すまんな、こっちからは助けられないようだ」
バキボキ 骨が砕ける音 呼吸を止められて…口に人形の風船の頭が入っていく 喘ぐキム
「ぐっがあっがっがっがっがっがっがあっ」
やがて…体が大きく痙攣したかと思うと キムの目が裏返った
「薬剤室で待ってるぞ、きちんと覚えていろよ」
過去の記憶がない 日本ではどこぞのバカがよくやるやつだ
記憶にございません
それでは 過去の教訓から、未来への改善は得られない そんな奴は即座にクビにした方がいい
全ての未来は過去からしか…まあいい
身体全体を折られたキムを置いて そこを出る ジュディといい、キムといい おいしいところを持っていきやがる
あんな死に方…やったことがない くそう…これが終わったら思う存分、楽しむんだ
死亡フラグ それはたいてい 本人へと還る
薬剤室へと戻る ここを何回、行き来したか もうバケモノも…いるのかよ
一番初めのスタート位置の前 ナースが立っている まだ予備がいる 何人も何百人も、か
キムが戻る方が早かった また…たたき起こして 一から説明する 反発するキム
「男に殴られたことから先は覚えてないのか」
「ああ…そこから先はねえ、殴られて…死んでここに来たのかと思ったぜ」
ずいぶん前に戻った 穴を通ったことさえ記憶にない スタート開始まで戻ったら…どうなるのか
「そうか…それはそれは大変な難関を突破してきたってのに…覚えてねえとは可哀想に」
「そうなのか? 確かに…数値が16にまでなってるし…くそう、なんだってこんな……」
頭を掻く 体中に走るギザギザの筋 どうやらキムにはそれは見えてないらしい
「お前は突っ込み過ぎる。後先考えなしに。それはお前の長所だが、同時に短所にもなる」
覚えてねえんならしょうがねえ たいていの人間は前と同じミスを繰り返す
馬鹿の一つ覚え
それがもっとも、信頼を失う原因なんだが…一度の失敗 それでは信頼もなにも実は失われない ただ、最初だという心理的負荷に、負い目に、本人が耐えられない それで堕ちる それさえ覚えてねえんだとしたら…改善のしようもない
「このゲームを無事突破したら今度こそ、彼女に真剣に交際を申し込むんだって、死亡フラグまで立ててたからな。その報いだ」
一言もいってねえがな こいつならそのうちいいだすだろう 主人公補正を受けた人間っていうのはどうしても自分の力を使いたくなる
「マジか…なんだってそんなことを…いいや、そんなことはねえよ。それは嘘だろう? おれから行くなんてことはしねえよ。騙すんじゃねえ」
そうか…女はたいてい、押してくる男性には弱いぞ?
「だが死んだのは本当だ。そして死んだ前のことをお前は覚えてない。それではまた同じとこで死ぬ。同じことを繰り返して…いつかダメになる。そうならないためにはなにか…ほかの原動力がいる。そうじゃないか?」
求められてる…という自己抑揚と満足感は意外にも高い バズるのがいい例だ あとは…考えろ
頭を掻いて 目をつむり 上を向くキム 腕を組み ひとしきり 息をついて 考え込んで 落ち着く
「確かにな…で? どうすんだ? その穴ってのから上に行くしかねえのか?」
人差し指で上を指し示して そういう
「ああ…途中のドアもどこも開かないぞ。それは前のとき、お前がもう試したからな」
「そうか、そんな無駄なこともしたのか……」
「いや、無駄ではなかった」
徒労ではあったが
「誰かが確かめなければいけないことをお前が確認した。それだけのことだ。それが無駄になるか、役に立つかはお前のやり方次第だ」
「なんでもかんでもおれ次第かよ…ま、オレだけレベルアップって奴だしな。選ばれた主人公って奴は大変だぜ」
そうだな…ポンコツだけどな




