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後日譚 告白




 ※これは、本編でも、後書きでも、描くことの許されなかった『後日譚』である。




    ◆




 俺は、過去の自分と飯田との物語に、小説という形で意味を与え、決着をつけた。


 あの夏の出来事を振り返りながら、過去に適切な解釈を見出した。心の揺れや価値観の変化、未熟だった自分とそこからの成長も理解できた。小説という体裁を意識しながらも、自分の心にできるだけ正直に、言葉を紡ぎ続けた。


 ……だけど、ここから先は違う。


 もう飾るのはやめて、格好もつけずに、抑圧されていた想いを全て吐き出そうと思う。蛇足かもしれない。誰かに読んでほしいものではないと、散々、注意喚起もしておく。でも、それでも、誰の目も気にせずに、ただ、ここで、――叫ぶ。




 ――やっぱり、俺は、君のヒーローになりたかった。




 それが、俺の未練であり、後悔だ。


 この想いが消えることは、この先、一生訪れない。そう断言する。

 君と出会った俺が、君の存在に救われたように、俺だって、君の心に触れて、君の生きる〝意味〟になりたかった。君のことを救いたかった。


 君は、あの夏の日みたいに、自分勝手に生き永らえるのだろうけれど。君は君だけの力で、君の〝生〟を懸命に、それでいて適当に、歩んでいくのもわかっているけれど。この3年間で俺も成長して、過去の俺は相手のことを本気で見つめられずに、自己中心的な理想を押し付けることで、ただ現実から逃げているだけだったことも理解しているけれど。


 ――それでも、俺は――


 自分の力だけでも、自由自在にどこかへ行ってしまう君を呼び止めて、


 死にたがっても、勝手に生きていってしまう君の手を取って、


 何度振り払われたって、その度にその手を掴んで、











「――俺は、本気で、君のことが〝好き〟なんだ」










 そう、ちゃんと伝えたかった。


「ネットで出会ったからだとか、ただのゲーム友達だとか、君が恋愛はウンザリだと思ってることだとか、直接会ったこともないのにだとか、こんなのは君の気持ちを考えてもいない俺のエゴだからだとか――、そんなの、知ったこっちゃねぇ」


「ていうか、知ってんだよ、そんなの、全部」


「俺は、君のことなんか全然見えてない。君がどんな風に今日という日を過ごしてきたのかも、君がどんな夢を持っていて、将来どんな風になりたいのかも、君が俺以外の人とどんな風に関わっているのかも、君がどんな苦しみを抱えていて、君が死のうとしたあの日、君は、どんな思いで、俺の知らない暗いバスタブの上で、首にボディタオルを当てていたのかも、なにも、なにもわからない。俺には、〝俺が好きな君〟のことしか見えてないし、俺は〝君そのもの〟なんて、見ようとしちゃいないんだ」


「だけど、……俺は、君が好きなんだ」


「ごめん。こんなんなのに、告白なんかして、本当に、ごめん。でも、この気持ちだけは本当なんだ。君のことが、〝飯田〟のことが、〝○○○〟のことが、本気で好きなんだ」


「わかってるよ。飯田が恋愛に興味ないことも、俺のことゲーム友達としか思ってないってことも、俺が、君にとって『都合のいい存在』だったのかもしれないってことも」


「……でも、それでも、伝えたかったんだ」


「それで、救ってほしいだなんて微塵も思ってない君の、〝ヒーロー〟になりたかった。君の、〝生きる意味〟になりたかった。君が君自身の力で塗り替えてしまうような〝弱さ〟を、俺の色で塗り替えたかった。そんな勝手なエゴでもいいから、ぶつけたかった」


「保身に走って自虐なんかせずに、関係の変化を恐がらないで、嫌われることも覚悟して、素直に、真っすぐに、ただただ純粋に、君に、〝好き〟って、伝えたかったんだ」


 そう、言えたらよかったんだ。

 君に、届けられたら、それだけで良かったんだ。










 ――この小説を書いた理由が、今、ようやくわかった気がする。









 

 共感を得たかったわけじゃない。誰かの心を動かしたかったわけでもない。君との思い出を残したかったからでも、君に会いたかったからでも、君と付き合いたかったからでも、ない。ただ、俺は、曖昧な形じゃなくて、さり気なくでもなくて、本気で、真正面から、正々堂々と、この想いを伝えたかったんだ。


 実際に会ってなくても、画面越しでも、イヤホン越しでも、




 ――「会ったことがなくても、君が〝大好き〟だ」――




 って、ちゃんと、『告白』したかったからなんだ。


 ……ただ、それだけのことなんだ。


 だけど、5か月後の再会も束の間、今ではもう、Instagramのフォローも、PS4のフレンドも解除されてしまっている。だから、今の俺には、もう君に想いを伝える術はない。あったとしても、面と向かって向ける顔はもう失くした。


 仮に、街中で君に出会って、それが飯田だと確実にわかったとしても、そのときの俺は、心臓が破裂しそうなほど震えていて、呼び止めようとしても、君のハンドルネームが喉につかえて、言葉なんて、きっと出ない。


 でも、物語にしてしまえば、もしかしたら、君に、届くかもしれないって――




 だから、俺は、この小説を書いたんだ。




『どこまでも高いバーチャルの空の下で』なんて気取ったタイトルをつけて。それっぽい言葉を並べて、見栄えのいい解釈を与えて、美しく終わらせようとして。それでも、終わらせることなんて、結局できなくて。


 こうして、まだ、描き続けている。


 その行為こそが、俺の想いの強さであり、後悔であり、未練でもある。




 だから。 




 この物語が、この告白が、いつかの君に届くことを願って、俺は生きようと思う。そんな〝意味〟を与えて、俺は、俺の〝生〟を突き進もうと思う。










    ◆










 あのときは、本当にありがとう。


 初めて声を聴いたあの夜から、ずっと、ずっと、大好きでした。


 俺と付き合ってください、なんて今の俺には言えないけれど、あのときの俺は、本気でそれを伝えたかったんだ。飯田のおかげで、毎日がすごく楽しかったし、恋ってやっぱ素敵だなって思えた。君の存在に、本当に救われていた。


 だから、飯田、幸せになってください。


 会ったこともない人の人生を変えたんだって誇りを持って、ちゃんと生きてください。本編にも書いたけど、これが飯田の生きる意味にならないのも、これが俺のエゴの押しつけなのもわかっているけど、それでも伝えたかったから、今、こうして書いてます。


 全部、3年前の俺にはできなかったことだから、この場を借りて伝えました。


 君が気にしてないにしろ、気にしてるにしろ、あのときは、自分の気持ちばかりでごめん。君は友達でいたかったのに、俺は何度も恋愛の方へ話を向けてしまって、ごめん。




 そして、ありがとう、飯田。




 馬鹿みてぇだけど、〇〇〇のこと、めっちゃ好きだった!

 本当に、すっげー、めっちゃくちゃ楽しい夏だった!










 2025年7月21日 長野県白馬村 〝よしの〟より




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