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氷結の夜明けの果て   作者: Wolfy-UG6
プロローグ - 第1巻:新たな人生
18/79

第17章:四日目――意外な融合

焚き火の優しいパチパチという音が、ヴェイルの眠りをそっと揺り起こした。

空気には穏やかな香りが漂っており、それが彼の目覚めをさらに穏やかなものにしていた。


まぶたを開けると、すでに起きていたアリニアの姿が視界に入る。

彼女は火のそばで身をかがめ、小さな金属製の鍋を温めていた。

その中からは、ふわりと立ちのぼる軽やかで心地よい湯気。


「おはよう……」

ヴェイルはまだ眠気の残る声でつぶやいた。


眠たげに体を起こすと、アリニアが火に薪を足しながらこちらを見上げた。


「おはよう、ちびオオカミ。今日が最後の訓練日よ。準備はできてる?」

彼女の声は淡々としていたが、そのまなざしは鋭く、期待の色を隠してはいなかった。


ヴェイルは、その言葉の重みを受け止めながら、力強く頷いた。


「もう準備はできてる」

短く、だが確かな決意がこもっていた。


朝食は質素だった。

温かなだしの効いたスープと、少しの干し肉。

それだけでも十分に体を温める。


食後、アリニアは鍋を火から下ろすと、ヴェイルに向き直った。


「今日は休憩なし。容赦もしないわ。

今から教えることを、できるようになるまで繰り返す。止まることは許さない」

静かな声の中に、確かな厳しさがあった。


「わかった」

ヴェイルの瞳は、まっすぐな意志に満ちていた。


彼はいつものように水たまりの前に座り、落ち着いた姿勢を取る。

アリニアもすぐ隣に腰を下ろし、彼の動きを細かく見つめていた。


「まずは一滴を作って。それを保ち続けて。焦らないこと」


彼女の落ち着いた声にうなずきながら、ヴェイルは目を閉じ、呼吸を整えた。


もう慣れた流れだった。

マナを手のひらに導き、水と繋げていく。

幾度かの試行の後、ようやく一滴の水が彼の掌上に浮かび上がる。


かすかに震えていたが、確かにそこに存在していた。


「よし。次は、その繋がりを研ぎ澄ませて。

その雫は“純粋”でなきゃいけない。

完璧なものを思い描いて。揺るがず、濁らず、整った形を」

アリニアの声は、今度は少し厳しめだった。


ヴェイルは深く息を吸い、思考を一点に集中させた。

雫の輪郭が滑らかに整っていく様を、頭の中で丁寧に描く。

完璧で、静謐で、自然な流れの中にある雫。


やがて、その雫はぴたりと安定し、震えが静まった。


「……いいわ。わかってきたみたいね」

少しだけ優しい調子に変わったアリニアの声。


だが彼女はすぐに表情を引き締めた。


「次に進むわよ。

今の雫を保ったまま、もう一滴を呼びなさい。

一つずつ、丁寧に。でも最初の雫は崩さない。

二つが自然に融合できるように、集中して」

その言葉には、明確な指導の意志が込められていた。


ヴェイルは小さく息を呑む。


――同時に、二つの意識を保つってことか……。


だが、逃げる気はなかった。

《できる……やるしかない……!》


再び目を閉じ、水たまりに意識を向ける。

今度は、もう一つの雫を思い描きながら。


ゆっくりと、確実に――


二つ目の雫が水面から浮かび上がり、最初の一滴へと近づいていく。

二つの水球がわずかに揺らめき、干渉し合いそうになる。


だが、ヴェイルはその均衡を必死に保ち続けた。


ヴェイルは、同じ手順を繰り返した。

三滴目、四滴目――それぞれの水の粒は、以前よりもずっと素直に応じてくれた。


彼と水との繋がりは、確かに滑らかになっていた。

意識とマナが一体となり、感覚は徐々に研ぎ澄まされていく。


やがて、それらの雫は彼の手のひらでそっと融合し、

一つの小さな水の球となって現れた。


完全ではなかった。まだ歪みも残っている。

それでも、それは間違いなく――自分が生み出した「融合」だった。


「悪くないわ。今の滑らかさを保ちなさい。

その球体は、あんた自身の延長でなければならない。揺るぎなく、安定していること」

アリニアの声には満足が滲んでいたが、決して気は緩めていなかった。


ヴェイルは、激しく使った精神力にわずかに眉を寄せながらも、

小さく笑みを浮かべた。


これは確かな前進だ。

……だが、まだ今日という一日は始まったばかりだ。


「次、行ける」

静かだが、自信を滲ませた声だった。


アリニアはヴェイルの隣に座ったまま、

彼の手の中で揺れている小さな水球をじっと見つめた。


その蒼い瞳は、わずかな動きすら見逃すまいと、鋭く光っていた。


「安定させて。さっきの一滴と同じ。

水球は滑らかで、揺れがなくなければ意味がない。

それはあんたの“制御力”を映す鏡。

もし迷いがあれば、それもすぐに現れるわ」

その言葉には、妥協を許さぬ意志が込められていた。


ヴェイルは深く頷いた。

集中力を再び一点に絞る。


自分の意識が水球の表面へと触れ、

その輪郭が少しずつ整っていく様を、彼は心の中で描いた。


凹みも揺れもない、澄んだ鏡のような水球。

完璧な球体――それが今、彼の中で形になろうとしていた。


しばらくして――


水球は、空中で静かに浮かぶ透明な鏡のように、見事な安定を見せた。


「いいわね。かなり良くなってきたわ。

でも気を抜かないこと」

アリニアの表情はわずかに和らいだが、

その目の奥には、まだ昨日の「風」の出来事に対する疑念が残っていた。


あの風……偶然ではない。

必ず何かあるはず……。

彼女は黙したまま、考えを巡らせていた。


《……もっと深くまで見てみましょう。

この子がどこまで到達できるのか――》

そう思いながら、アリニアは口を開いた。


「その球体を思い浮かべて。中心をイメージしなさい。

そこに、風を流し込んで――ゆっくりでいい。

自転するように、風を送り込むの」

まっすぐな指示が飛ぶ。


「風……? それって……どうすれば……?」

ヴェイルは目を見開き、戸惑いの色を浮かべた。


「水と同じよ。マナは“元素”と繋がる鍵。

無理にねじ込まないで。

空気を感じて、その流れを水に溶け込ませるの」

アリニアの声は穏やかだったが、揺るぎない力が宿っていた。


ヴェイルは静かに息を吸い込む。


小さな水球を見つめながら、今にも崩れそうなその均衡を崩さぬよう、

慎重に右手にマナを集める。


次は、水ではなく――空気。


周囲の空気に意識を向ける。

そこに漂う流れを感じ、それを手のひらから水球の中へと導く。


イメージは、そっと回る微風。

渦を描きながら、静かに中心を撫でるように。


最初の数秒は、何も変化がなかった。


……だが。


水球の表面に、かすかな揺れが走る。

微細な波紋――しかし、制御は続かなかった。


次の瞬間、水球は――


――ぱんっ。


小さな破裂音とともに、四方に水が飛び散った。


アリニアは彼の隣に座ったまま、

自分の足に跳ねかかった水を受け止めていた。


濡れたタイツの上に視線を落とし、彼女は小さくため息をつく。


「ちびオオカミ……ほんとにもう」

その声は静かだったが、明らかに呆れていた。


ヴェイルはすぐに彼女の方を向き、両手を挙げて謝罪の意を示す。


「ご、ごめん! 別にそんなつもりじゃ……ただ、その……!」

慌てふためく彼を、アリニアは片手を上げて制した。


「……いいわよ。

でも次やったら、氷像にしてあげるから、気をつけなさい」

さらりと言いながら、彼女はゆっくりと立ち上がる。


焚き火のぱちぱちという音が静かに響く中、

洞窟の冷えた空気が、濡れた布越しに肌を刺すように冷たかった。


アリニアはまったく躊躇することなく、濡れたタイツを手早く脱ぎ、

そのまま焚き火の近くにかけて乾かす。


引き締まりつつもしなやかな脚線美は、彼女の戦士としての強さを雄弁に物語っていた。


つい、ヴェイルの視線がそちらへ滑ってしまう。

そして、思わず口元に微笑が浮かんだ。


「まさか、獣人の女性に、こんな……つるつるな脚があるなんて思わなかった。

もうちょっと……もふもふしてるかと」

冗談めかして、つぶやくように言ったその瞬間――


アリニアの蒼い目が、静かに、だが鋭く彼を射抜いた。

その表情は一切の冗談を許さぬ真剣そのものであった。


「ちびオオカミ、あんた、もうちょっと頭いいと思ってたけど……

どうやら期待しすぎだったみたいね」

その言葉は冷たくもあり、鋭い刃のように突き刺さった。


ヴェイルは思わず口を開いたが、次の瞬間――

アリニアの指からすっと爪が伸び、火の光を受けて静かに煌めいた。


「私の脚について、次もう一言でも言ったら――

あんたの脚、そっくり切り落とすわよ」

声は落ち着いていた。だが、その分、底知れぬ威圧感があった。


しばしの沈黙。

それを破るように、アリニアは爪を引っ込め、

何事もなかったかのように、再びヴェイルの隣へと腰を下ろした。


ヴェイルはごくりと唾を飲み込み、苦笑いを浮かべる。


《……今後、彼女に冗談は……一切通用しない。うん、学んだ……》

内心でそう念じながら、ひたすら反省していた。


アリニアは腕を組み、火の中の熾火をじっと見つめていた。

その横顔には、わずかに唇の端が持ち上がるような気配もあった――

けれど、それが本当に微笑みだったかどうかは、分からない。


ヴェイルは気を取り直して、水球の再形成に取りかかる。


彼の手のひらに浮かぶ小さな水球は、依然として不安定だった。

輪郭は歪み、表面は微かに震えている。


深く息を吸い、目を閉じる。

この数日で繰り返してきたすべての手順を、頭の中で丁寧に思い返す。


――目指すのは、風を内に秘めた、水の調和。


時間がゆっくりと過ぎていく。

太陽は天頂に達し、森に冷たく白い光を注ぎ込む。

その光は洞窟の中にも届き、わずかに地面を照らしていた。


だが、いくら挑んでも――

風を注ぎ込もうとするたびに、水球は揺れ、壊れ、彼の掌や地面を濡らす。


「……くっ……」


そのたびに、ヴェイルは悔しさを噛みしめながら、何度も何度も挑戦を続けた。


そんな彼を、アリニアは無言のまま観察していた。

やがて、彼女は小さくため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。


足音は静かに、だが確実にヴェイルの隣へと近づいていく。


その目には、厳しさが宿っていた。

だが、それは決して冷酷なものではなかった。


「もういいわ。今日はここまで。……あんたは、まだその段階じゃない」

アリニアはきっぱりと言い放つと、くるりと背を向けて焚き火の元へ戻っていった。


ひざをつき、炎のそばに干していたタイツに手を伸ばす。

指先で生地の湿り気を確かめるその動作はどこか無造作で、

先ほどの厳しさとは対照的な落ち着きを見せていた。


だがその背中を見つめるヴェイルの瞳には、なおも消えぬ炎が宿っていた。


アリニアの言葉に従うつもりはなかった。


拳を握りしめ、ヴェイルは小さく呟く。


「やらなきゃ……。俺は……できる……」


静かに、再び手を差し出す。

水と繋がる意識を、何度でも。


時が過ぎる。

分が、そして時が静かに流れ、洞窟の中には柔らかな金の光が差し込み始めた。


アリニアは黙って彼を見守っていた。

その横顔には、苛立ちと興味が交錯していた。


《……ほんと、バカね。

あんたはまだ……これがどれだけのものか、分かってない》


それでも、ヴェイルは止まらなかった。


ひとつひとつの試行が、少しずつ洗練されていく。

手順はより緻密に、動作はより無駄がなくなっていた。


そして――


彼が完璧な球体を思い描いたその瞬間だった。

手のひらから、ふわりと冷たい風が流れ出す。


アリニアの眉がぴくりと動いた。


水球が、変わり始めた。


回転するのではなく――

その表面が白く染まり、まるで氷晶のように冷たく輝き出す。


球体の内部がゆっくりと固まり、水は――

完全な氷の球へと変化していた。


「……氷……? これ……俺が、氷を……?」

ヴェイルは目を見開いた。

その手のひらに、冷たくも美しい氷の球が乗っていた。


アリニアはすぐに立ち上がり、素早くヴェイルのもとへと歩み寄る。


真剣な眼差しで、その氷球を見つめる。


だが、ヴェイルはあまりの驚きに集中を切らしてしまった。


氷球は彼の手から滑り落ち、

地面に当たって――ぱりん、と音を立てて砕け散った。


光に照らされて、砕けた破片がきらきらと輝く。


アリニアはその中のひとつを拾い上げる。

指先でそれを回しながら、無言で観察する。


その透明な結晶には、濁り一つない清らかさがあった。

外から差し込む光を美しく反射するその輝きに、アリニアの目は細められた。


《これは……ただの水操作じゃない。

この子の中には、もっと別の“何か”が……》


アリニアはゆっくりと顔を上げ、ヴェイルを見つめた。


未だ驚きに固まったままの彼に、複雑な視線を向ける。


「氷のマナ……初歩の段階で、これは普通じゃない」

その言葉は、彼女自身に向けた独り言のようだった。


ヴェイルは、地面に散った氷の欠片を見つめていた。

その目に宿るのは――悔しさと、ほんのわずかな誇り。


そして拳を握る。


「一度できたなら……またできる。

……仕組みを理解すれば、絶対に……」

低く、だがはっきりとした決意の声だった。


アリニアは立ち上がり、手の中の氷片をヴェイルに見せる。


「これは、ただの“できごと”じゃないわ、ちびオオカミ。

でも、浮かれてはダメ。氷は気まぐれで、扱いが難しい。

それは水の柔らかさと、冷気の硬さ――

二つの性質を同時に制御しなきゃならない」

その語調はいつもより強く、そして重みがあった。


アリニアは氷の欠片を手にしたまま、ヴェイルの前にしゃがみ込んだ。


「これは、あんたのマナだけじゃない。

他にも何か……内側にあるのよ。

もしかしたら、自然に備わった適性か、あるいは……それ以外の何か。


でもね――今のあんたじゃ、まだそれを制御するには早すぎるわ」

その蒼い瞳は真っ直ぐにヴェイルを射抜いていた。


ヴェイルはその視線を受け止めながら、まだ驚きの表情を残したまま彼女を見上げる。


「でも……できたんだ。なら、またできるはずだろ……?」

どこか不安げに、だが諦めきれない声音でつぶやいた。


アリニアは小さくため息をつき、手の中の氷の欠片をヴェイルの掌にそっと置く。


「……かもね。だけど、それは今じゃない。

その氷は、意図して作ったわけじゃない。

“偶然”起きただけ。

走る前に、まずは転ばずに歩けるようになりなさい」

声は柔らかかったが、その言葉には確かな重みがあった。


そう言って立ち上がると、アリニアは焚き火のそばへ戻り、枝を数本くべる。


燃え盛る火が再び強くなり、洞窟の中の空気がわずかに温まる。

さっきまでの氷の冷たさが、徐々に追いやられていくようだった。


「水に戻りなさい。

“今”あんたにできることに集中するのよ。

それが積み重なって、いつか“できる”に繋がる。……あるいは、繋がらないかもね」

背中を向けたまま、静かにそう言い放った。


ヴェイルはしばらく黙っていた。

その場に座ったまま、掌の上の氷の破片を見つめる。


冷たさがじわりと肌に染み込む感覚。

だが、それは不快ではなかった。


しばらくして、彼は静かに息を吸い込み、そして立ち上がる。


「水に戻る……いいさ。

でも――この氷は、絶対に忘れない。諦めない。

……こんな体験したあとで、簡単に手放せるわけがない」

声は低く、けれど揺るぎなかった。


再び水たまりの前に膝をつき、手を差し出す。

意識を整え、水と繋がる――

今まで何度も繰り返してきた、その最初の一歩をもう一度。


アリニアは火のそばからちらりと彼を見やった。

口元に、ほんのわずか、気づかれないほどの微笑が浮かぶ。


《ちびオオカミ……やるじゃない。

まだまだ、驚かせてくれそうね》


日は傾き、洞窟の外には夜の気配が満ち始めていた。

それでもヴェイルは集中を切らさなかった。


焚き火の音と、外から吹き込む風が混ざり合い、

静かな時間が流れていく。


彼の努力は、やがて実を結ぶ。


水の球は徐々に大きくなり、手のひらで安定して漂い始めた。

動きに無駄がなくなり、意識の導きもはっきりしていく。


ついには――

掌に浮かぶ水球はりんごほどの大きさにまで成長していた。

表面は滑らかで、まるで空中に浮かぶ小さな鏡のようだった。


「……ここまできた。でも……氷は、まだ……」

嬉しさと悔しさが入り混じったような声で、彼は唸った。


あの現象を再現しようと、何度も試した。

だが、どれだけ集中しても――水は水のまま。

あの冷たい輝きには戻らなかった。


それでも、彼はやめなかった。


“理解したい”

“できるようになりたい”


その想いが、彼を突き動かしていた。


やがて、日が完全に沈み、夜の闇が洞窟を包む。


アリニアは静かに立ち上がり、ヴェイルのもとへと歩み寄る。


「今日はもう終わりよ、ちびオオカミ。

進歩はあった。けど――心も体も、限界はあるの」

その声は落ち着いていて、だが拒否を許さない厳しさがあった。


ヴェイルはようやく集中を解き、

手のひらに浮かんでいた水球をそっと水たまりへ戻した。


ぽちゃん、と小さな音。

それだけで、長い一日が終わったことを実感する。


彼はわずかに身を引き、額の汗をぬぐった。

筋肉はこわばり、精神はすり減りきっていた。


焚き火のそばに並んで座る。

赤々と燃える炎が、二人の疲れた顔をやさしく照らしていた。


アリニアは干し肉をいくつか取り出し、それをヴェイルと分け合う。

言葉のない時間が流れる。

だが、それは気まずさではなく――

激しい鍛錬の後に訪れる、静かな休息だった。


「よく頑張ったわね。ちびオオカミ。

でも、忘れないで。これはまだ“始まり”に過ぎないわ。

明日には、次の段階に進むことになる」

そう言って彼を見やる彼女の目には、わずかな満足が宿っていた。


ヴェイルはゆっくりと頷く。

疲労に覆われた顔に、かすかな笑みを浮かべながら。


「次の日も……俺は、ちゃんとやる。大丈夫」

静かながらも、はっきりとした決意のこもった声だった。


食事を終え、二人はその場に横になる。

焚き火は静かに燃え、やがて炭火となってゆく。


ヴェイルは地面に寝そべり、重くなったまぶたを閉じた。


身体は重く、意識も薄れていく。

だがその胸の中には――確かな充実感があった。


魔法を極めるための、ほんの小さな一歩。

それでも確実に、彼は進んでいた。


夜が、静寂とともに洞窟を包み込む。

火の名残りのぬくもりと、外から吹き込む冷たい風の狭間で。


こうして、三日目は終わりを迎える。


新しい一日が、また始まろうとしていた。

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