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氷結の夜明けの果て   作者: Wolfy-UG6
プロローグ - 第1巻:新たな人生
15/78

第14章:一日目 マナを感じる

夜明けの光が洞窟の中へと差し込み、冷たくも穏やかな明かりが石の壁を照らしていた。

入り口では、薄い霧がふわりと立ち昇り、森の中に残る冷気を物語っている。

その奥では、かすかに赤く光る焚き火の残り火が煙をくゆらせ、ほとんど完全な静寂が支配していた。

微かに、遠くの鳥のさえずりだけが、その静けさを破っていた。


ヴェイルは洞窟の中央に座っていた。

脚を組み、手を膝の上に置いたまま、視線を床に落としている。

だが、その瞳はどこか遠くを見つめているようで、内に抱える緊張感をありありと映し出していた。


彼の正面には、アリニアが立っていた。

腕を組み、彼を見下ろす蒼い瞳には、静けさの中にも鋭さが宿っていた。


「マナを感じるっていうのは、力とか、根性とか、そういう話じゃないの。

身体の中を流れてる“川”みたいなものなのよ。

ちゃんと中にある。でも、その流れに気づいて、リズムを掴むことが大事なの。

頭じゃなくて、感覚で感じるものよ」


アリニアは落ち着いた声で、はっきりと言った。


再び、静寂が戻る。

焚き火の中で、ぱちんと小さな音が鳴った。


「そんな簡単に言われてもな……」


ヴェイルは小さくため息を吐き、肩を落とした。


アリニアはゆっくりと彼に近づき、ひょいと指を伸ばしてヴェイルの額を軽く突いた。


その不意打ちに、ヴェイルは小さく身を震わせ、思わず彼女を見上げる。


「簡単よ。でも、“簡単”ってのは、“楽”って意味じゃないわ」


鋭い視線と共に、アリニアはきっぱりと言い放つ。

そして、すっと指を引き、静かな動きで彼の正面に座った。

彼女の所作は無駄がなく、まるで機械のように正確で、美しささえ感じさせた。


「目を閉じて。ゆっくり呼吸して。

息が入って、出ていくのを感じて。

考えるんじゃなくて、感じるの。今、この瞬間を」


その声は静かで、どこか優しさが滲んでいた。


ヴェイルは、少し戸惑いながらも目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「身体の中を流れる静かな川を思い浮かべて。

それがマナ。穏やかに、途切れず、流れてる。

でも、心が騒げば、その川は荒れるわ。

だから落ち着いて。肌の奥で、かすかに動く何かを探して」


アリニアの声が、洞窟の静寂に溶けていく。


――川……? 感覚で、感じる……?


ヴェイルの額に、汗がにじむ。

意識すればするほど、呼吸は浅く、荒くなっていった。


「力まないで。肩の力を抜いて、深く息を吐いて」


アリニアの声が、さらに柔らかく、包み込むように変わる。


ヴェイルは深く息を吸い、吐き出した。

その瞬間――

胸の奥から、ほんの微かな温もりが、ふわりと広がった。

まるで、震えるほど繊細な波が皮膚の下を這うような、不思議な感覚。


焚き火の残り火が、ふっと揺れる。

彼の手の先、空気が微かにうねり、指先から、うっすらとした霧のようなものが滲み出す。

まるで、見えない何かが、彼の内側から外へとにじみ出ているかのように――

――流れが、目覚め始めている。

まだ不安定だけど……確かに感じてる。反応がその証拠。


そう思いながら、アリニアはじっとヴェイルを見つめていた。

彼の変化に気づいた瞬間、ほんのわずかに口元がほころぶ。


「そう……感じ始めてる。手を見てみて」


アリニアは穏やかに、囁くように言った。


ヴェイルは驚いたように目を開け、自分の手のひらを見下ろす。

そこには、ほんの一瞬だけ――

薄い霧のようなものが、ふわりと舞って、すぐに消えた。


「……いまの……本当に……感じたんだ」


呆然としながらも、ヴェイルの声には確かな実感が滲んでいた。


揺らめく焚き火の光は徐々に弱まり、かわりに冷たくも静かな明るさが洞窟を包み始めていた。

けれど、その場の空気はまだ張り詰めたままだった。


ヴェイルは座ったまま、自分の手を見つめ続ける。

さっきの感覚――肌の下をかすかに走った、あのやさしい震えを、まだはっきりと覚えていた。

まるで何かが、彼の中で静かに目覚めかけているような――そんな予感。


アリニアは、対面に座ったまま、その沈黙を破る。


「マナを感じた。それは大きな一歩よ。でも、感じるだけじゃ足りない。

次は、それを“視る”こと」


静かだが、はっきりとした声だった。


「視る……? 想像するってこと? でも、見えないものをどう想像すれば……?」


ヴェイルは眉を寄せながら、戸惑いを隠せない。


アリニアは小さく息を吐いた。

それは呆れでも怒りでもなく――どう説明するべきか、思案するような、静かなため息。


「いま感じたのは、目に見えない川のようなもの。

その流れを、頭の中で形にするの。

身体の中を流れる力――血管を走るエネルギー。

それが、あなたの意思に応えてくれる。

でもそのためには、まず“視る”必要がある。たとえそれが頭の中の映像でもね」


アリニアの声は優しかったが、その芯にはぶれない強さがあった。


ヴェイルは遠くを見つめるように目を細め、それからゆっくりと目を閉じた。

先ほど感じた、あの流れ。

もう一度、その感覚に意識を集中させようとする。

だが、何度試しても――

頭の中に浮かぶ映像は、ぼやけて、形を持たなかった。


「どうやって視ろって言うんだよ……こんな抽象的なもの、風を描くようなもんじゃないか……」


苛立ちを込めて、ヴェイルはぼそりと呟いた。

そして、勢いよく目を開く。

その顔には明らかな苛立ちがにじんでいた。


「無理だ! 全然わからない! 感じることはできても、それだけだ!」


叫びにも似たその言葉に、アリニアはしばし沈黙した。

狼の耳がぴくりと動き、彼の言葉を分析するようにわずかに反応する。


そして――彼女は、そっと身を乗り出した。

視線は真っ直ぐにヴェイルの目を捉え、揺るぎなかった。


「あなたは、完璧を求めすぎてるのよ。

全部をコントロールしようとするから、逆に何も掴めないの」


彼女の声は静かで、それでいて、鋭く心を貫いた。


「マナを視るっていうのは、固定された絵を作ることじゃない。

動きそのものを感じて、その流れを心で“見る”の。

蛇行しながら流れる川を想像して。

形にこだわらなくていい。ただ、その流れを、あなたの中に浮かべてみて」


そう言って、彼女はヴェイルの胸――心臓の上に、そっと二本の指を置いた。

「ここからよ。やさしい光を想像して――呼吸と一緒に鼓動する、小さな光の点。

そこから広がっていくの。その流れを、内側から見るように辿って。

無理にコントロールしようとしないで。流れに、道を教えてもらうの」


アリニアの声は静かで、どこか温かかった。


ヴェイルは再び目を閉じ、今度は心臓の鼓動に意識を集中させた。

ゆっくりと息を吸い、アリニアが言っていた「光の点」を思い浮かべる。


最初は何もなかった。

意識の中は、分厚い霧のような闇に包まれていた。


けれど、呼吸が整うにつれて――

淡く、にじむような光が、その中に浮かび上がった。


それは、はっきりした形ではなかったが、確かに「そこにある」とわかるものだった。

脈打つように、ゆっくりと揺れ、穏やかな波のように彼の内側を満たしていく。


「これが……そうなのか……。光……動いてる……」


ヴェイルは思わず、呟いた。


彼は心の中で、その光を追い始めた。

それはゆるやかに流れ、見えない道筋をたどるように身体の中を進んでいく。

腕を伝い、頭へ、そして胸へと――


そこに確かにあったのは、微かな温もりと、優しい流れだった。


ふっと、彼の表情に笑みが浮かぶ。

だが、その瞬間――


光が、消えた。

何の前触れもなく、ただふっと、手から滑り落ちる砂のように。


「くそっ……感じたのに! 確かに、あったのに……!」


目を見開いたヴェイルは、悔しげに叫んだ。


アリニアはゆっくりと頷いた。

その蒼い瞳に、一瞬だけ満足そうな光が宿る。


「当然よ。今はまだ、その入り口に立っただけ。

マナは水と同じ。力めば止まるし、力を抜きすぎれば拡散する。

大事なのは……バランス。そして、時間」


アリニアは落ち着いた口調でそう言いながら、腕を組む。

そして――少しだけ唇の端を上げた。


「でも、悪くないわね。人間のわりには」


その言い草に、ヴェイルは唖然としつつも、口元をわずかに緩めた。

悔しさの中に、ほんの少しだけ、確かな手応えを感じていた。


「……やってやるさ。何度だってやり直す。ちゃんと“視える”ようになるまで」


強く、短く、だが確かな決意のこもった声だった。


洞窟の入り口から、朝の光が差し込み始める。

冷たいが、澄んだその光は、止まらぬ時間の流れを静かに告げていた。

残された時間は、あと四日。


その光の中で、ヴェイルは動かずに座り続ける。

その視線は、ただ一点――自分の前に広がる石の床に注がれていた。

さっき感じた“マナ”の感触は、まだ胸の奥に微かに残っている。

だが、その先に待つ課題は、遥かに大きく――遠い。


アリニアが、静かに近づく。

無駄のない流れるような動きで、彼の正面に膝をついた。

その蒼い瞳が、じっと彼を見据える。


「マナを感じて、“視た”。

次は、それを“導く”こと」


その声には、今まで以上に明確な意志がこもっていた。


ヴェイルは顔を上げる。

その瞳には、戸惑いの奥に、確かな覚悟の光があった。


「導く……? でも、それって……流れてるだけなんだ。

勝手に動いてて、俺には制御できない……」


ヴェイルの声は真剣だった。


アリニアは腕を組み直し、そして――

意味ありげな笑みを、静かに浮かべた。

「だから、あんたはここにいるのよ、人間。

マナは川。急流じゃない。

無理に押し流そうとすれば、壊れるのはあんたの方よ」


アリニアは軽く鼻で笑いながら言った。


彼女は手を前に差し出し、指をゆっくりと丸める。

まるで、見えない何かを手の中に掴んでいるような仕草だった。


「身体は、無数の“扉”でできてると考えて。

手、足、胸――それぞれに、出入り口がある。

マナを導くには、必要のない扉を閉じて、大事な場所だけを開けるの」


その声は静かで、理知的だった。


少し間を置いて、視線をヴェイルにしっかりと向けたまま、彼女は続ける。


「でも、気をつけて。

マナは力でねじ伏せるものじゃない。

無理に押し込めば、逆にあんたを傷つける。

……素手で木を殴って倒そうとしてるようなもんよ。

壊れるのは拳、木じゃない」


その言葉に、ヴェイルはゆっくりと頷いた。

眉間に皺を寄せながら、ひとつひとつを真剣に受け止めている。


彼は深く息を吸い、目を閉じた。

あの、身体を流れていた感覚――

あの柔らかい光の脈動を、もう一度探し始める。


やがて、うっすらとした光が、内側から浮かび上がった。

だが――


「扉を閉じる……って言われても、そんなレバーが身体にあるわけじゃないんだけどな……」


思わずぼやくように呟く。


そして、彼は無理やり“右手”にマナを流そうとした。

だが――

その瞬間、流れは断ち切られ、不快な緊張が腕に走る。


「だめだ……止まった……力を入れたら、全部消えた!」


苛立ちを込めた声が洞窟に響く。

ヴェイルは歯を食いしばり、顔をしかめた。


アリニアはわずかに首を振り、その表情には苦笑が混じっていた。

呆れと、どこか微笑ましい感情の混ざったような目。


「だから“導け”って言ったでしょ。“押し込め”じゃなくて。

あんたは戦士じゃないの。今は、羊飼いみたいにおだやかに、方向だけを示して」


優しく、けれど芯のある声で、そう諭す。


そして、彼の肩にそっと指を置いた。


「力を抜いて。もう一度、流れを感じて。

“見る”の。そして、自然に流れるように、手のひらに開かれた扉を想像して。

塞ぐんじゃない、ただ……“開ける”だけ」


アリニアの声に導かれるように、

ヴェイルはゆっくりと目を閉じ、深く呼吸した。


再び――

彼の内に、静かな光が満ちていく。

それは、穏やかで澄んだ流れ。

彼は意識を右腕に集中させた。

肩から、肘、そして手のひらへと、柔らかい光が静かに降りていくイメージを思い描く。


最初は、何もなかった。

だが――力を少し抜いた瞬間、右手に“何か”が走った。

ほんのわずかに、皮膚の下が温かく脈打つような――

微かな震え。


「……きた……。感じる……」


ヴェイルは、驚いたように小さく囁いた。

目を開き、自分の手を見下ろす。

目に見えるものは何もなかった。

けれど、その“確かな感覚”は、間違いなくそこにあった。

視覚の奥で、光が指先をくすぐるような錯覚。


「……できた……俺……できたぞ……」


呟く声には、確かな喜びと、自分でも信じられないような戸惑いが混じっていた。


アリニアは、その様子をじっと見ていた。


そして――


唇の端に、ごくごく微かな笑みを浮かべた。


「上出来。でも、ここからが本番よ。

今度は、それを“戻して”、反対の手に流してみて」


彼女の声は相変わらず冷静で、

だが、どこか期待を込めた色が混ざっていた。

ヴェイルは力強く頷いた。

その瞳には、新たな決意が灯っていた。


再び目を閉じ、彼は流れを“戻す”ことを試みる。

だが――

今回は、マナの流れがどこかぎこちない。

まるで、何かを警戒しているかのように、流れが躊躇していた。


呼吸を整えようとするも、すぐに焦りがこみ上げてくる。

そして、その焦りが流れを断ち切った。


「……くそっ。できてたのに……なんで、また……」


ヴェイルは悔しげに呻いた。


そんな彼の肩に、アリニアがそっと手を置いた。

その声は、いつになく柔らかい。


「無理してるからよ、ちびオオカミ。

これは戦いじゃない。……マナに耳を傾けて。

閉じ込めようとしなければ、止まらないわ」


その静かな励ましが、彼の心に染み込んでいく。

ヴェイルは深く息を吸い、もう一度目を閉じた。


光が、再びその内側に戻ってくる。

今度は、少しだけ、安定していた。


彼はその光を、中心へと導き――

そこから、左手へと流すイメージを思い浮かべる。


やがて――

左の掌に、あたたかな脈動が生まれた。

皮膚の下で、ほんのりと熱が揺れる。


「……できる……本当に……感じてる……」


思わず漏れた声には、喜びと信じられない思いが混ざっていた。


目を開いた彼は、手のひらを見つめる。

何も見えないはずのその中で、たしかに何かが“在る”と感じていた。

光の残像のような感覚が、指先に残っている。


「……やった……本当に、できたんだ……!」


低く、震えるような声で呟いた。


アリニアはその様子をじっと見守っていた。

そして――口元に、かすかな笑みを浮かべた。


「悪くないわね。

でも、ここからが本番よ。

中心に戻して――反対の手へ。何度も繰り返して。

……何も考えずにできるまで」


その声には、満足と厳しさの両方が混ざっていた。


洞窟の外では、陽が傾き始めていた。

冷たく淡い光が徐々に弱まり、森の影が長く伸びていく。


洞窟の中では、焚き火の音が心地よく響いていた。

その音に包まれながら――

ヴェイルは、まだ同じ姿勢で座っていた。

両腕を前に伸ばし、手のひらを開き、静かに流れに意識を集中させている。


アリニアは、背後の壁にもたれかかっていた。

その身体は一見くつろいでいるように見えたが、

その蒼い瞳は、ヴェイルの動きを一つ残らず見逃していなかった。


「……自然になってきた。

無理に流さなくても、向こうから動いてくれる……」


疲れた声で、だがどこか満足げにヴェイルが呟く。


手のひらはうっすらと熱を帯びていて、

そこから微かな波のようなものが広がっている。


彼は深く息を吸い、光を体の中心へと戻し――

また両腕へと、ゆっくりと広げていく。


その動きは、少しずつ、だが確実に滑らかになっていた。


アリニアが静かに体を起こす。

そして、沈黙を破る。


「悪くないわ。進歩してる。

でも……油断しないで。

これはあくまで“基礎”。

ここが崩れれば、全部が瓦解する」


その言葉には、冷静な重みがあった。


ヴェイルは目を開き、腕を下ろした。

そして、ゆっくりと肩を揉みながら、深いため息をついた。


疲労は明らかだった。

だが――

その瞳には、確かな自信の光が灯っていた。


「……思ってたよりキツいな。でも……できる気がしてきた。少しずつだけど……」


弱々しいが、確かな声だった。


アリニアは目を細め、微かに笑った。

それは、ふっと消えそうなほど小さな笑みで、

次の瞬間には、彼女の視線は焚き火へと戻っていた。

「人間のくせに、意外とやるじゃない。

……もしかして、完全に絶望ってわけでもなさそうね」


アリニアは肩をすくめながら、皮肉っぽく言い放った。


ヴェイルは思わず目をぐるりと回すが、

口元には、薄く笑みが浮かんでいた。


彼女の言葉の中に、ほんのわずかでも“認められた”気配があった。

アリニアからすれば、それは珍しい“褒め言葉”だった。


外では夜が一気に深まり、

黒い森が静かにその輪郭を失っていく。


洞窟の中では、焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、

その温かい光が、壁に揺らめく影を落としていた。

風は冷たく、外から微かにその音が届く。


アリニアは静かに立ち上がり、

なめらかな動きで背を伸ばした。


その一つ一つの所作には、

戦士としてのしなやかさと気高さが滲んでいた。


彼女はちらりとヴェイルに目を向けた。

そのまぶたは重そうに半分閉じかけていた。


「休みなさい。……あんたには必要よ。

これは、ほんの“初歩”に過ぎない。

明日は“応用”。――想像以上にキツいわよ」


その声は静かだったが、冗談は一切なかった。


アリニアは背を向け、洞窟の入り口近くに腰を下ろす。

両耳をわずかに動かしながら、外の気配に意識を向ける。


ヴェイルは焚き火のそばに身を横たえた。

全身がだるく、筋肉が張っていたが――

火のぬくもりが、じんわりとその疲れを和らげていく。


目を閉じながら、彼は静かに息を吐いた。


「……一日目、終わりか。あと三日……。

絶対、諦めない」


疲労に沈みながらも、唇にはかすかな笑みが残っていた。


焚き火の音が、ぱちりと静かに弾ける。

その音は、終わりではなく――

始まりを告げる鼓動のように、夜の中に溶けていった。


……だが、静かな空気の底に、

まだ形を成さぬ“何か”が、確かに存在していた。

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