雨女
夏休みぶりに集結した四人。しかし、その様子は険悪そのものであった。
「さて。色々とご説明をしてもらいましょうか。胡桃さん」
「説明するも何も、アナタ達には関係の無い事。ここはアーシと咲ちゃんの家で、アンタらは部外者。まぁ、今日の所は客人かな」
「確かに。アナタと私は関係ない他人同士です。ですが、咲さんが巻き込まれているのであれば話は別。彼女は私の親友ですから」
「ッ! そうやってさ、咲ちゃんに邪魔扱いされてるのがまだ分かんないのかな? いい加減消えなよ」
バチバチと火花散らす剛美と胡桃。その様子を咲と恋は麦茶を飲みながら、一定の距離をとって眺めていた。
「剛美と胡桃って、あんなに仲悪かったっけ?」
「恋愛ってのは恐ろしいものだな。築き上げた関係性を簡単に崩しちまうんだから」
「というかさ。アンタらはどうやってここを嗅ぎつけたのさ」
「剛美がお前の匂いを追って来たんだ。まさに、嗅ぎつけたってやつだ」
「気持ち悪いね」
「なぁー」
咲は未だに口論を続けている剛美と胡桃から視線を外し、部屋に置かれている物の数々を見渡した。胡桃の言葉ではここは胡桃の祖父母の家だった。確かに置かれている物はどれも年季が入っており、時の流れを感じる物ばかり。
しかし、何処か妙であった。祖父母の家という事は、胡桃の祖父母が住んでいるという事。祖父母にとって胡桃は孫だ。全員が全員という訳ではないが、祖父母というものは孫を宝のように思っている。
だというのに、この家には写真が無かった。胡桃が写った写真はおろか、この家の持ち主の写真さえ無い。更に言えば、食器等の普段使いする物が最近使われた形跡が無い。
「……ねぇ、胡桃」
「咲さん!? 親友の私を差し置いて彼女と話すのですか!?」
「ここって、お爺ちゃんお婆ちゃんの家だって言ったよね?」
「そうだよ。今はちょっと出掛けてていないけどね」
「それ、嘘でしょ」
その瞬間、四人を取り囲む空気がヌルくなった。正体は不明だが、胡桃にとって不都合な事が暴かれれば、その何者かが現れるような予感がした。
それでも、咲は構わず胡桃の嘘を暴いた。
「そもそもさ、何かおかしいんだよね。アタシさ、他人が住んでる家の匂いが分かるの。良い匂いとか臭いとかじゃなく、もっとハッキリとしない感じの……気配ってやつかな。そういう気配が、この家から香ってこないの。ねぇ、ここって本当は何処なの?」
「……咲ちゃん。君って娘は、他人が傷付くような事ばかり言うよね」
「そんな風に言うって事は、嘘なんだね」
「……ハァ。もういいよ。そうだよ。祖父母の家ってのは嘘。ここは家。誰かが住んでた家。それ以上でもそれ以下でもないよ。上手いこと咲ちゃんの記憶を上書きしようとしたけど、失敗しちゃった。邪魔者の所為で……!」
突然、外の天候が一変した。晴れ空は暗雲に包まれ、窓を叩く程の強風と、激しい雨が降り始めた。
それに伴って、胡桃に異変が生じる。まるでノイズが走っているかのように胡桃の姿がハッキリと捉える事が出来ず、ようやく姿形が捉えられるようになると、胡桃はあのレインコートの人物と化していた。以前、剛美が目にしたように、まばたきの間に現れていた。
胡桃は袖に隠し持っていた刃物を手にすると、すぐ隣にいる剛美に切りかかった。切りつけられた剛美の体は一瞬の間を置いた後、真っ赤な鮮血が噴き出して崩れていった。流れるように胡桃は次の標的である恋の懐に潜り込むと、腹部に刃物を深く突き刺し、抉ってから抜き取った。
瞬く間に殺された二人。外の酷い雨と合わさって、凄惨な光景が咲の視界に広がっていた。
それなのに、咲は眉一つ動かさずに胡桃を見ていた。逆に、胡桃は深く被ったフードの内側で怯んでいた。これが現実に起こった事なら、咲も冷静ではいられなかっただろう。
つまり、これは夢なのだ。




