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場違い

 待ち合わせに指定した駅前で、咲は恋を待っていた。珍しくメイクをした今日の咲は、いつもよりも少しだけ大人びていた。しかしその小柄さ故か、横目で見ていく通行人からは背伸びをした子供だと思われている。




「お待たせ」    




 そう言ってやって来た恋の格好は、万が一でも他人から話しかけられないような威圧的な装いであった。髪を後ろに流し、イカついサングラスを掛けて、革ジャンの上にデニムジャケットを着ている。中々に難易度の高い格好であるが、高い背丈と纏うイケメン風で見事に着こなしていた。




「……イカつい」




「そういう感じで来いって言っただろ?」




「いや、そうだけどさ……まぁ、いいや。とりあえず適当に歩きましょ。結構グイグイな感じでアタシに接してね」




「ん~、どうやればいいんだ?」




「無理矢理肩を引き寄せたり、デカい声で話したり、よく体を触ったりさ」




「それグイグイじゃなくてクズ野郎だろ……こうか?」




 恋は言われた通りに咲の肩を引き寄せると、嫌がる反応を見せた咲に思わず離れようとしてしまった。離れようとした矢先、一瞬だけ見せた咲の睨みで踏み止まり、一度ため息を吐いてから演技を続けた。




 そうして、二人は街を歩き回った。傍から見れば、気弱な咲を強引に連れ回す悪い男のように恋を見ていた。実際に連れ回されているのは恋の方で、咲は気弱なフリをしながら周囲を見ていた。嫌悪感や怯えを露わにしている通行人や、建物の中から自分達を見ている人達、通り過ぎていく車の挙動。捉えきれない数の対象を一つ残らず見定めながら、不審な動きをする対象を捜していた。




 すると、パーカーのフードで顔を隠した背の高い人物が、二人の後を追っているのが開口窓に映っていた。




「来てるね……」




「アイツか……?」




「あの背の高さ、間違いないよ……」




「オッケー。じゃあ、予定通り人気の無い場所へ行こう……」




 二人は計画していた人気の無い廃墟へ入ると、予め確認していた空いている部屋に入った。恋は扉の陰に隠れ、咲は部屋の中央に立って悲鳴を上げる。




「スゥ……いやぁぁぁぁ!!! 離して!!! 離してよ!!!」




 女優顔負けの演技をした瞬間、廊下から激しい足音が響いてきた。




「咲さん!!!」




「やっ」




「え?」




 駆けつけたのは、やはり剛美であった。剛美は鬼の形相で部屋に飛び込んだが、まるで待ち構えていたかのように平然としていた咲の姿を見て、思考が止まった。




 咲が悪い男に連れ回されているのを尾行しながら、手を出す決定的な瞬間まで動かないように歯を噛み締めていた。そうしてその時がやってきて、剛美は我慢していた怒りを解放して駆けつけると、そこには平然としている咲が立っていた。




(一人? あの男は―――罠!?)


  


 咲を連れ回していた恋の姿が見えなくなっていた事から、これは罠だと剛美は理解した。死角になっている場所から来る急襲を迎え撃とうとするが、既に先手は打たれていた。




 扉の陰から出た恋は剛美が振り向く前に飛び掛かり、首に腕を回すのと同時に自分もろとも後ろへ倒れた。完全に首を絞める形に出来たが、剛美の対人戦闘の恐ろしさから念には念を入れて、両足で剛美の両腕を封じた。




 それでも尚、剛美は足と腹筋だけで体を起こそうと試みて、実際それは実現出来かけていた。立ち上がりさえすれば、状況を覆す方法は剛美ならいくらでもある。




 しかし、その剛美の打開策は、咲の加勢によって打ち砕かれた。咲は立ち上がろうとする剛美の腹に飛び乗ると、一生懸命剛美の体を抑えた。剛美にとって咲の力は赤子のような非力であったが、咲から密着してきた行動に悶え、百万力が一瞬にしてゼロになった。




「アッヘヘヘ!」




「恋! 逃げないようにちゃんと抑えて!」 




「むしろ、オレ、が……押し潰さ、れる……!」




 その後、なんやかんやあって剛美を椅子に拘束させる事に成功した二人。仮にも拘束されているにも関わらず、剛美の表情は未だ蕩けていた。




「フヘッ! もう、咲さん! そんなに私が恋しかっ―――ブフッ!?」




「よし」




「殴ってくれてありがと……なんで殴ったの?」 




「蹴り飛ばされたお返し」




「あー、そっか……あと三、四発くらい殴っとけば?」




「殴るだけだとあれだから、蹴ったりするか。ほら、バリュエーションがないと新鮮味が薄れるだろ? 痛みは鮮度が大事って言うし」




「こういう時さ。映画とかだと、ドリルとかハンダゴテとかで拷問するよね。近くのホームセンターで買ってこようか?」




「それじゃあ高くつくだろ? だったら麻袋とオイルにしろ。結局ああいうのが一番効くんだよ」




「あの……お二人は私に、何をするつもりなんですか?」




「「拷問に決まってるじゃん」」




 数秒の沈黙が続くと、剛美は椅子を動かして縄を解こうとした。しかし、解く事を一切考慮していない結び方の為、脱出するには引き千切るか椅子を壊すかの二択しか無い。 




 暴れる剛美を恋は蹴飛ばすと後ろへ倒れていき、剛美は更に身動きが取れなくなった。




「お二人とも! 暴力は恥ずべき事ですよ!? 何事も話し合いで解決すべきです!」




「お前が言える事じゃないだろ。お前が」




「私がいつ暴力で物事を解決した事が!?」




「なぁ、咲。なんでオレらコイツと友達になったんだろうな?」




「そりゃあ……流れで?」




 咲は話が脱線しかけている事に気が付くと、軽く咳をして、本題に戻った。




「剛美。どうしてアタシ達から隠れたり逃げたりするの? アンタの目的は何さ?」




「それは、咲さんを守る為です! 身も、心も、関係も!」 




「どういう意味?」




「咲さんが私に打ち明けてくれたではありませんか。一度構築した関係を乱したくないと。その為に私が一肌脱ぐと宣言しました」




「……ちょっと待って。待って待って……それってさ、胡桃がいなくなった事と関係してる?」




「もちろんです! 彼女は性懲りもなく、一方的な好意で迫っていましたから! だから、対処しました!」




 まるで善行を為したかのように、剛美は誇らし気に言った。それは正に【場違い】という言葉が相応しい態度であった。

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