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アナタを見守っているから

 窓を叩く雨。外は酷い豪雨で荒れている。時折光る雷が響かせる雷鳴は、地割れを思わせた。




 九月十八日。不登校が続いていた咲は、明日に登校する決意を固めていた。再び登校する気になれたのは、毎日のように話していた恋との通話と、不登校になった原因の胡桃が行方不明になったからだ。




『それじゃあ、明日は来るんだな?』




 携帯のスピーカーから流れる恋の声色には、期待と不安が入り混じっていた。咲は携帯の通話をビデオ通話に切り替えると、制服姿の自分を画面に映した。




「どう? 何か違和感ない?」




『全然ないよ。むしろ、ちょっと痩せたな。服の上からでも分かるくらいヒョロヒョロだ。ちゃんと食ってるか?』




「食べてるけど、ちょっとだけ戻しちゃってるね」




『そりゃ心配だな。まぁ、こうして姿を見せてくれるって事は、心の方は少し余裕が出来たのか』




「……なんか、酷い奴だよね。アタシって。胡桃がいないって知った瞬間、気が楽になったんだ」




 咲の携帯画面に映る恋は、椅子に座って足を組むと、少し考えた素振りをしてから背もたれに身を預けた。




『胡桃、まだ見つかってないみたいだ。もう少しで一ヶ月経つ。それなのに未だに一つも手掛かりが無い。あるとすれば、行方をくらます前にお前の家に行った事だけ。確かその時、剛美もいたらしいな』




「アイツはどうしたのさ? 一緒にいたなら、何か知ってるんじゃないの?」




『それがな、アイツも行方知れずなんだ。ただ胡桃と違って、アイツは何日か学校に顔を出してた。でもある時、学校に来ない日が続いてな。それで今さ。学校じゃ大騒ぎだよ。二人も行方不明者が出てるんだ』




「……ねぇ、もしかして剛美が―――」




 咲がその言葉を言いかけた時、恋が睨んで言葉を止めた。二学期が始まってから、恋は咲達以外の生徒と交流をする事が増え、より一層友情というものを理解していた。そうして、以前までは気に入らない相手と評していた剛美の事も、今は友人と認めている。




 それに比べて、咲は人間関係が不得意となっていた。胡桃の告白から逃げ続け、部屋に籠りきりで他人と面と向かって話す機会が減った為、まず相手を疑う事を身に着けてしまっている。その所為か、以前よりも増して臆病になっていた。




 だから、恋の睨みは咲に非常に効いた。制服の裾を握りしめ、泣きそうな表情で俯く。そんな咲の姿に恋は落胆した。今の咲は、ただただ不憫な子供としか見えなかった。




『ハァ……なぁ、咲。やっぱり学校に行くのは止そう。今の状態で登校しても、お前は孤立するだけだ。まずは他人との接し方をリハビリする必要がある。明後日の土曜日、オレがそっちに行くよ。面と向かって話をしよう』




「……ごめんね。ずっと迷惑掛けて……」




『なに、今までの罪滅ぼしとでも思ってくれよ。オレも剛美も、お前には迷惑ばかり掛けていたからな』




「……二人と、また会えるのかな?」




 咲の言葉に、恋は手で自分の右眉を撫でながら椅子を回転させて考えた。椅子が三度回った後、正面を向いた恋は微笑みながら答えた。




「会えるさ。行方不明つったって、殺されたわけじゃない。多分何処かに隠れてるだけだよ』




「どうしてそう言い切れるの?」




『いや、これはオレの仮説だがな。誘拐とかそういった事件ってのは、どんなに巧妙にやったって証拠の一つや二つは出るもんだ。案外、二人は上手に姿を見せないで、まだ近くにいるかもしれない。まぁ、オレの勝手な憶測だけどな』




「そうだったらいいんだけど……アタシ、一つだけ気掛かりな事があるんだ。実は、胡桃の事で悩んでるのを剛美に相談したの。そしたら剛美「咲さんと胡桃さんが元の友人関係に戻るように、私が仲介に入るんです!」って言ったの」




『……不安しかないな』




「だよね」




 するとその時、咲の部屋の窓が強く叩かれた。突然の物音に咲は体を跳ねらせ、窓の方へ視線を向けた。雨と共に吹き荒れる風が窓を叩いたと理解したが、それだけじゃない何かを咲は感じていた。咲は恐る恐る窓の方へと近付く。




 窓の外は恐怖で満ち溢れていた。夜の暗闇で雨と風が荒れ狂い、僅かに見える電柱から伸びる電線が酷く揺れている。




 次の瞬間、咲の部屋が暗闇に落ちた。それは咲の部屋だけでなく、周辺の家の電気も消えていた。何処かの電線が切れ、停電が起こったのだ。 




 咲は暗闇の中で唯一光る携帯の画面に近寄ると、恋の家も停電していた。


 


「恋……! 恋……!」




『落ち着け。ただの停電だ。これだけ酷い雨と風なんだ。いつ停電してもおかしくなかった』




「どうしよう……アタシ、今一人なの……!」




『携帯の充電はまだあるか? モバイル充電器は?』




「あるよ……!」




『じゃあ、停電が直るまで通話は繋げておけ。一人って、両親は仕事か?』




「お父さんが事故に遭って、軽症だけど、今は入院してて……それで、お母さんがお見舞いに行って帰れなくなって……だから、一人……」




『最近、事故が多発してるんだ。うちの生徒も何人か怪我を負った奴もいる。軽症で済んでラッキーだったな』




「……ねぇ、恋……家に来てよ……」




『心細いのは分かるが、ビデオ通話出来てるだろ?』




「でも……なんだか、誰かに見られてる気がするんだよ……」




 それは暗闇がもたらす不安感から来る幻覚ではなく、確かに感じる視線からの恐怖であった。それは鋭く、生温かく、気持ちの悪い視線であった。




 咲は怖がりながらも、体が勝手に視線を感じる方へと動き、窓の前に立たされた。窓の外は先程よりも暗く、見えていた電柱も見えなくなっている。




 その時、雷が光った。暗闇が晴れた一瞬の中で、咲は見つけてしまう。




 咲の家の前。さっきまで見えていた電柱の隣に、黒いレインコートを纏った人物が立っていた。

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