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崩壊

 夏休みが明け、二学期が始まった。心機一転を表す如く、席替えが行われ、示し合わせたかのように四人はバラバラの席に移動になった。




 剛美はその結果に納得していなかったが、意外な事に胡桃も納得をしていなかった。今まで隣にいた咲が窓際の最前列に移動され、自分は通路側の真ん中の席。授業中に眺めても、微妙に姿が見えない位置であった。友人から好きな人に心変わりした影響である。




「なんか、綺麗に離れ離れになったね。アーシら」




「お前はまだいい。オレとコイツは最後列だ。いや、背の高さからしてそれが普通なんだがな」




「不思議ですよね。席が変わったとはいえ、同じクラスにいる。なのに、なんだか凄く遠く離れた場所に行っちゃった気がします」        




「……ところで、咲ちゃんどうしたの? 初日から休むなんてさ」




「風邪で休むってさ。昨日から高熱を出したようだ」




「どうしてアナタがその情報を知っているのですか……?」




「聞いたからに決まってるだろ、携帯で。ついでに言っておくと、見舞いには来るなとさ」




 恋はそう言ってみせたが、その気軽さは剛美と胡桃にはないものであった。なんだかんだ恋は、咲と良い友人関係を保てているようだ。




 さて、この三人が友人関係になったキッカケは咲にある。似たような想いを咲に向け、少しでも近づく為に咲へ集う。言わば、光に群がる虫のようなものだ。




 今、その光は存在しない。暗闇の中を漂う虫達は、消えた光の再来を願いながら散っていく。そんな風に、三人は各々の席へ戻った。これは彼女達が純粋な友人ではなく、ただ好きな人が一緒なだけの他人である事を明確に表す様子であった。




 時間は流れ、放課後。部活に所属していない生徒が帰宅する中に紛れ込む三人。いつも咲に夢中だった三人が一人で帰っている事を好機と捉え、多数の生徒が群がっていく。




 剛美は表面上では愛想良く対応し、心の中では咲を想っていた。




 胡桃はバイトがあるからと理由をつけて逃げた。




 恋は最初こそ不愛想であったが、取り巻きの誰かが言った小さい物の話題に喰い付き、仲良く話しながら下校した。 




 物足りなさを感じた一日であったが、咲が復帰した暁には、あの色鮮やかな日常が戻ると三人は思っていた。




 しかし、一週間が経っても咲が学校に来る事は無かった。いくら高熱とはいえ、風邪で一週間以上休むのは異常だ。心配になった剛美は、帰宅する途中で咲の家に寄ってみる事にした。




 剛美が咲の家に辿り着くと、そこには既に胡桃の姿があった。二人は顔を合わせると、まるで他人のように軽く会釈し合うと、先に玄関前へ進んだ胡桃がインターフォンのボタンを押した。十秒程経った後、玄関の扉が開くと、二人を出迎えたのは咲の母親であった。




「あら、剛美さん。そっちの子も咲の友達?」




「はじめまして。えっと、今日は咲ちゃんの様子をうかがいに来たんですけど……」




「あー、そうなの。わざわざありがとうね。全然学校に来なくて心配だったでしょ。会わせてあげたいけど、もうちょっとだけ待っててほしいの。あの子がもっと元気になってからね」




「もしかして咲ちゃん、何か重い病気になっちゃったんですか?」




「そういうわけじゃないんだけど……何か、嫌な事があったみたいなの」




 咲の母親の言葉に、剛美は気が付く。




「一目でいいんです。咲ちゃんに会わせてくれませんか?」




「そうね。友達の顔を見たら、少しは元気が出るかも。じゃあ―――」




「すみませんお義母さん。実は私達、これから用事があって行かないといけません。咲さんには私達が来た事を伝えておいてください」




 剛美は軽く会釈すると、半ば強引に胡桃の手首を掴んで去った。咲の家から十分に離れると、掴んでいた胡桃の手首を離した。  




「ちょっと! あと少しで家に上げてもらえそうだったじゃん!」




「……胡桃さん。もう少しだけ、待ってみませんか?」




「え? そりゃ、待つつもりだよ。無理に学校に連れてったって意味無いし」




「そういう事ではなく。アナタの我が儘を抑えてほしいと言ってるんです」




「……はぁ?」




 流石の胡桃でも、剛美の言い分に納得出来なかった。普段から咲に対して我が儘な剛美が言うのは、おかしいのではないのかと。それは剛美自身も自覚していた。その上で、剛美は胡桃に頼んだのだ。




「アナタ、咲さんに告白したようですね」




「……だったら?」




「どうして告白なんてしたんですか。何故、アナタがしてしまったんですか」




「なにさ、その言い方。まるでアーシが悪い事をしたみたいじゃんか。好きな人に告白する。それの何処がおかしいのさ」




「告白に関して言っているのではありません。私はアナタの思慮の無さに苦言を呈しているんです」 




 胡桃は手にぶら下げていたカバンを剛美の顔面目掛けて振り被った。カバンで顔を殴られても、剛美の顔が少し動く程度で大したダメージにはなっていない。だが、胡桃が暴力を振るった事に驚愕していた。




 同じ相手を好きになったライバルとはいえ、胡桃の優しい人柄は剛美が彼女を評価していた点の一つ。そんな彼女が今、鬼のような形相で自分に暴力を振るった。それは物理的な痛みよりも厄介な精神的打撃であった。




「アンタさ、いい加減に咲ちゃんに付き纏うの止めなよ。迷惑なの気付けないの?」




 その棘のある言葉の連続に、剛美は唖然とした。剛美が知っている胡桃とは、まるで別人のような言葉遣い。その変貌に、剛美はますます胡桃を咲に会わせてはいけないと直感した。




 それが最悪を招いた。格闘家の道から離れた剛美だが、その身に刻み込まれた技は当時のままである。戦いは一瞬一瞬が命取り。そういう世界で多くの敵を倒してきた剛美は、直感を何よりも信頼していた。




 今年は例年に比べて気温が下がるのが早く、まだ八月でも長袖に変える人もいた。天候も芳しくなく、明日から長い雨の日が続く。




 季節は秋だ。




 そしてすぐに冬が来る。

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