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ライバル登場

 今日も今日とて、三人は賑やかな学校生活を送っていた。咲と胡桃が仲良く喋り、そんな二人に剛美が荒れ狂う。いつも通りの日常だ。




 しかし、そんな日常に不穏な影が近付きつつあった。 




 昼休みが終わり、午後の授業に入る間際、教室に見知らぬ女子生徒が先生に連れられて入ってきた。ショートカットの金髪。狼のような鋭い青い瞳。長い手足に見合う高身長、およそ百八十センチ。上は同じ制服であるが、スカートではなくスラックスを着用。顔立ち・低い声・佇まいが完全に男勝りであり、僅かに膨れた胸部だけが彼女を女性だと証明している。   




「突然ですが、転校生を紹介します。それじゃあ、軽く自己紹介を」




「沢城恋。恋と書いてレンだ」




 短く不愛想な自己紹介であったが、そんな事がどうでもいいくらいに恋は容姿が良かった。クラスメイトが上げた黄色い歓声が廊下にまで響き渡っていく。そんな彼女達に対し、恋は呆れてため息を吐いた。




「えっと、君の席はそこだ。窓際の最前列。そこの席の子は君と入れ違いで転校したから、その席を使いなさい」 




 恋は指定された席に向かうと、最後方に位置する咲の姿を目にした。咲の姿は前の席に座る剛美に隠されて、右手だけが垣間見える程度であった。引いた椅子を戻し、恋は咲のもとへ近付く。


 


 近付いてくる度に分かる恋のデカさと、鋭い眼光は容易に咲を萎縮させ、すぐ隣まで恋が来る頃には、咲は逃げるように自分の机に突っ伏していた。剛美よりも少し小さいが、それでもデカい事に変わりない。更に剛美とはまた違った圧があり、喰い殺そうとする鋭く青い瞳が咲を見下ろす。




(見てる! 絶対まだ見てる! 剛美に続いて、なんでアタシにはデカい女と縁があるんだ!? しかも目も合っていないよ!? なんでアタシが狙われてんのさ!?)




 窓から差し込む日差しが咲の背中を照らす。夏の訪れを予感させる日差しであっても、今の咲を暖める事は不可能であった。妙に肌寒く、気味の悪い汗が体から滲み出ていくばかり。この状況で咲は、熊と遭遇した場合、死んだフリをしてやり過ごす事が迷信だという事を理解した。




 絶体絶命のピンチを迎えていた咲であったが、一方で恋は咲を見下ろしながらこんな事を思っていた。




(小さくて可愛い)




 沢城恋。幼少期から女性でありながら背が大きかった事から、同年代の子供や大人達、更には自身の親にさえ背の高さをイジられていた。毎日のように言われ続けられ、小学五年生になった頃から、恋は女性として生きる事を捨てた。服は男物を着用し、髪は常に短く、何を言われても動じず堂々とあった。




 男として生きてきた恋だが、趣味嗜好の分野だけは女性らしかった。小さくて可愛い物、あるいは小動物を好み、人目がつかない所を探しては、捨てたはずの女性らしさを取り戻していた。




 そんな恋にとって、咲の小さい体はドタイプであった。どう愛でるかだけが頭の中を埋め尽くし、今にも手が出そうな自分を理性が必死に抑えつけている状況。恋は剛美と同じデカい女であるのと同時に、好きなタイプも剛美と同じであった。




「恋さん、でしたっけ? いい加減自分の席に戻りなさいな」




 膠着状態が続く中、剛美が割って入った。恋が視線を剛美の方へ移すと、剛美は目を見開いて恋を睨んでいた。




「怖い顔。そう睨んでは、咲さんが怖がってしまうのも無理ありません。今すぐ自分の席に戻りなさい。戻れ」




「咲……この子の名前は、咲か」




 その場から一向に動こうとしない恋。恋の視線が再び咲に移りかけた瞬間、立ち上がった剛美に襟を掴まれた。至近距離で睨み合う二人。剛美は恋を咲に危害を加える相手として認識し、恋は剛美を敵だと認識した。 




 教室に一触即発の空気が流れる。生徒はもちろん、本来なら止めるべき立場にある先生すら息を忘れる程に緊張していた。




 そんな中、一人の女子生徒が密やかに動いていた。胡桃だ。胡桃は二人が睨み合っている間に、咲を安全な場所へと逃がそうとしていた。




「咲ちゃん……」




 咲は胡桃に手を引かれ、ゆっくりと席を離れた。そのまま二人は教室を抜け出し、屋上まで逃げてきた。




「ヤバいってあの転校生! いきなり咲ちゃんに因縁つけてさ! 弱い者イジメって奴っしょ!」




「胡桃、逃がしてくれてありがとう……」 




 緊張が解かれた安心感から、咲は胡桃に抱き着いた。胡桃は咲をほんの少しだけ強く抱きしめ、背中を撫でてあげた。




「あのままだったら完全巻き添え喰らってたからね。友達のピンチを見過ごしちゃ、友達失格っしょ」




「胡桃と友達になれて本当に良かったよ~。アタシを胡桃のお嫁さんにして~」




「それアリ! 咲ちゃんがアーシの嫁ちゃんになってくれたら、毎日頑張って仕事行けるわ!」




 二人は冗談を言い合い、さっきまで感じていた恐怖を払拭した。しかし、完全に恐怖が消えても、お互いに離れる気が起きなかった。安心感の他に、何か温かな想いが二人に芽生えかけていた。




 あと少しで想いの正体に気付くという時に、屋上の扉が勢いよく開いた。屋上にやってきたのは、剛美と恋であった。二人の服や髪には争った形跡があり、息を荒々しくさせていた。




 さて、ここでとんでもない誤解が生まれる。剛美は咲に明確な好意を持っている。恋は咲を気に入っている。多少の違いはあれど、互いに咲を独占したい気持ちは同じであった。




 そんな二人が咲と胡桃が抱きしめ合っている光景を目の当たりにした場合、胡桃に覚える感情はたった一つ。




「「殺す!!!」」 




 その後、胡桃と咲は獣と化した二人に追いかけ回された。完全に撒いたのは、それから六時間後の十九時を回った頃だった。

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