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私が先に好きだったのに

 土日の勉強会を終え、月曜日に追試が行われた。五教科全て追試という異例の状況に、剛美だけ試験の時同様の状態で追試が行われた。一限目から六限目までフルで使い、放課後に合否が分かる。




「剛美さん大丈夫かな。五教科全部追試だなんてさ。せめて半分は合格してほしいね」




「……そうですね」




「そういえば咲ちゃん。今日ずっと顔色悪かったけど、体調悪いん?」




「いえ、ちょっと……寝不足でして……」




「土日も剛美さんに勉強教えたんだっけ? あー、その疲れか……」




「覚えは良いんです。ただ、やる気を出させるのに苦労しまして……」   




「大変だったね~。そだ! 剛美さんの合否関係なく、放課後はどっか寄って行こうか! アーシが奢ったげる!」




「え? でも、胡桃は平日バイト漬けじゃなかった?」




「それがさ。店長から「学生なら仕事ばっかりしてないで青春しろ!」って言われて。確かにそうなんだけど、親かよって感じで。まぁ、お言葉に甘えて、シフトちょっと減らしてもらったんだ。だから今日はダイジョウブイ!」




 胡桃はピースサインを添えて笑顔を咲に見せた。その眩しすぎる笑顔に、咲は自然と涙が零れ、胡桃に抱きついた。急に抱きつかれて驚いたものの、咲の苦労を理解した胡桃は、咲の頭を優しく撫でた。




「咲さん!!! やりました!!! 私やりました―――ああああ!!!」




 有頂天で教室に駆け込んだ剛美が目にしたのは、胡桃に抱きつく咲の姿だった。この場合、タイミングが良いのか悪いのか。一つ確かな事は、剛美にとって最も恐れていた事態が現実として現れていた。




 剛美が恐れていた事。それは胡桃に咲を奪われる事。胡桃はギャルの類でありながら、常識を弁え、誰にでも優しく接する良い子。その聖母たる佇まいに、生きとし生ける者は列を成して胡桃に殉教するだろう。それは咲も例外ではない。


 


 剛美は悩んだ。今ここで胡桃を排除するか、あるいは挽回を試みるか。普通であれば後者一択であるが、二択で悩んでしまう程に胡桃は強敵であった。




「お! 剛美さんじゃん! 試験どうだった?」




「グギギギ!!!」




「え、駄目だったの?」  




「咲さんから離れなさい! この……この……えと……胡桃さん!」




「え~。でも~、これは咲ちゃんからだし~」




 胡桃は剛美の反応が面白く、ちょっとだけ意地悪したくなってしまった。わざと煽るような口調で、それでいて事実を述べた。




 しかし、それが剛美の血を沸騰させた。例え警察沙汰になっても、例え断頭台に立つ事になろうとも、剛美は胡桃を潰す事を決意した。 




「胡桃さん。アナタは良い人です。誰にでも優しく、その持ち前の明るさで暗く淀んだ気持ちを晴らす力を持っています」




「エヘヘ! なにさ急に! アーシ褒められ慣れてないから照れるし~!」 




「私は敬意を表し、アナタに温情を。どんな死に方がお望みですか?」




「死に方!? ちょちょ、ちょっと待った! 急に話がバイオレンスになったって!」




「胡桃さん。お覚悟を」




「どこに温情があったのさ!?」




 死刑執行寸前。胡桃から離れた咲が剛美の前に立ち、少し睨みを効かせながら剛美を見上げた。真っ直ぐと自分だけを見つめる咲の瞳に、剛美はすっかり牙が抜け、表情は蕩けきっていた。




「剛美」




「はい! なんでしょうか咲さん!」




「結果は?」




「結果? ああ、追試の件ですか。全教科、七十点以上です!」




「そう……頑張ったじゃん」




 咲は剛美の頑張りを労わろうと、剛美の頭を撫でようとした。しかし、悲しいかな。咲の低い身長では、どれだけ背伸びをしても、剛美の顎に指先が触れる程度であった。




 だが、それが逆に剛美の心を鷲掴んだ。可愛らしさ・優しさ・初々しさ。その三つが高濃度で剛美の体内を巡り、脳に達した瞬間、キャパオーバーで剛美は気絶した。




「剛美? おーい……死んだか」




「気絶してるだけだよ。いや、気絶してるだけでもおかしいけど。どうする? 保健室に運ぶ?」




「保健室の先生に迷惑だからやめとこ。それより、胡桃。何処に行く?」




「う~ん、最近出来たカフェとかどう? オシャレな内装で飲み物はもちろん、そこのケーキが美味しいって話だよ」




「じゃあそこにしよう」




「剛美さんはどうする? カフェまで運ぶ?」




「お店の人に迷惑だからやめてとこ。どうせ意識が戻ったら、すぐに追っかけてくるだろうしさ」




「そっか。じゃあ、先に行こっか!」




 胡桃は咲の腕に抱きつくと、咲も照れながら胡桃に身を寄せた。尚も気絶したままの剛美を通り過ぎ、二人は一足先に学校を後にした。




 その後、慌てて追いかけてきた剛美を加え、三人はカフェで楽しくケーキを味わった。

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