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ひかりの恋 卒業  作者: ひなたひより
第一章 早春の日々
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第13話 美しいアクセサリー

 また少し寒さの戻った二月の夕方。

 夜へとさしかかろうとしている時間帯のショッピングモールへに、白いマフラーを巻いた高校生の少年が足を踏み入れた。

 少年は空調の効いたモールに入ってすぐ、首に巻いたマフラーを外して、丁寧に折り畳む。


「ふう」


 ひと息ついた少年の頬には、はっきりと分かるほどに赤みがさしている。

 外気温との寒暖差を頬に感じつつ、少年は畳んだマフラーを大切そうに鞄に直した。


「さて……」


 そう呟いた少年、高木誠司は、目的の場所へと真っ直ぐ向かう。

 休日とは違い、モールの中の賑わいはそれほどでもない。

 吹き抜けのホールにある長いエスカレーターで三階まで上がり、先週ひかりと一緒に歩いた通路を今日は一人で歩いていく。

 そして、誠司はある店の前で足を止めた。


「これか……」


 誠司は店頭のショーケースに顔を近づける。

 そこにディスプレイされていたのは、星の形をかたどったネックレスだった。

 ジュエリー用の照明に美しく照らし出されたそのネックレスを、誠司はしばらく見つめていた。


「プレゼントですか?」


 不意に掛けられた女性店員の声に、集中していた誠司の肩がビクッとなる。


「あ、いえ、その……」


 二十代前後半くらいの女の人だった。

 少しあたふたしている少年に、女性店員の表情が緩む。


「学校帰り?」

「は、はい……」


 短いコートを羽織っているので制服は隠れている。恐らくズボンで気が付いたのだろう。

 女性店員は慣れた感じで誠司の横へ並ぶ。長い髪をかき上げると、バラのような香水の匂いがフワリ香って来た。


「藤ヶ丘?」

「えっ? はい、そうですけど」


 簡単に高校名を言い当てられ、誠司は驚きを隠さずそう返した。

 女性店員は何やら得意げに、正解したことに対する種明かしをしてくれた。


「この時間帯に、この店に制服で来る高校生って、大体三校だけなの。その中で黒の制服は藤ヶ丘だけ。そうゆうこと」


 成る程、そうゆうことか。単純明快な答に誠司は納得しつつ、この女性店員がそういったことを観察していることに、いくらか感心させられた。


「それで? おにいさんはこのネックレスを彼女にプレゼントしたいわけ?」


 相手が歳下の高校生だからか、それとも、少年の雰囲気がおどおどしていたせいか、女性店員は少し砕けた感じで核心を突いて来た。


「はい、まあ……」

「他のアクセサリーには目が行ってない所を見ると、彼女と一度、ここへ来たことがある。そんな感じかな?」


 完全な図星だった。先週末にここでひかりが見つめていたショーケースがどうしても気になって、誠司は今日ここへ足を運んだのだった。


「ど、どうしてそれを」

「男の子ってそんなものよ。好きな人が欲しいと思うものをプレゼントしてあげたい。みんなそう思ってるわ」


 すごい女性店員だ。感心させられた誠司は、思わず彼女のネームプレートの名前を確認してしまった。

 ネームプレートには森田と書かれていた。


「店員さんが仰るように、この前来たときに、このショーケースを彼女が見つめてて……」

「でも彼女は欲しいとは言わなかった。そうでしょ」

「はい。そのとおりです」


 もしかして観察されてたのか? そう勘ぐってしまいそうなほど、この女性店員は的確にその時の様子を言い当てた。


「それはそうよね。このアクセサリー、高校生だったら少しおねだりしにくいと思うわ」


 さり気なくプライスタグを指さしたことで、誠司は彼女の言わんとしていることを理解した。

 高校生がプレゼントするには少し高価なアクセサリー。

 ひかりならば、決してそれを欲しいと言わないだろう。


「あっちのコーナーに、女子高生向きの手頃なのもあるわよ」


 案内されて行ったコーナーには、可愛いアクセサリーが幾つも並んでいた。

 ネックレスだけでこんなにデザインがあるのか。

 こういった店に踏み込んだ経験の無い誠司には、それらは新鮮過ぎて、ただ戸惑うばかりだった。


「これなんか人気だよ」


 手渡されたネックレスは確かに可愛いデザインだと思った。

 幾つか勧められたものを手に取って眺めているうちに、他のお客さんから女性店員に声が掛かった。


「すみませーん」

「はい。少々お待ちください」


 誠司は女性店員が相手をしだした女子高生たちに、何となく目を向ける。

 少し着飾った女の子たち。

 他校の制服だ。きっと自分と歳の変わらない少女たちだろう。

 誠司はひかりの姿を頭に思い描く。

 彼女は本当に飾りっ気のない少女だ。

 ただひたすらに陸上に打ち込み、クラスメートたちが普通にしているおしゃれを、あたり前のようにしていない。

 ネイルでおしゃれすることも、アクセサリーを身につけることも、誠司の知る限り、一度も目にしたことは無かった。

 そんなひかりが、目を止めていたあの綺麗なネックレス。


「君の目にどう映っていたのだろうか……」


 そして誠司は、また最初に見ていたショーケースの前に戻って来ていた。


「やっぱり気になるのね」


 女子高生たちから解放されて、さっきの女性店員が誠司のところへ戻って来た。

 誠司はホール内の大きな時計を見上げてから、女性店員に丁寧に一礼した。


「そろそろ帰ります。色々とありがとうございました」

「そう。また来てくださいね」


 ニコリと会釈した女性店員が、背を向けた少年の姿を見送る。

 その背中に何かを感じ取ったのか、女性店員は足を一歩踏み出した。


「ちょっと待って」


 振り返った少年に、女性店員は胸ポケットから名刺を取り出し手渡した。

 アクセサリーショップディーネ 店長 森田深雪とそこには記載されてあった。


「三月十日から半期に一度の決算セールなの。ショーケースの中の品は入れ替えで今よりかなりお得になるから。だからまた覗きに来て」


 早口でそう言った店長に、誠司は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。必ずまた来ます」


 少年が去った後、女性店長は、ショーケース越しのネックレスに目を落とした。


「いいご主人様のところに行けそうだよ。おまえは」


 そう語りかけた彼女の顔は、少し満足げだった。

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