意地悪してたから義弟に復讐(溺愛)される
設定ふんわりです。設定ふんわりです。(大事な事なので二回)
「返して、メイ姉さま」
それが義弟、アルヴィンの口癖だった。
私のお父様の再婚相手の連れ子。
私が12歳、アルヴィンは10歳の時だった。
娘しかいないガイラー伯爵家にとって彼は将来爵位を継ぐ息子となる。
当然お父様はアルヴィンばかり構い一人娘である私には構ってくれなくなった。
以前までは女伯爵となるべく教育もさせられていたが、今はアルヴィンにばかりさせて私はすっかり花嫁教育に変わっていた。
アルヴィンは何でも出来る優秀な義弟だ。見た目は可愛らしい天使。
真面目で優秀、何でもこなせて素直に言う事もきく彼はすぐにお父様のお気に入りになった。
だから私は彼が気に入らなかったの。
「姉さまなんて呼ばないで。あなたなんか弟じゃないわ」
そう言うと小さい彼は初めて泣きそうな顔をした。
アルヴィンが勉強に使っている本を取り上げてよく意地悪をしたから。家族だって認めなかったから。
だってこれは本来私が使うものだったのに。
お父様から期待されていたのは私だったのに。
悔しい気持ちがこみ上げて私まで泣きそうになる。
アルヴィンの前で弱みを見せたくないのでグッと堪えた。
「あなたにこんな教育は必要ないわ。子供は外で遊んでいらっしゃい」
「……え? いいの?」
意地悪しているはずなのに、何故かアルヴィンは目を輝かせてこちらを見てくる。
「当然でしょう? 子供は外で遊ぶものよ。あなたにこんな教育はまだ早いと思うの。私が代わりにやっておくから」
「でも……メイ姉さまが良いと言ってもお父様が許してくれません……」
その言葉にピキッときた。誰のお父様だって?
私は内心の怒りを抑えながら務めて冷静に話す。目は冷たいが。
「勘違いしてはダメよアルヴィン。あなたのお父様は別にいて、私のお父様ではないの。赤の他人なのよ」
「でももう僕のお母様と結婚されて、本当の家族になったんじゃ……」
「ええ、ええ。世間的にはそうね。でも事実、どんなに頑張ってもあなたとは血が繋がらない他人であることには変わりないでしょう? それはお父様も同じよ」
「僕のお母様とメイ姉さまも?」
「そうよ」
彼は何か考えるように黙ってしまった。少し厳しくしすぎたかしら……。
私がそうであるように、子供は親の愛情に飢えている。
だからこそ唯一の肉親の愛を強請るのは当然だ。それを邪魔されたくはないはず。
アルヴィンだって自分のお母様にだけ甘えていればいいのに。
私はアルヴィンの小さなつむじを見下ろしながら、自分の行ったことや行動は間違っていないと奮い立たせた。
「だからね、お父様には私から言ってあげる。あなたはもう勉強が終わったから外に遊びに行きましたってね」
「……わかりました」
顔を上げた彼は何故か笑顔だ。
え、なんでそんなに嬉しそうなの?
「では姉さまも一緒に遊びましょう!」
「……は?」
突然の提案に混乱する。
「だって子供は外で遊ぶものなんですよね? ならメイ姉さまだって子供なのですから、一緒に遊びましょう!」
「え? いや、ちょっ…………」
ものすごく無邪気な笑顔を向けてくる。
だって今まで何度も意地悪してきて勉強の邪魔をしてやったのよ?
嫌われてるのは間違いない。だからひょっとしてこれは彼なりの嫌がらせなんだろうか?
(そうよ、絶対そうに決まってる!)
私は無邪気に握ってくる小さなアルヴィンの手を振り払った。
「あなた、ひょっとして私の勉強の邪魔をしたいんでしょう!? 私に伯爵を継がれるのが許せないんでしょう!? 騙されないわよ!」
「? 何の話ですか? あ、ひょっとしておままごとで遊ぶんですか?」
「! 知らない!」
そう言って私は自分の部屋へ走り去った。
◆ ◆ ◆
「またアルヴィンがメイちゃんに失礼なことを? 困った子でごめんね」
そう言ってふんわりと困ったように笑う義母。
部屋で勉強をしていたらお茶と菓子を持って謝りに来てくれた。
アルヴィンのお母様は優しい人だった。
私がお父様の愛情に飢えているといち早く察知し、実の息子であるアルヴィンよりも気を遣ってくれている。
私がアルヴィンに対する意地悪も知っているはずなのに。なんで怒らないんだろう。
私は本当の娘じゃないから。お父様に嫌われたくないから気を遣っているんだろうか。
彼女は以前侯爵家に嫁いでいたが、そこには既に爵位を継ぐ息子と他にも3人ほど男兄弟がいた。
しばらくして夫が病気で亡くなったのをきっかけにアルヴィン共々侯爵家を追い出されたところ、私のお父様と出逢い結婚したそうだ。
ようするにアルヴィンは本来侯爵家の人間だったが、いらない息子だったため息子がいないこちらの養子になったというわけだった。
侯爵家では必要とされなかったアルヴィンも、ここに来て必要とされるようになった。
私の居場所を奪ったことになったけど。
「お気遣いなく。それよりもミランダ様はアルヴィン君に構ってあげてください。私はこれから淑女教育もありますので失礼致します」
そう言って次の勉強の為に部屋を出て行った。
ちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。
すれ違った時のミランダ様の横顔……とても悲しそうな顔をしていた。
でも何に傷ついたのかがわからない。私に懐かれないからだろうか。
それともアルヴィンについて指摘したからだろうか。
◆ ◆ ◆
それから後日。
温室に行くとアルヴィンとミランダ様が楽しそうに遊んでいた。
一緒にお花を選んでいるようだ。
(きっとお父様にあげるんだわ)
それを見て私はお母様との思い出を思い出し、辛い気持ちになった。
良い思い出なんてない。お母様は私に全く構ってくれなかったから。
離婚して出て行く時だって私に見向きもしなかった。
私は誰にも必要とされていない。誰にも期待されていない。誰からも愛情をもらえない。
涙が出そうになったので急いで顔を隠す。
どうすれば良かったの? 何が正しい行動なの? どうすれば愛情を得られるのかわからない。
あの二人が羨ましい。私も誰かに思いきり愛されたい。構って欲しい。
(私、頑張っているはずなのになぁ……)
「う……ひっく」
悲しい気持ちが溢れ、思わず声が漏れる。
すると突然、ふわっと優しい花の香りがした。
顔を上げると、心配そうな顔をして花を差し出すアルヴィンと、同じような表情でこちらを伺うミランダ様がいた。
「大丈夫? メイ姉さま」
私は差し出された花の意味がわからなくて涙がこぼれるのも気付かず戸惑う。
「ど……して? これ、私に?」
お父様にじゃないの……?
すると彼はニッコリと可愛らしい笑顔で言った。
「姉さまと血が繋がってないから、僕のお嫁さんになって」
◆ ◆ ◆
「まさかあれ、本気だったなんて……」
あれから8年の月日が経ち、目の前には18歳になった新郎。
天使だった中性的な容姿からシュッとした美青年に成長した彼は、相変わらずの無邪気そうな笑顔で嬉しそうに、愛おしそうに私を見る。
すっかり背が伸びたアルヴィンは今となってはもう私を見下ろしていて、昔は私が彼の小さなつむじを見ていたことを懐かしく思った。
「あの時母上に相談して良かったよ。僕も母も君と本当の家族になりたかったからね」
「だって私、ミランダ様にはお世辞にも懐いていなかったしあなたにだって意地悪していたのよ? 教科書奪ったりして」
「ああ、あのことか。意地悪だなんて思わなかったよ」
「どういうこと?」
あの時は父の、家族の愛情に飢えていて、アルヴィンが羨ましくて仕方なかった。
我ながら幼稚なことをしていたなと思い結局二人に謝ったんだけど、以来アルヴィンから誘われて時折一緒に遊んだりすることが増えていた。
そうこうしている内にミランダ様とも上手くいくようになり、お父様も私に構ってあげられなかったことを謝ってもらえたりと。何故か良い事ばかり起こるようになって。
「あの時の僕は、義父上からの熱心な教育が辛かったんだよね。勉強自体は簡単にこなせたけど僕を僕として構ってくれる人はメイ姉様だけだったから。来る日も来る日も勉強ばかりで本当はもっと遊びたかったんだ」
(私と……同じようにアルヴィンも辛かった?)
「母上もあまり構ってくれなかったんだけど、ある日君の言葉で僕に向き合ってくれるようになったんだ」
ミランダ様の悲しそうな横顔が忘れられなくて自己嫌悪に陥ったあれかしら……。
「僕は君に血が繋がらないから家族じゃないって言われて、最初すごくショックだったんだけど、母に相談したらじゃあ結婚しちゃえば本当の家族になれるって言われてね。母も本当の娘になれるって喜んでいたんだよ」
「そうだったの……」
「僕はね、君に救われたんだ。君は僕に意地悪をしているつもりだったかもしれないけど、おかげで必要以上に勉強詰めになる必要がなくなり、適度にストレス発散が出来てかえってプラスになったんだよ。だから今の僕があるんだ」
そう言って微笑みながら私の髪を優しく撫でる。
「ありがとう、メイ姉様」
「アルヴィン……」
温かい気持ちが胸いっぱいに広がる。間違いもあったかもしれないけど、そう言ってくれる彼に私も救われた。
私、愛されていたんだな……。
「――って、思ってたのにさぁ……」
急にトーンが下がりこちらを見つめる目がすっと細められる。
え? と気付いた時にはドサッとベッドに押さえ付けられていた。
そう、今はアルヴィンとの結婚式を終えたその日の夜、つまり初夜。
「メイ姉様、どうして勝手に他所へ嫁に行こうとするわけ?」
「え? ……え?」
そう、確かあれは1年ほど前。
年齢的にも行き遅れギリギリになってしまうし、早いところ嫁にいかないと伯爵家の穀潰しになってしまうと思い積極的に夜会に参加していた。
なにしろ子供の時にアルヴィンに言われたことだ。私を慰めてのことだと思っていたから本気にはしていなかった。
アルヴィンが寄宿学校に行ったせいもあり、なかなか会えなかったからというのもあるけど。
1年ほど前に私に興味を持ってくれた貴族の男性がいて、その人の手を取ろうとしたところ丁度帰省していたアルヴィンに阻止された。
どうやらまだ根に持っているらしい。
「だ、だってまさか子供の頃のプロポーズなんて本気にするわけないじゃない。私の方が年上だし、成長するにつれてあなたの気持ちが変わる可能性だってあったのよ?」
「甘い……甘すぎるよ姉様。いや、メイ」
そう呼ばれ、思わずドキっとした。
目の前にいるのは色気を漂わせた天使だった美青年なのだ。正直ずっとくらくらしてる。
「僕がどれだけずっとメイを想っていたか……。たった数年じゃ伝わらなかったみたいだね」
「えっと……」
「寄宿学校だって本当は入りたくなかったんだ。メイと離れ離れになるからね。でも義父上と母上が僕をメイから離したがるんだよ。僕の愛が危険なんだってさ」
(それは一体どういう……?)
アルヴィンはニッコリ笑い、私の頬から首へ手を滑らせた。
瞬間、腰にくるようなゾクっとしたものが駆け巡る。
「ずっとこの日を夢見ていたんだ。メイと結ばれる日を。本当に夫婦になれるこの日をね」
「あ……っ」
そっと触れられる度に心臓がうるさい。私は顔に熱が集まるのを感じながら身をよじる。
本当は私だって。本気にしちゃいけないって思っても、信じたかった。
だから今、彼が私に向けてくる感情全てが愛おしい。
「メイの言葉を借りると……そうだな。これは復讐だよ」
アルヴィンは私の耳元に唇を寄せ、低い声で囁く。
「メイが僕に意地悪したから。だから僕はお返しにメイを一生愛して、離さないでいてあげる」
そう言って私の唇を塞いだ。
短編という長さなので、ヒロインと結婚出来る方法についてはあえて端折ってますご了承ください。
読んで下さった方、評価やいいね等もありがとうございました!^^