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最終話 再会 〜ルチカとランプキン〜

父との食事が終わり、風呂に入ったルチカはキャミーシャと夜風を浴びていた。


時刻は二十二時を過ぎた頃。いつものルチカなら湯船に浸かったらすぐに寝るのだが、今日は例の件もあってか中々眠気がこない。


「にゃあむ……」


「キャミーシャは眠いのね。それなら着いてこなくても良かったのに」


「にゃーにゃ」


キャミーシャはゆるゆると首を横に振ると、ルチカの足を前足でぎゅっと掴んだ。

その姿があまりにも可愛くて、ルチカは思わず吹き出す。


ひとしきり笑ったあと、ルチカは夜空を見上げる。

雲もなくすっきりした夜空にはきらきらと星や満月が輝いている。

ルチカはほふぅ、と白い息を漏らしてからぽつりと呟いた。


「……ランプキンに会いたいわ」


あれから三ヶ月。手紙で何度か交わしたことはあるが、面と向かって話したことは一度もない。

あれだけ熱く友だちについて語っておいて離れ離れなのは、なんだかランプキンを騙したようで胸が痛い。


(一度でいい。少しでいい。あの子と、ランプキンと言葉を交わしたいわ)


ルチカが手を合わせて月に祈ろうとしていると、誰かが頭をぽんぽんと叩いた。ひんやりしていて少し硬い。


「キャミーシャ、寒いならお家に戻ってもいいのよ?」


てっきり肩に乗ったキャミーシャが叩いたのかと思い、ルチカは横へ視線をやる。しかしキャミーシャはそこにはおらず足元に佇んでいた。


「にゃーにゃ! にゃーにゃ!」


それどころか何やら興奮した様子で声を上げながら前を見ている。

ルチカは首を捻りながら、正面へ視線を戻し──目を見開いた。


「やぁ、ルチカ、キャミーシャ」


「……」


「あれ……。おーい、ルチカ?」


棒立ちになるルチカに、かぼちゃ頭の青年──ランプキンは困ったように頭をかく。


しばらくしてルチカは正気を取り戻すと、一歩後ろに下がり震える声で言った。


「ららら、ランプキンキン……?」


「どうやら久しぶりだからか、私の名前を忘れてしまっているようだね」


ランプキンは胸に手を当てて深く頭を下げる。


「私の名はランプキン。君の最初の友だちさ」


「……うそ。うそよ。だってランプキンは、ランプキンは……」


「うむ。私は今も刑務所にいるよ」


「ならどうしてここにいるの? 幻覚でも見ているのかしら……?」


ルチカは目尻を伸ばしたり縮ませたりする。しかし、いくらやっても目の前にはランプキンが佇んでいた。


「……ランプキン? 本当にランプキンなの?」


「こんな特徴的な見た目の紳士など、世界を見ても珍しいと思わないかい?」


「そ、そうだけど……」


ランプキンはまだ釈放される日ではない。にも関わらずここにいるのは、ルチカの聞き間違いか、それとも……。


「もしかして、家出してきたの?」


「……刑務所が家なら中々物騒だね。流石にそんなことはしないよ。もっと君に会えなくなるしね」


「ならどうして……」


「魔法協会に呼ばれてね。ついでに友人の顔でも見ようかと思ったのさ」


ルチカはほっと胸を撫で下ろし……途端に頬を膨らませる。


「ふーん、あたしのことはついでなのね。ふーーん?」


「あ、いや、そういう意味ではなくて……」


「あたし、ずっとずっとあなたに会いたかったのに。ランプキンはあたしのこと、どうでもいいと思っていたのね……」


「え、ええっと……」


ランプキンはどうしようかと身振り手振りで弁明しようとする。

そんな必死なランプキンを見て、ルチカはくすくすと笑った。


「冗談よ。そこまで面倒くさい女の子じゃないもの。ね、キャミーシャ?」


「……」


「な、何か言ってよ、キャミーシャ……」


反応がないキャミーシャにルチカは視線をやると、ランプキンの足元で体を丸くしてすやすやと寝息を立てていた。


ランプキンはキャミーシャを両手で持つと、夜空をちらりと見てから静かに言う。


「今日はもう終わったんだ。キャミーシャが寝てしまうのも当然だね」


「ランプキン、あなた……」


「ん? あぁ、手紙にも書いてなかったよね」


ランプキンはキャミーシャの頭を人差し指で撫でる。


「君の父様のおかげもあって、こうして誰かに触れることができるようになったんだ。キャミーシャはこんなにも温かくて柔らかいんだね」


「ランプキン……」


「呪術自体を無くすことはできなかったけど……。でも、それ以上に嬉しいことが見つけられて嬉しいよ」


ランプキンはキャミーシャをぎゅっと抱きながら、ルチカの両手に乗せる。

ルチカはキャミーシャを抱えると、頬を薄く染めて目を逸らした。


「顔を赤くしてどうしたんだい? もし風邪を引いてしまったのなら、私と話していないで家に……」


「だ、大丈夫よ! それに、具合が悪くてもあなたとたくさん、たっくさん、おしゃべりしたいわ」


「それは……難しいかもね」


「え?」


「私の後ろを見てごらん」


ランプキンに言われるがままにルチカ見ると、そこには数名の魔女がいた。

胸元には警視であるバッジが付いており、こちらをじっと見つめている。


「……もう、行っちゃうの?」


「言っただろう? 私の目的地は魔法協会だと。こうして私と君が話しているのも、私がこの人たちに無理を言ったからなんだ」


「そんな……」


ルチカはゆっくり首を振ると、瞳に涙を浮かべた。


「まだ行かないでよ。あたし、あなたと話したいこと、ある、のに……。おともだち、なのに……」


「ルチカ……」


とうとうルチカは抑えきれなくなり、ぽろぽろと涙が頬を伝う。

その様子を見ていたランプキンは、寂しそうな表情でルチカの目線に合うよう屈んだ。


「大丈夫さ。もしかしたらまたこうして偶然会えるかもしれない」


「偶然がなかったら、もっと先よ……。大人になっているかもしれないのよ……? そんなの、いや」


「……」


「ごめんなさい、ランプキン。あたし、やっぱりめんどくさい子だわ……」


ルチカとて分かっているのだ。そんなわがままが通用されるほど、世間はルチカの思い通りにはできていないと。

それでも、せめてあと一日、いや、一時間でいいから、彼と触れ合っていたい。


「あたしね、退院したの。リハビリを頑張って、学園に通えるようになったの。試験も合格したのよ? それだけじゃない。いっぱいいっぱい、伝えたいことがあって……」


「ルチカ」


名前を呼ばれ、ルチカは鼻を啜りながらランプキンを見る。


すると、彼は微笑みながら、ルチカの頭を優しく撫でた。


「……え? ら、らんぷきん?」


「私がどれだけ言葉で慰めたところで、きっと君の心は晴れないだろう。かと言って悲しんでいる友だちをほおっておくわけにもいかない。だからこうしてみたんだが……どうかな?」


「……ぴぎゃっ!」


ルチカは耳まで真っ赤に染めてランプキンの手をどかすと、顔を両手で覆った。


(……って、なんで赤くなってるのよ! とーさまによく撫でてもらっているのにぃ……。風のせいだわ! 風のせいでこんなことに!)


「すまない、不快にさせてしまったようだね」


「そ、そんなことないわ! ただ、そのぅ……」


急に撫でられて恥ずかしかったとは言えず、ルチカは両手を顔から離して、撫でられた方の手を握った。


「ランプキン!」


「そ、そんなに強く言わなくても……。どうしたんだい?」


「ランプキン!」


「き、聞こえているから落ち着いて……」


「ランプキン……」


ルチカはぷるぷると声を震わせると、ぽろぽろと涙を地面へ落とした。


(だめよ、泣いてちゃ。見送る時くらい、笑わないと)


ルチカは服の袖で乱暴に鼻水と涙を拭いてから、ランプキンを見上げてニカッと笑った。


「ありがとう、あたしのお友だちになってくれて」


「こちらこそ、だよ」


「……またね、ランプキン」


「ルチカも、健康に気をつけてね」


「……うん!」


ルチカが頷くのを見てから、ランプキンは魔女のほうきに乗せられて夜空を飛ぶ。


「いってらっしゃい、ランプキン」


ルチカは手を振って、大切な友だちを見送る。


──いつか再開するその時を、夢見ながら。

どれだけ離れていても、ルチカとランプキンはいつまでも友だちであり続けるでしょう。ヤクードから貰う愛も、ルチカはもう疑うことはありません。

今回で完結してしまいますが、たまにでいいのでルチカのことを応援してあげてください。あの子、自分を褒めるのに慣れていませんから。


8月頃にラブコメの長編小説を投稿予定です。恋愛ものは初挑戦なので少し不安……でも頑張ります!

必ず完結した作品を投稿しますので安心してお待ちいただけると幸いです。


最後まで読んでくださりありがとうございます。もし良ければ下の星やブックマーク、感想などで評価をお願いします!

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