白い鳥
チャーリーは庭で遊んでいた。兄弟はいない。友達もいない。ひとりぼっちだった。それは彼にとって普通のことだった。だから、寂しくない。遊び相手が欲しいとも思わないのだ。
ある日、大きな白い鳥を見た。自由に空を飛び回る。チャーリーは目を輝かせて、
「連れて行って!」
と叫んだ。
白い鳥はチャーリーの事に気が付かなかった。楽しそうに空を飛んでいる。
「ねぇ! 連れて行って!」
何度も何度も声を出すが、白い鳥には届かずに日が暮れてしまう。いつの間にか白い鳥はいなくなっていた。また会いたい。チャーリーは空を眺めるのが日課になった。
鳩が笑った。そんな鳥いません。見たことありません。ワタシらは空を飛んでいるんです。大きな白い鳥がいたら覚えています。だから、いません。鳩たちは大笑いした。チャーリーは睨みつけた。怖い怖い。鳩たちは羽を使って逃げた。ケンカはしない主義なのだ。
日々が進んでいった。チャーリーは少しだけ背が伸びた。あの白い鳥は現れない。蝶々が諭すように言った。きっと白い雲と見間違えたのでしょう。ほら、雲は空を自由に動き回る。いいや鳥だった。チャーリーは言い張った。でも、雲は形を変えるの。鳥に見えることもあるわ。その可能性はあるなと思ったが、そんなことはない! チャーリーは否定した。大きな白い鳥はいる。そして連れて行ってもらうのだ。
ゆらゆらと揺れるロウソクを眺めている。それはそれは有意義な時間だった。誰にも邪魔されないように真夜中にやるのだ。風が中に入れろと言っても、無視をする。この時間は彼だけのもの。
ロウソクを使っているのがママにバレた。怒られた。なんでそんなことをするのだろうか。変わり者だと認知されたのは、その時からだった。毎日空を眺めているのは誰も知らなかった。友達がいないからかもしれない。ママはそう言って、近くに住む同じ歳くらいの子を紹介した。マークという男の子だ。
マークはチャーリーの事を気に入った。毎日毎日遊びにきた。チャーリーは嫌がった。他にも子供はいる。他をあたってくれと冷たくするのに、マークは気にしない。今日は川で遊ぼう。次の日は山に行く。色々なことを提案してくれた。チャーリーは空を眺めているのが好きだった。
「ボクはキミとは遊ばない」
チャーリーの冷たい言葉を何度も何度もマークは聞いたが、嫌いにはならなかった。諦めもしなかった。
空ばかり眺めるチャーリーにマークは言った。
「なぜ、いつも空を見ているの?」
「白い鳥を探しているんだ」
「そんなのいるの?」
「いるさ、この目で見たんだ」
「そんなんだ」
「信じるの?」
「嘘のなの?」
「違うけど」
チャーリーはバカにされると思っていたので、驚いた。その日からマークのことが好きになる。友達ができた。
川にも山にも遊びに行った。明日は何して遊ぼうか。夜中にロウソクを眺めようと思わなくなった。
マークを待っていると、鳩が近づいてきた。白い鳥は見つかりましたか? チャーリーは鳩の声が聞こえなくなっていた。エサはやらないよ。鳩は目を丸くして、飛んでいった。
マークのお姉さんが誕生日なので、花を摘んでいると、蝶々が側に来た。白い鳥は見つかったの? 最近、チャーリーが空を見ていないのが気になったようだった。うわ! マークが驚く、どうやら蝶々が嫌いらしい。チャーリーは蝶々を手で払った。どうして? ワタシよワタシ。蝶々が訴えるが、チャーリーには聞こえない。
「マーク、明日は何をする?」
「白い鳥を探すかい?」
「なんで?」
「忘れてしまったのかい?」
「いいや、覚えているよ」
「じゃ、どうして?」
「連れて行ってもらう必要がなくなったからさ」
青空が微笑んだ。
ありがとうございました!