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なし

第一章


1

雨はもう丸一日降っていた。

ぽつぽつと、四月の発火雨が盛んでないで、ただ柔らかく静かに花と草を叩き起こしてみるけれど、深い霧に包まれた蒼白い空を窓越しに見れば、教室に座る誰しもさらに眠りそうになると分かっている。

あの「今」という時に、何か虫が知らせたような私はやっと放課後が来て、天気のことを悩みながらカバンに教科書をゆっくりとしまうついでに、Eとの家帰りを待っている。強いていえば、その良くない予感はたぶん、最後の授業にEがずっといないので気取ることでしょう。

「失礼しました」

女の子の声が聞こえたようだ。少し大きくなった雨音から彼女の声が透けて、Eのことがすぐに分かる。その着後は一つ一つの靴音がとぼとぼと近づいてきて、教室のドアがぎいぎいと軋んで開かれた。うっとうしく染められる教室は暗くて、うつむく彼女の顔色も見えないで、ただしくしくの声がするしかないのだ。

考えの時間もなくて、教科書を持ったままの私は真っ直ぐに走って彼女の前に立っている。

「なに…」

まだ流れ始めたばかりの自分の声を切って、

「Fちゃん、し、死んだ」

おろおろの一言に、手に握られた本がするっと滑り、ぱっと地に落ちた。それを気づかないように私は何も言えなかった。もう何も言えなかったかもしれない。頬に温かく溶けられそうになって、これは一体、何の話ですか、分からなくなった気がする。

「え~?」

寸時の沈黙を破る言葉はこれだけで、次のはまだ出せないうちに、

「Fちゃんが意外で死んだって」

彼女は両手で私を抱いて、頭を懐に埋め込んで、その後何も言えなくて、ひたすらさめざめと涙をするがままの姿だ。

「Fちゃん、意外で、死んだ?何で?どうして?」

答えない彼女の瞳に、何か記憶を呼ぶみたいな物がある。その理由はこの時の私にまだ分からなかった。ただ、こんなことに生理の上でいやな感じがするだけなのだ。

彼女を見つめて、私はようやく目の前でめくるページに書いた事件が明るくなってきて、なのに頬に冷めた跡が重々に熱くなって、止まらなくて、抑えなくていた。

数年が過ぎたように現実に戻るのは、雨音がほとんど聞こえなかった。だけど晴れの日は全然見えない。だんだん頭を冷やすことになってきて、ちょっぴり肩を震えそうな私と彼女が、もちろんお互いの体を抱いてぴったり寄り添って壁にもたれて、大事な友達を失う痛みはまだ散らずにいる。

「それは、本当なの?」

「うん」

「先生に、言われた、の?」

鼻がぐすぐすする私はこう尋ねる。

「うん」

彼女は頭を上げて、しばらく黙っていて、軽くうなずいた。そして、

「さっき職員室に、先生から行方不明や事故なんて…」

「いったいどういうことなの」

なんとかささいなことを聞いたら、続けるはず。

「わたし、授業での問題を、先生に出して、でもその途中で電話が鳴って、Fちゃんの両親から来るらしくて、先生は出ると、そういうことを、叫んで」

「そんな…」

「どうするの、みくらちゃん、私、Fちゃんいなくなったら、私」

不安そうな口調で聞いた後で、また泣きたそうな彼女はもう一度頭を懐に埋める。

「うんん、そうね、えっと…うん、ほら」

口に出すのは何がいいのか、思うに正直自分でも解ってないで、

「Fちゃんの家にいきましょう」

これほどのせりふしかないのだ。

「そう…よね」

彼女はこう言った。

目の前にある状況は知ってないけれど、もし二人で直接に進んだら何かを見つけることになるかもしれないのだと、私はそう思った。

もう一回彼女をしっかり抱きしめてから、片手で冷たい彼女の手を握って、私は落ちた本を拾って、おもむろなふりをして、重たい足取りで席へ向かって歩いた。

黙る二人はカバンにしまって、すぐ学校を出た。

午後の空は何も変わってないが、雨のち曇りが想像以上に濃くて、雨上がりの灰色の下で、帰り道はいつもより長く、長く、果もない長いのだ。


2

一度しか行かなかったFの家は、もっと遠いらしいだ。でもEがいれば大丈夫だ。

「ね、このままで行けばいいの」

「うん、まあ、行ったら分かるでしょう」

ちょっとはらはら彼女の言葉けれど、自分でもどこに行くはずのが言えなかった。

十数分の歩行するぐらいで、私たちは二階建てのマンションの前に着いた。

Eが呼び鈴を押して、二人の名前を話して、だけど中に反応がないだ。よく見ると、一階の裏の部屋に薄い光がみえて、すると、

「あの、Fの同級生のEとみくらです…」

もう一度試してから、ようやく物音がして、そして前のダイニングルームみたいなところに明かりがついた。

「どちらさまですか?」

はじめては男性の声だった。

「あの、私たちはFの同級生、Eとみくらです…」

「ほ…」

そして、しばらくだまって、ガチャっとドアが外へ向かって開いた。

「あなたたちは、Fくんのために来ましたか」

「はい、そう…なんです」

先生に答えを出しそうな声で私は言った。

「そうですか、ありがとうございます、じゃどうぞ中にお入りください」

もとの疑問が解決できないうえに、また新たな疑問が現れる。そういう現状に探し回る私たちは見合わせると、入るよりほかないと思った。

「お邪魔します」

小さくつぶやきそうな私たちは、靴を脱いで、あの中年男性が現れる。

「すみません、あの…」

「私はFくんの父です」

よく見すませば、その眉をひそめる顔に一抹の苦笑いがある。おやが大変そうですなと思った。

「私たちは、その…Fさん…えっと…娘さんのことを、偶然に耳にしますから」

「なるほど…じゃ、こちらへFくんにひとつの線香を上げてもいいですか?」

「はい!」

ためらわなく、私たちはこう答えた。Fのお父さんにつれて、ダイニングルームを通って、左へ曲がって、右側の2つ目の畳の間に入っている。正面を見つめて、そこに仏壇があって、Fちゃんの写真も見えた。

「はい、こちらへどうぞ」

Eは線香を上げて、私は彼女と一緒に、Fちゃんの遺影に手を合わせた。

ただ数秒間の祈りで、ここまでの心の幻想が壊れる。本当か嘘かと思いが揺らいで、今はFちゃんの笑顔で動かない写真に見つめて、このまま凝るから。

「こちらへいいですか」

お父さんの声を追って、私たちはダイニングルームに戻って、

「すみません、Fくんのお母さんは体が良くないで」

「いいえ…」

「あの…Fちゃんが本当に意外で死んでますか?」

これからこういう機会がないかもしれないと、そう思って声を出した。たぶん私はもともとそういうつもりで、

「あ…ええ…」

お父さんのまぶたがゆっくりと張り付いて、そしていきなり開いて、何か違う目つきがみえるようだ。

「実は交通事故だと知らせて、警察から調べるとすぐ後先ができた…だけどFくんのお母さんが信じられないで…」

お父さんがそういうことを話すと同時に、ひたいを手にすがって、すこし静かに、ため息を付いた。

「あの!」

疑問がつみかさなる私は、立ち上がり、そしてちょっと大きい声で自分の言いたいことをはじめて、

「この時にこう意見を表すのは悪いかもしれませんけど、本当はわたしたちもそういうことを信じられないで、もしFちゃんが確実に事故に巻き込まれてもそれはなにか気になることがあるでしょうか、そのことを明かすことができるなら事によると気づかない理由があるかもしれません…」

よくしゃべったな、わたし。気がつけば、来る道に考え込むことを全て言いだした。いくらでもここはFちゃんの家だとわかっていて、わかっているのに。

本当に思い出すなら、私とFの出会うのはEと組み合わせるバンドからだ。一年前に高一が上がる私は時間があるとなにかしようと思って、中学の頃での一人夢中になるギター弾き語りを続けたい一方で、寂しくなるのは仕方ないことでしょう。でもその時にEに見られて、一緒にやろうとそう届ける言葉に励ますちからを感じた。その後はベースのCとドラムのDも参加してくれて、今のバンドになったことはこうやって思いがけないかたちにできた。

バンドと言えば、ただ毎日の練習を繰り返しだけなんだ。変わるきっかけはまさにあの日で、Fと出会う日だ。

正直私は練習中にギターの世界に溺れる感覚が好きなことばかりで、この居場所みたいなところで、互いの頑張りがとうてい何も意味のないでしょう。でも、そう思う私に、彼女が一言を言ってくれた。これは自分の日々を選ぶじゃないですかと、最初は意味不明な会話だと見れば、次のは生涯忘れないだと思えることだ。

「ほら、人生にはいろんな時間があるでしょ、なのに僕たちはやるべきことに苦労をして、こういうの他人に及ぼされていない、全力で自分が好きなことをするって素敵じゃなか」

はじめてこんなながすぎる言葉と向かって、私にとってその真意が理解できないけれど、ただ、全力で自分が好きなことをするってことは、たしかに追いかけて夢みたいなもので、それは間違いないだ。

あの日から私たちは友達になった。ちなみに、バンドの名前もここで決めたんだ。「日々を選ぶ」という意味から、ひえらびと呼ばれる。

「すみません、ついにそう話して、ご迷惑おかけて…」

頭を下げる私はなにかすればいいとも解ってない。顔も熱くなって、たぶん赤らんだかもしれない。

「ええ…まあ、Fくんはあなたたちのような友達がいればよかったな、本当にありがとうございます」

「はい、私たちは大好きですから…えっと」

言いよどんだ私はいい言葉づかいを考えながら指を回して、今なら遠回りに話しても無理かもしれない、先にいったことについて、たぶん自分でも完全に信じられないで、しかしもし本心を伝えてきたら、一縷の望みでもいいなのか。

考えがたい、考えがたくても、なんとかしなければ、絶対に後悔するのだと、そう一途に思った。

「先のこと、私は本気でそう思っています。その…」

少し間をおいて、ひとつの深呼吸をする私は続いて、

「もしFちゃんのこともっと知っていたら、なにかいま見逃される事故と関わることも知っていて、ううん、ちゃんと調べてみれば、きっと…」

「うんん、あなたたちの心はよく理解できますけど…なんというかな、今の警察の調査結果に事故で、うちにも他の疑いが見つかりませんので」

「はい」

Eの低い声で、認めなくても認めるしかないことが聞こえるようだ。

「お父さん、ひとつのお願いでいいですか」

「ええ…」

「Fちゃんのスマホとパソコンを借りできませんか」

「え~?みくらちゃん、なにを」

Eの柔らかく緊張している声

「調べてからすぐに返しますから、お願いします!」

もう一度頭を下げる私には、本当はお父さんの目を伏せそうな感じがして、ちらっと見ると、腕を組むお父さんがなにを考えて、無言のままで、

「なにをしたいですか?」

ため息をして、お父さんがそう問いかけた。

「Fちゃんのスマホとパソコンを調べてみて、事故の当時にFちゃんがなにをしているとか…」

話しかけていて、自分の声も低くなって、どうしてもちからが出せなくて、一気に話せばいいのに。

「そうですか…うんん」

妙に雰囲気が凝ってしまった。やっぱり一人の妄想みたいな考えでしょうか。

「わかりました。貸すのはいいけど、滅多なことをしちゃいけませんな」

「はい、ありがとうございます」

お父さんがどうおもうのかまだ分からなかった、でも、なんだか意外と次の目的地を手探りでいけるかもしれない。

その後はお父さんのおかげて、Fちゃんの部屋に、静寂感が包む空気に、私たちは心の中に祈りを込めて入って、Fちゃんの形見のスマホとパソコンを手に入れて、今思い出したのは、重すぎる感じとかちかちだ。最後に感謝するばかりのは私一人だけで、薄い感情で礼を言うEがとなりにいた。

「なにをしたいの、みくらちゃん」

さきの緊張感からいまだに離れないEは、ちょっと不満げな口調で言った。

「いま見逃される事故と関わることなんて…どういう意味」

「うんん…」

何を返したらいいの、そのいきなり激しい鼓動の原因がもちろんその解かないFちゃんの死ぬことだけど。

「Fちゃんは事故の前に何をしていて、何を思っていて、そんなことを知りたくて、それだけで」

「分かんない、それを知ったらメリットあるの?」

「きっとあるよ、んな、いつもFちゃんがそういうだろ」

「そう」

それから私たちの間に一言もなくて別れるまで。

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