先輩の、隣はいつも僕だった……いや『これから』も
小規模な小中学校が閉鎖されていく、昨今。
――とある島にひっそりとある、小中学校もその現実にさらされていた。
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三学期を迎えている、ある日。
「……はあ?今年度でこの学校が閉校!?」
俺、こと志川ともびは職員室で声を荒らげる。
「仕方ないんだ。今の在校生は中学生の捺灯と、ともびしか居ないのは分かっているだろう?」
担任である、篠葉先生が言う。
この小中学校は、校舎一体型の小さな学校だ。
……確かに、先生の言う通りなのだが。
「……てかこの事実、捺灯センパイは知ってるんかよ」
白神捺灯、1つの先輩だ。
今、島外の高校へ試験を受けに行っている。
「一応話した。『仕方がないですねー』って言っていたぞ」
そう先生は返す。
「……クッ、どうも納得いかねえ」
俺と捺灯センパイは、同じ校舎で学んだ『友達』であり、『仲間』。
学年が違えど、仲は良かった。
「お前も、この島に子どもが居ないのは承知だろ?本当に仕方の無い事なんだ……どうか、分かってくれ」
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その日の夕方、捺灯センパイが島に戻ってきた。
「あれ、ともび?あんたが港でボーッとしてるの、珍しいじゃね」
定期便の船から降りたセンパイが、俺にそう言う。
「……今日、篠葉先生から閉校の話を聞いた。それで、その……」
「あーぁ、あの事言ったのねぇ。その話、今年度が始まってから決まった言うんに、何で今になってともびに言うんかねぇ」
「……は?今年度が始まってから?」
思いがけない言葉に、俺は困惑する。
「ともびが色々言うから、迷ってたんやな……せんせーも」
「そそ、そう言うことじゃ、じゃねーよ!」
俺の困惑ぶりに、捺灯センパイは落ち着くようにと肩を叩く。
「せんせーが言ったと思うけど、島の子はじぶんとアンタしか居んのは承知やろ?一人で学んだって、寂しィもんじゃ。……そうじゃろ」
改めてセンパイに言われて、そう思う。
センパイと共に学んできた事が、俺にとっては励みだった。
……センパイも、そうだと思って『仕方がない』と割り切ったのかな。
「……でな?ひとつ、提案なんだけどサ」
▫▫▫
俺は家へ帰った。
「あら、お帰り」
母さんが声をかける。
(父さんは漁業の船を出していて、家には居ない)
「あのな、母さん。学校の事なんじゃけど」
閉校の話を、一通り言った。
「ああ、それは仕方がない事やんね。詳しい話はもう少ししたら、篠葉先生から話すと思うんやけど」
「……あんな、その……」
「なぁに、ともび」
「さっきな、島外の高校へ受験しに行ったセンパイから話があってな。よかったら、一緒に島外で住まんかっちゅう事を言っとった」
センパイの親戚が経営している、小さなアパートが一部屋空いていると言うことで、高校卒業まで無償で貸し出しするとの話をしていたとの事。
島の学校事情も話していて、俺も良かったら『ルームメート』的な感じで住まわせても良いとも話しているらしい。
「……そんなこと、良いのかしらねぇ」
母さんが言った。
「俺んちの魚を毎年貰っているから、そのお返しがしたいらしいんだ」
母さんは少し悩んだ末、父に連絡を取る。
『……やりたいように、しなさい。ともびが生きていれば、父ちゃんはそれで良いさ』
それが父の答えだった。
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そして、新学期。
「ともびー?忘れもん無いかい?」
捺灯センパイの声が、玄関前から聞こえる。
「だ、だだ、だーいじょーぶー」
そう言いながら、かばんを持って玄関へ向かう。
「ホント、大丈夫かえ」
センパイが、笑いながら言う。
「大丈夫、だ!」
靴を履き替えて、俺はそう返す。
「ほな、行くよォ」
俺とセンパイは、部屋を出る。
外は、満開の桜が見える。
―――二人の新たなる、生活の始まり。
読んで頂き、ありがとうございました。