表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

着任したら、住むところがとんでもなかった件

注意。

賢明な読者諸君。当時と今のレートは全然違うので、タイに甘い希望を抱かないで下さい。

 アユタヤに到着し、郊外にある工場へ着く。


 タイの工場って一昔二昔前に日本にもあった汚い食品工場をイメージするかも(失礼!)だが、数年前に日本の衛生基準に併せて新築したため、非常に近代的で清潔だった。むしろ当時F県F市内にあった系列会社の食品工場の方が汚く、臭く、あまりお目にかかりたくない黒系の昆虫類が駆けずり回っていたのだ。

 その工場敷地内にあるタイ現地法人の事務所へ行く、僕の職場だ。


「おー! 君が尾島君だね! 東京本社から話は聞いてるよ!」


 社長の上田が握手を求めてきた。その手を握り返すと


「ところで、おめぇの東京本社時代の直近上長って亀山だよな?」


と訊いてきた。そうですがどうかしました、と応えると


「あいつとは同期なんだが……、やっぱアホなのは変わらんのか?」


と言う。

 上田が言うには、上司には媚びへつらい部下を顎でこき使う。自身で何の判断も出来ず上から伝わったことをそのまま伝えるだけ。ゴルフは下手なくせにクラブは高級品。社長が変われば派閥も替える変節漢などなど。


「もう所属が離れて元上司ですが、答えづらい質問ですね」


「最新パソコンを渡さないと不貞腐れたりとかはあっただろ?」


「それはありましたね。あとパソコンを叩いて何度壊したか」


「安定のアホ亀だな。尾島くんは何度そのパソコン直した?」


「十回以上はもう数えてませんよ」


「ははは、苦労したんだな。それならここに来たなら安心して羽伸ばせ。ここはゆるいからな」


と、上田が言うとあくびをひとつして、


「ここの勤務形態は8時半から9時間拘束1時間休憩、時間外労働は原則無し、ワイシャツネクタイ着用、賃金などはこの就業規則読んでくれや。明日、時間までに来いよ」


と言うと、じゃあ帰るわ、そう言って出ていってしまった。

 え? まだ昼前の平日なのに上田は帰っちゃうの?

 ジャスさんに訊くと、秘書じゃないのでわかりませんと応えてた。


「ところで僕の住む所や同僚とかデスクとかは?」


と訊いたら、住むところはこちらですよ言われた。



 ジャスさんのクルマに乗ると、さらに郊外へ行く。


「ところで尾島さん、メイドは何人居るか?」


とジャスさんが訊いてくる。ん? メイドとな?


「尾島さん、メイドって知ってるか?」


 いやいや存在は知ってるが、要るか要らんかなんて質問を想定してないので答えられないだけだ。



「尾島さん、このタイで尾島さんは大金持ちの日本人。しかも住む所も田舎で広い。だからメイドを雇うだよ。このメイドもお金を貯めて学校行くため、日本語を教えて欲しいため、妻になりたい、メイドになりたい子、多いよ」


 なるほど……。妻になりたいはびっくりしたけど、そういう考えがあるんですね。


「で、どれだけ広いんでしょ? あと家賃も」


「家は……、あれ、あれよ! 家賃は一万円」


 あれ? ジャスが指差した物件はどう見ても一戸建てだが、あの建物の一室なんだろうか。

 その一戸建てにジャスはクルマをつけると、重厚な金属門扉を開け、厳重な玄関を開けた。


「あのジャスさん、窓がすべて鉄格子入ってません?」


「え? こんな大きな家だもん、普通でしょ?」


「で、この家のどの部屋が僕の……?」


「え? ここが尾島さんが住むタイのおうち」



 タイに来たら豪邸に住むことになりました。


 まるで厨房のような台所。

 毎週末に沢口靖子さんがリッツパーティを催してそうなリビング。

 リゾートホテルの客室のような寝室が4つ。

 ジャグジーのついたお風呂、それにプール付き。

 使用人専用の部屋が2つ。



「これで家賃一万円っておかしくないですか!?」


「でしょー? これがアジア通貨危機なのよー。その頃に上田社長が買い叩いた物件の1つねー。で、メイド何人要る?」


「いやぁ……要らんくね?」


「ま、欲しくなったらまた教えてね。くれぐれも飛び込みの野良メイドは絶対駄目よ」


「野良メイド?」



 ジャスが言うにはこういう豪邸に住んでると自分を売り込んでくる『野良メイド』が居るらしい。提示する賃金も安いが、そういうのを雇ったら最後どんな強盗を手引するか判ったもんじゃない、と。


「強盗にとってそのメイドも捨て駒ね、家主共々撃ち殺して家財盗んで逃げればいいのよ」


「……ねぇジャスさん、この国、怖くね?」


「日本がどれだけ平和ボケなのか判った?」


 厳重な鉄格子が入った窓、重厚な金属門扉に玄関扉。

 僕の実家なんて紙装甲レベルの守備力だ。

 さしずめV号戦車パンターとチハたんぐらいの守備力差があろう、知らんけど。


 え? なぜVI号戦車ティーガーじゃないのかって? 知らんから。



 そんな鉄壁な豪邸だったが、泥棒でなく()()が一回入ったのだ。それはまた別の話だが。



「拳銃いるか? 手に入れるのは難しくないぞ」


「いらんよ! 怖ぇよ!」



 なお、ジャスさん曰く『許可証を買えば良い』らしい。

 その言葉を何度噛み砕いても『合法』って言葉が出てこない。

 


「じゃあ今日はこれでおやすみ、これ鍵、電気とか大丈夫、戸締まりしないとすぐに強盗はいるよ」


 そう言われてジャスは帰っていった。



 あの、明日どうやって出社すれば良いんですかジャスさん。

 あと夕飯は?



 結局、アユタヤでも放り投げられる。

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。


僕はタイでの犯罪を助長する気がありません。勝手に参考にして逮捕とかされないでくださいね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ