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タイ王国へ!

 当時のタイについて説明をするなら『物価が安い』に尽きた。

 世紀末にアジアにとって世紀末な事象、『アジア通貨危機』が発生した、軒並み現地通貨安を招いたのである。タイを例にとれば為替が通貨危機前は1バーツが5円近かったのだが僕が赴任した時は半値以下の2円台前半だった。しかもデフレ物価安まで発生したために日本人はタイでは『金持ち』になったのだ。そのためタイへ女を買いに行く……なんて話が湧いて出てくるのだ。

 もちろんタイばかりでなく他の東南アジアや東アジア各国も同じようなもんでサプライチェーン構築で日本はいろいろと進出するきっかけとなる。なお通貨危機前はタイは農業国だったが、危機後は工業国に変化している。そういえば『タイカブ』ってのもあったなぁ、タイ生産のカブだ。旧型のC50型ともパーツ互換性があるので今も日本では人気がある。



 で、月曜日。部長が成田まで見送りに来てくれた。

「ほい、これパスポートと航空券な。向こうの空港着いたらジャスさんって人がいるから、あとはその人に付いていけばいいから」

と言われた。なお性別や年恰好など一切の情報が無く、ジャスさんを探せという。なかなか乱暴な話である。あと大阪からあと二人が合流するそうだ。それは心強い。

「じゃ、生きて帰って来いよ」

 そう言われ、僕は機上の人となる。なんとまぁ嫌な死亡フラグ。


 成田から韓国の仁川空港でトランジット(経由)してタイへ飛ぶ。韓国でトランジットする理由はチケット代節約だ。(今はどうか知らんが)当時成田から直接タイへ行くよりトランジットした方が非常に安く上がったそうだ。(今はどうか知らんが)日本の空港使用料が非常に高いって事で、当時は仁川や天津など東アジアでハブ空港を利用するという常識があった。さすが新婚旅行でハワイ行くのにトランジットしてケチ上げしてたら成田離婚案件だったかもしれんが。


 このトランジット、非常に安く上がるのだが仁川空港での待ち時間が4時間。何度でも読めるような文庫本を二冊持っていたので待ち時間は苦じゃない、なんだったら食べ物屋行けばそれなりに話の物種にもなるだろうし。そんな折、大阪本社からの二人と合流する。

「あ、どもー、後藤です」「安原ですー」

 年齢は四十代後半の二人、なお後藤と安原は同じ大阪本社に居るが顔はお互い知らないらしい。まぁ大阪本社だから仕方ないか……、と東京本社から派遣された僕は思う。

(注意・当時の尾島が居た某食品企業、東京本社と大阪本社は仲が悪い)



 この仁川空港、2001年3月に開港しているから非常に真新しかった。2002年には日韓ワールドカップが開催されるし金浦国際空港があったのだが空港機能の分散……だろうか? 僕は飛行機や電車など詳しい方じゃないのでよく分からない、まぁ新しかった。

 仁川空港に着いたときに思ったのが『キムチくさい』だった。よくヨーロッパの人が、もしくは長期滞在から帰国した日本人は日本の空港が味噌の匂いがするというが、それと同じだ。別に近所にキムチ屋さんがある訳でもないのに、だ。それは他の後藤や安原も同じことを言っていたが。

 なお、上野のすみっこにある小さなコリアンタウンのキムチ、超おいしかった。


 四時間待ち、ドーンムアン空港へ向けての飛行機に乗る。なお、タイ国際航空だった……かな? アテンダントさんが綺麗だった。それに機内食がおいしかった。ついでにうるさかった。

「なぁなぁ、安原さん、どの女の子良いと思います?」

「やっぱり僕はぴちぴちの*△歳の子ですよ」

「それヤバいですよ、犯罪じゃないですが、げへへへへ」

と、大阪から来た二人の狒々爺がエロうるさい。なんだよ*△歳って! 下手したらおめぇの娘程の年齢じゃねぇのか? と思った次第だ。

「で、尾島君はどんなのが? やっぱ年上? それとも年下?」

と、後藤は下卑た顔で訊いてきたのだ。身体中から本当に『寒イボ』が立った。空気が読める有能な社員を演じる僕は、敢えてのエロ河童のふりをした。

「わかる! 君ぐらいの年ならそんなこと言っちゃう! わかるわかる!」

となぜか解ってくれた。何を解ったのだろうか。

 そしてアテンダントさんの尻を触る、酒を飲んで泥酔する、といった『くそ日本人の狒々爺』ぶりをやってくれた。当時インターネットでよくいわれてた一言を送りたい。『逝ってよし』と。



 ドーンムアンに着く。ここでジャスさんを探さなければならない。でも空港ってとんでもなく広いのにどうやって探すべきか。今ならスマホなど使えばなんとかなるだろうが。そんな中狒々爺たちがやらかしてくれる。

「おー、ゴトー、アナタオマチシター!」

と、おっぱいの大きな姉さんに声を掛けられる。

「あなたがジャスさん?」

と後藤が訊き、ソーヨーと応える。

「おーい、ジャスさん見つかったぞー」

となったが、僕は疑問を感じた。

『あれ? ジャスさんは三人来るって解ってるのに、なぜ手書きの看板に後藤さんだけの名前が?』

「はーい、ヤスハラー、ココヨー」

と、今度はタイ人男性だ。

「君がジャスさん?」

と安原が訊くと、ソーヨーと応える。


僕はもっと疑問を感じた。

『ジャスさん何人居るの?』



 この男性と女性に連れていかれることとなる。タクシーに放り込まれて街へ。

 ここどこだ? である。まず(当時は)タイ語が読めないし喋れない聞き取れない。よく分からないが繁華街だ。しかし『怪しい・妖しい』という修飾語が付くが。


「後藤さん、これ本当に大丈夫ですか?」

と訊くが女性とスケベな店の話をしていて耳を傾けてくれず、安原も同様だ。

 こういう時に備えて、人事部から渡されたマニュアルを読むと

『身の危険を感じたら、まずは隙を見て逃げろ』

だった。これは二人を置き去りにしてでも逃げた方が良いだろう。


「アナタ、どんな子、スキ?」

と僕も訊かれるが、ノーと言うことに。そしたら彼らも手慣れているのかあれやこれや聞いてくる。ノーと言える日本人だったとしてもそれを手玉に取るなんて彼らにとっては赤子の手をひねるより楽だろうな。

「ごめん、トイレ行きたい」

 僕は本気で逃げることにした。男性ジャスさんは舌打ちをしてトイレの場所を教えたので、そこへ行くついでにトランクケースを持って逃げ出した。下手にタクシーを捕まえて目的地を言ってもボッタクリを食らうだろうから敢えて見える町中で一番大きなビルへ向かう。そのビルはたまたまホテルだったためにレセプションでチップ(千円札)を渡して『タクシープリーズ、ドーンムアンエアポート!』と言う。スタッフは「ワカリマシタ」と日本語で言うと、ホテルで待つことに。

 タクシーに乗ってドーンムアン空港へ戻る。まだバーツに両替をしてなかったので千円札を手渡し、サンキューと言って降りた。多分足りる金額だろうが足りなかったらごめんと心の中で叫んだ。なおタクシーの運転手から『アリガトー』と言われる。


 空港に戻ってから会社に国際電話をする。日本は深夜帯だが必ず繋がる安心クオリティのブラック企業だ、仲のいい先輩が出た。

『どしたー? 風俗でだまされたか?』

「いや、違うんです、実は……」

と説明すると先輩大爆笑。

『尾島、逃げて正解、大阪本社のポンコツどもなんか放っておけ』

だった。僕の選択は誤りではなかった、そう思おう。

『部長に電話して意見を仰ぐからしばらく空港待機しててくれ。2時間後電話してくれ』

と先輩が言うので、空港待機。夜の空港は雰囲気が怖い。

 2時間後に再度電話をすると、部長からの伝言は

『大阪本社のポンコツどもなんか放っておけ・そこで待機しとれ』

だと言われた。どれだけ大阪本社は嫌われてるんだろうか。



 ド深夜の空港、うつらうつらと寝てた時に「尾島さんですか?」と声を掛けられる。見たら日本語がペラペラのタイ人男性だった。

「お待ちしました尾島さん、あと二人は?」

と訊かれたので事情を話す。

「あの二人、騙されましたね、あはは」

とジャスは言う。


 トランクに自分のものって解るようタグに名前を書くと思うが、ローマ字で名前を書くと海外でだまされる種になるとジャスは言う。

「私たち、日本語をパッと見て書くこと出来ませんがアルファベットならすぐ覚えられます。ですからタグにはアルファベットで名前を書かない方が良いですよ。尾島さんは日本語で書いてあったから騙されなかったんですよ」

と。後藤と安原はひょっとしてタグにローマ字で名前を書いてあったのだろう、それを手書き看板に書いて名前を呼べば騙される、と。

「今夜のホテルへお連れします。あと、あの二人と合流するまでしばらくお待ちいただけますか?」

と言われ、バタバタな車に乗せられた。この車動くのか? と思ったがちゃんと走った。後部座席のドアはガムテープで止められてたが。



 ジャスさんから車の中でタイでの注意事項を言われる。

・安くても旨そうでも屋台の食事は決して摂らないこと、少し高くても清潔そうなレストランを利用すること

・ボトルが空いてる飲み物を決して口を付けないこと、栓がしてある飲み物を必ず飲むこと

・風俗店は風俗誌を見ること、客引きは絶対に信じないこと、性病注意

・必ずぼったくられるので注意

・タイ人は優しくない

・流しのタクシーは絶対に利用しないこと、チップを渡してホテルで配車を頼むこと

 →これは逃げる際に実践した


 この注意事項のおかげで僕はタイでは()()()()ぼったくられなかったのだ。まぁぼったくられるのは前提だ、問題はおケツの毛まで抜かれない程度だ。

「ですから、タイ語は少しは覚えてください。タイ人は優しくありませんから」



 なお、タイは『微笑みの国』と呼ばれるのはご存じだろうか。日本人みたいにニコッと微笑むような国だ。しかし、タイ人の気質は基本的に『面倒事には係わらない』のだ。だから困っていても助けてはくれない、むしろボッタクリが寄ってくる、そうジャスは言った。


 なお、ヨーロッパ人は何を言ってもニコニコしているタイ人を見て 「タイ人は微笑みが多い(ニヤニヤしている)」という印象を持ったそうで、彼らはよく微笑む=ニヤニヤする=「微笑みの国」と呼ぶ……これが由来らしい。



作者・註

・皆様に覚えてほしいのは『タイ人全員がぼったくってくる』って意味ではありません。人間ですから良い人もいればそうでない人もいるって事です。


・現在のバーツ円レートはアジア通貨危機直前まで上がってます、円安ドル高だもんね。しかも当時は物価安だったため、今と比較しちゃだめですよ。


・で、どこへ拉致されたのか……? たぶんファイ・クァンでした。なお、そこらへんはタイ式しゃぶしゃぶのお店もあるのよ?

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。


不定期更新なので注意してね。

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