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転勤準備!

さてと、海外赴任となるといろいろと手続きがあるらしい。



「優紀くん、これ持って凸凹病院いってきてー」


と、部長に言われて封筒持って行くと健康診断だった。六か月以上海外派遣される前後には健康診断が必要だったりする。(安衛則・45条の2)

なお普段受けてる健康診断と変わりはない……気がする。

というか今なら『六か月以上確定ですか!』と思ったんだが、入社してチョイチョイの人間が労働安全衛生法施行規則なんか知るはずがない。それどころか海外赴任期間を聞かされていないのに健康診断を受けた訳だ。この時点で僕は本当にどれぐらいの期間飛ばされるか知らされていない。


そして予防接種。


「先生、これ何のワクチンなんですか?」

「狂犬病」


え? 僕、ワンコになったんでしょうか?

狂犬病は発病すれば致死率ほぼ100%、日本じゃワンコに毎年ワクチン接種しますが海外では人間に打つみたいです。他にもなんか打った。今は覚えてない。なお注射は嫌いじゃないが、犬になった気分だけは忘れない。



今みたいにネットで情報が得られる時代ではないので、『地球の歩き方』と旅行雑誌を買う。いや、ネットで情報を集めることも可能かもしれないが、当時はホームページを拵えて個人が発信するような世界だった。有象無象が跋扈する時代、嘘を嘘と見抜けない人は(略)な時代だ。あまり宛てにしなかった。あの当時ウィキペディアがあったかは知らないがよく『ウィキペディアは正しいこと書かれてない』なんて言われてた時代もあったんだから。



人事部からいろんな書類にサインと押印をさせられる。

僕が勤めていた会社での『裏の就業規則』では、『部下は書類に疑問を持たずに押印しろ』だった。恐ろしい会社である。そのおかげで僕の知らないところで外貨建て預金を組まされていたのだ。ほんと何という会社だろうか。現在も存在する、東証一部上場企業である。




 で、僕がその『ヤバい食品会社』に入社したのも、偶然の連続だった。

 エントリーシートの締切数日前にとりあえず送ったらあれやこれやと試験受けて面接受けたら内定したのだ。当時は就職氷河期なんて言葉が出始めた頃、よくもまぁ受かったなぁと未だに思う。

他にも受かったのだが、食品会社なら倒産することもなかろうと思って入社した、という。あの頃は嘘つきだよなあ、志望動機なんて、何を言ったか今じゃ全く覚えてない、たぶん当時もだが。


 なお本当は自衛隊を希望していた。幹部候補一次試験(筆記)は受かったが身体検査では視力で刎ねられるというポンコツがあり、食品会社へ行ったのだ。今も昔も物事を深く考えずに生きてる。


 で、入社してすぐに言われたのが『パスポートの取得』だ。

 あの頃言われたのが『海外出張もあるんで、取っておいてください。あと、会社が預かります』だ。やはりあの頃の僕は何の疑問も持たなかった。会社預かりになってる理由が『海外出張時にパスポート忘れたバカがいたため』と聞かされたと思うのだが、今となったらなんてトンデモ会社だよと思うだろう。若さゆえの過ちと言うべきか。




「で、部長。向こうでの住処ってどうなってます」

と訊いたところ、部長は

「ん? 知らん」

の一言だった。え? そんないい加減な。

「その件って誰に訊いたらよろしいでしょ?」

と尋ねたところ

「ん? 知らん」

である。なんと恐ろしい会社だろうか。他に海外赴任経験者の先輩たちに訊いても「知らん」である。ひょっとして僕はハブられてるのかしら? 本気でそう思った。なお本当に誰も知らなかったらしい。まさか住むところは自分で探せ、なんて言わないよな、言わないよね? 若かった僕は『気にしない』という選択をした。



 あきちゃんにメールを打つ。


   優:タイはどこで住むかわからんらしい

   あ:じゃ、行かん。


 同行者、脱落。なお、あきちゃんはパスポートを当時持ってなかった。



 今週末までに仕事の引継ぎをする。と言っても入社して三年未満の若造だ、引継ぐも何も先輩らの指示を基に動いてるんだからそんなもんは不要だった。せいぜい得意先との交渉具合をメモに渡す程度だった。あと、得意先に転勤の報告をするぐらいだった。


「お? 尾島ちゃん転勤だって?」

とラーメン屋の大将に言われた。得意先であり、よくご馳走してもらってた。

「えぇ、今週末からタイなんです」

と応えると、「女を買い放題! もう毎晩とっかえひっかえのお●こ祭りじゃないか」と言われた。

 やはりそういう表現になるんだな、というかすごく下品だと思った。なお僕は下ネタがあまり好きでない。

「タイのお土産待ってるぞ! 性病だけ輸入すんなよ」

とも言われた。本当にひどい話だが、実例があるので言い返す手段を持ち合わせてなかった。



 送迎会というか、壮行会も行われた。『飲ミニケーション』だ。今でこそ新型コロナの影響で死語となってるだろうが、あの当時では当たり前の光景だった。つぼ八だったと思う。

「で、尾島くんが来週月曜日にタイへ行きます」

と部長が言う。こういう時の上司は何故に乾杯の音頭が長いんだろう。僕は今も乾杯の音頭は十秒以内に抑えるよう心掛けてる、現在それを発揮する機会は本当に無いが。


 それよりも出発日が来週月曜日だったんだと初めて知った。『来週から』とは聞いてたがまさに出発日が来週だとは知らなかった。なお今はどうか知らないが海外赴任するときは航空券が安い平日だ。

 なおこの会社の異常なところは、全員ビールピッチャーで飲むのだ。人数分のピッチャーが並び、それをぐいぐい飲む。女性社員はかわいらしいカクテルや酎ハイを飲んでるんだが、男はビールピッチャー一択なのだ。他に飲むなんて邪教徒のような扱いを受けた。二次会では焼酎(鏡月)が出るようなお店に行く。


 一次会で本来なら解散なはずなのに、男どもは基本的に五次会まで付き合わされる。パターンとしては

・一次会 居酒屋

・二次会 キャバクラ

・三次会 ちょっとえっちなキャバクラor風俗(おっ●いパブ)

・四次会 クラブか居酒屋

・五次会 ラーメン屋

だ。今も昔も一次会で帰りたい人だけど、結局始発が動き出しても飲んでた。そしてそれが終わってから仕事へ行くのだ。今じゃよくもまぁ……と思ってしまう。まぁクルマで移動することは無いので問題は無いだろうが。なお飲み会が行われる場所は大概が新橋だった。



 土日で荷造りをする。持っていくもんなんてワイシャツスラックスとネクタイ、あとは現地調達だ。トランクケースに積み込み、あと必要そうなものを持っていく。僕はパソコンを持って行った。


 あと片付けなどが殆どできないあきちゃんを一人にしておいたら我が家が一撃でゴミ屋敷化するので、週に一度掃除と洗濯をしていただけるよう家政婦サービスと契約した。その家政婦さんがすごくいい人だったので、帰国してからも契約を続けてた。



 日曜の夕方、あきちゃんとご飯を食べる。

「明日から行ってくるし、何かあったらちゃんと連絡してね」

「んー」

「あと自分でちゃんとお片付けをしないとだめだよ」

「むー」

「ほかに、ぱんつは毎日替えなさいね」

「ゆーきはママか」

「お風呂は最低三日に一度は入りなさいね」

「がんばる」

と、彼女に言うようなセリフではないなと思いながら、赴任中の注意事項を言った。


「なんなら、ときどきあきちゃんのママに来てもらうよう言う?」

「絶対ダメ」

 それは絶対にダメだったらしく、何度もあきちゃんのママに海外赴任の話はしないでくれと懇願された。



 このダメ人間あきちゃん、大卒後は東京で一度は就職はしたのだ。その頃は連載も終わって暇をしていたからだったはず。しかし都会に合わず三か月程度で退社して家で漫画家生活というか引きこもり生活をしていた。僕の母からは「漫画ばっか描いてたら運動出来ないし病気になるよ」と言われてたが、ちゃんと年に二回の『祭典』、他にも即売会にと忙しく動き回るのだ。あと時々池袋に行ってたのも知ってる。腱鞘炎でペンを握れなくなってからはレイヤーさんになってた。衣装は僕が何度もユザワヤを往復してた。二人してオタクだ、そこらへんは問題ない。


 今じゃ二人ともおっさん・おばさんになったのでオタ活はしてないが。

(僕はしても良いと思ってるんですけどね)


「じゃ、外に飲みに行くかー」


 実は僕より酒に強いあきちゃんと二人でひっそり、新越谷駅近くの焼鳥屋で送迎会をした。

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もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。


不定期掲載です。更新は気長にお待ちくださいな。

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