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ディヴァイン・ウィル  作者: 氷華青
序章「《神》の意志」
3/37

唯一の剣士

DW info 「ナビゲーター」


プレイヤーそれぞれにナビゲーターというAIがつく。ナビゲーターはチュートリアルの進行やQ&Aなど、プレイヤーの手助けを担う。

「このゲームをプレイ中は、リアルの肉体も相応のダメージを受け、下手をすれば死にます」


 聞き間違いでなければ、すぐに「ディアフィ」と唱えたいのだが。そんなこと知らないぞ? 少なくともオンラインショップで購入する時に読んだ商品説明文にはそんな記述一切なかった。だってそれなら、こんなゲーム買ってない。


「あ、ここで『ディアフィ』は意味がないですよ? あれはベースから出るときの合言葉ですから」


 何故かわからないが俺の思考を読まれてる。


「あ、はい。読めますよ。だってあなたの脳とベースが繋がっているのですから。こちらには全て筒抜けです」


 絵に描いたようなドヤ顔。まぁそれもそうか。それならさっきの「率直に可愛い」も思いっきり伝わってたのかよ。


「えぇ、まぁ……嬉しいなぁと思ってました」


 顔を赤らめるユキ。可愛――おっと、相手はプログラムだぞ?


「この仕様変えられないの?」


 変えられないなら無心で話さなきゃいけないんだが。


「変えられますよ。いえ、でも面白いので変えないでいただきたいです」


 仕様操作をしたいなと思うと、突然眼前にプラズマタッチパネルが現れる。


「えーっと、どれどれ……」


 その出現に少し驚きつつも、パネルが表示する中に「思考伝達」と書かれた行を見つける。その横の「ON」をタップし、「OFF」に変わったのを見届ける。


「一瞬で私の楽しみを奪いますね?!」


 ツッコミもプログラムの内か。本当にリアリティがあるな。


 さて、ルール説明を続けて欲しいんだけど。


「…………」


「よし、やっぱり思考は読めないね」


 ルール説明をして欲しいと心の中で強く願ってもしてくれないのは、思考が読めないのか、そもそも説明をしたくないのか。


「何を考えてたんですか?! すごく気になります……!」


 前者で良かったけど、とにかくこの子、押しが強い。


「ルール説明を続けて欲しいなって思っただけだよ」


「えー、本当ですか〜?」


 淡い水色に疑いの色が混じる。


「本当だから。さ、続けて」


「怪しいですが……アーレッジさんが続けて欲しいのならば続けましょう」


 ユキは右手の人差し指を立てる。まるで説教をする大人のようだ。


「このゲーム、『ディヴァイン・ウィル』は、『神の意志』という意味の通り、《神》というプログラムによってほぼ全てが動かされています。ですから、あなたのアバターも、リアルとは違ったものになっていると思われます」


 「ご確認ください」と、ユキはドア付近の鏡を指さす。あんなところに鏡なんてあったんだ。


 鏡の前に立つと、リアルとの明らかな違いに気づく。


「左眼が……赤い……」


 身体的なものではたった一つの、しかし大きな違いだった。


 あとは服装だ。ベースに入る前は中学校の制服――上は黒の学ランで下は黒いスラックス――だったが、今は白いパーカーに黒いストレートパンツを着ている。そして白いスニーカーを履いている。


「『神の意志』とは言えど、このゲームの《神》はあまりリアルとの変化をもたらしません。もしリアルの知人とヴァーチャルで会えば、その人だと認識することは可能です」


 なるほど。しかし同級生たちは現在、持ち始めてあまり時間の経たないスマートフォンに夢中だし、俺の知る人はこのゲームのプレイヤーの中にはいなさそうだ。


「さて、そして『ゲームマスター』でしたね。このゲームのマスターは、プログラム《神》を作った方ということになります」


 まぁそうだろうな。自分の中で組み立てた予測が当たる時の快感を得る。それが顔に出ていたのか、ユキは俺の予想もつかないような情報を付け加えようとする。


「加えて、マスターは《神》を唯一操作することができます。故に私の服が制服なんですよね。彼はガールズファッションに疎いので、女の子の服は制服くらいしか知らないんだそうです。あ、なんの利益にもならないようなことを付け加えてしまいましたね」


 ユキは笑う。なんだ、ゲームマスターも人間味があるんだな。

 そう思いつつ、他にも訊きたいことがあったと思い出す。


「ディアフィがダメなら、どうすればこのゲームから出られるんだ? もしかして入ったら最後、殺されるまで出られないとかじゃないだろうな?」


 そういうのをたくさんライトノベルで読んだことがある。もしそんなことが本当にあれば、どうしようもない害悪ゲームだ。


 俺の質問に、ユキは何故か恥じらう。そして、こう呟く。


「その……ナビゲーター、つまりアーレッジさんの場合は私を、だ、抱きしめればリアルに帰れます……!」


「嘘って言ってくれ」


 やっぱりどうしようもない害悪ゲームじゃないか。プログラムとはいえ、女の子に抱きつくなんて真似は俺にはできない。


「いいえ、本当です! ……マスターの意向なので」


 そうだな。ナビゲータープログラムの少女に制服を着せるくらいのマスターならログアウトへのトリガーをハグにすることくらいはやりそうだ。


 本当なら、俺のやることは一つだ。


 ユキに歩み寄る。こんなことしたことないけれど、勇気を出すしかない。

 冷や汗が首筋を流れる。両手を広げる。……よし、行くぞ。


「あ、今の私はホログラムですので抱きつけませんよ」


「何だよ、今すっげぇ覚悟決めたのに!」


 ユキはクスクスと笑う。試しに手を伸ばすと、手はユキの体を貫通する。してやられてしまったけど、その笑顔を見るとそんなことはどうでもよくなってくる。


「チュートリアルが終わればログアウトもできるようになりますので、お楽しみに」


 ウィンクをするユキ。このユキがホログラム映像だなんて。完全に目の前にいるように見えるのに。


「さて。それではまず、アーレッジさんのスキルを確認しましょう」


「スキルがあるのか」


 このゲームについてまだ無知であることを改めて自覚する。


「はい。このゲームでのスキルというのは、リアルならばでき得ないようなアクションを、「ヒュグロン」――つまりエネルギーを使うことで行うものです」


「ヒュグロンって詳しくはどんなものなんだ?」


 エネルギーを使うということは、プレイ中にエネルギー切れを起こすことも有り得るということだ。それについてちゃんと知らないのはまずい。


「質問の切り口がいいですね。それでは試しに、あなたの手を少し切ってみます。あ、もちろんあとで治療しますのでご心配なく」


 手とヒュグロンに何の関係があるんだろう。とりあえずここで死ぬことはないと信じてユキに左手を差し出す。


 ユキは何も無い空間に、リアルにもあるような銀色のナイフを創り出す。そしてそれを俺の左手の甲に優しく滑らせる。正確には滑らせようとしたところで俺はそっぽを向いたのだが。

 一瞬後、もちろん痛みを感じ、顔をしかめてしまう。


「少しだけ、我慢してください。あ、ほら、見てください。金色の液体が流れているでしょう?」


 自分の体が傷つけられているところなどあまり見たくないが、恐る恐る左手を視界に入れる。


 本当に金色の液体が流れている。リアルなら、血液が流れ出しているはず。


「これが、ヒュグロン……?」


 ユキはマジックのようにナイフを消し、先程ナイフを出した時と同じように絆創膏を取り出す。


「はい、そうです。リアルの血液が、ヴァーチャルではヒュグロンに置き換えられています。そして体内のヒュグロンが減少してしまうと、リアルの血液もそれに連動して減少し、血液減少量が致死量を超えればゲームオーバーになります。スキルを駆使し、相手プレイヤーをゲームオーバーにすれば勝ちです」


 絆創膏を俺の微かな傷に貼りながら、ユキは説明してくれる。


「ゲームオーバーになるとリアルでも死ぬの?」


「いえ、必ずしもそうではありません。ただ……ベースの特殊治療技術が血液の減少に追いつくか追いつかないかの問題なんです。特殊技術は、プレイヤーがあと数秒で死ぬというギリギリのタイミングで発動します。そのタイミングでさらに大量に出血されると……手遅れとなります」


 なるほど。「下手をすれば死ぬ」というのはそういうことか。


 ユキが俺の左手を少しだけ握る。温かな感覚が訪れ、貼ってあった絆創膏が突然消える。そして、確かにあったはずの傷も消えている。

 不思議に思って口が動く。


「え、どうやったの?」


「私も一介のAIプログラムですから、傷の治癒くらいはプログラムの内ですよ」


 ユキはにこりと笑う。たぶん現代にフローレンス・ナイチンゲールがいたとしたら彼女だろう。まあ、ヴァーチャルだが。


「ありがとう。ごめん、脱線しちゃったよね。スキルの説明の続きをお願いしてもいい?」


 ゆったりと首を横に振るユキ。まさか説明はここまでなのかと思いきや、そうではないようだった。


「いえいえ、ヒュグロンについてお話ししていなかった私の落ち度です。というのもですね……私は先にアーレッジさんのスキルを確認させていただいたのですが、それがとても珍しい構成でしたので気持ちがはやってしまいまして……」


 ユキはエメラルドグリーンのサラサラの髪をくしゃくしゃとするように後頭部を掻く。

 一つひとつの仕草が可愛らしい。何度も思うが、本当にリアルの人間のようだな。


「あはは。いいよ、そんなに焦らなくても。でも、珍しい構成っていうのが気になるな」


「そうなんです。まず、アーレッジさんのスキルを全てご紹介しますね。あ、こちらも《神》が選んだものです」


 また《神》か。やっぱりこのゲームのほぼ全てを動かすプログラムなだけはある。


 俺の感心など全く知らないユキは右手を握ってこちらに向け、その人差し指を立てる。


「まず一つ目。『ソード』。非常にオーソドックスなスキルです。剣を持って、ただ前進して切り込むだけです」


 さっきまでの話を聞いていると、このスキルはおそらく物理法則を無視しても前に切り込めるんだろう。「リアルならばでき得ない」――そう彼女は言ったのだから。


 そして彼女はさらに中指を立てる。


「そして二つ目。『ランス』。得物を突き出すスキルですね。がむしゃらに連発すれば当たりますし、ヒュグロンの消費量が少ないので初心者用です」


 初心者用か。俺がだんだん上達していった場合はどうすればいいんだろう。お荷物になるのかな?


「あ、初心者用と言いましても、対戦を重ねていくうちに新しいスキルに変えていけるのでご安心を」


「それはよかった」


 さっきのは心読まれてないよな? おそらく俺が「初心者用」という言葉に少し不安を覚えたのを感じ取ったんだろう。


 ユキはさらに薬指を立てる。


「次に三つ目です。『シールド』。名前の通り一瞬だけ盾を創り出し、近接攻撃、遠距離攻撃共に防御することができます。しかし壊れやすいです」


 防御スキルか。最初の二つは近接攻撃だから、欠けている防御力を補えてとても良い。


 ユキは小指を立てる。


「そして次で最後ですが……その前に。スキルにはそれぞれタイプというものがありまして。『ソード』、『ランス』は『ブレイドタイプ』、『シールド』は『タンクタイプ』なんですけれど……」


 ユキのパステルブルー色の瞳が輝く。


「四つのスキルの内、二つ以上を占めるタイプが()()()()()()()()()()()なのですが、実はサービス開始から今までのソードタイプのプレイヤーの中で、タンクタイプのスキルを持つプレイヤーがあなたしかいないんです!」

DW info 「剣タイプ」


剣タイプのプレイヤーの得物は剣、槍、斧などで、近接戦を得意とする。しかし剣タイプスキルの中には、遠距離攻撃が可能なものも。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ナビゲーターであるユキの口調と容姿が可愛らしいですね。  何やら物騒な感じのゲームで気になりますが、「剣」タイプと「盾」タイプを主人公が併せ持っていることが、今後どこかで活きてくるのでし…
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