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~技能研究を志す少女は変態フリーター盗撮魔の手を取る~  作者: スタイルフリー
第1章 『フリーター脱却編』
8/22

第8話 「特訓その2」

 特訓はまだまだ続く~。


 特訓三日目。


「俺の奢りだ。食え」


「わあっ、いいの!?」


 俺と愛は今、たこ焼き屋の前にいる。


 季節は秋から冬に変わろうと10月の月末であるにも関わらず、この目の前のたこ焼き屋にはたこ焼きのみでなくデカデカとかき氷販売してますとの表札が。


 数日前それに目をつけた俺はとある閃きの下、特訓三日目に愛と例の公園で待ち合わせをするやいなや何も言わないままこのたこ焼き屋まで愛を連れて来て、何も言わないままイチゴ味のかき氷を注文し、食えと一言だけ述べ愛に差し出した。


「何でかき氷? もう10月も終わりだよ」


 当然の質問だな。

 俺が何を思ってこのたこ焼き屋まで愛を連れて来て、わざわざ自分の奢りで愛に季節外れのかき氷を食べさすのか。


 一気にまとめて説明してやろう。


「勘違いするなよ愛。これは特訓だ」


「特訓……かき氷食べる特訓するの?」


「バカ。火系Ⅲ類習得に向けての特訓だ」


 こいつ本当に大丈夫か?


「えっ、これがいつもの特訓? こんなのが関係あるの?」


「関係がないのにこんなところまで連れて来るわけないだろう。俺達が行っている特訓は色々な角度から見たイメージトレーニングだ。色々な角度からイメージトレーニングを行い、イメージ力そのものを上げることが目的だ。これは理解しているな?」


「もちろん。実技をするよりもまず火に対するイメージをちゃんと持った方がいいんでしょ」


「その通りだ。今まで行って来たのはランニングや格闘技など肉体的な消耗をした直後のイメトレだ。今回行うのは別の意味での肉体的刺激を受けた直後によるイメトレだ」


「別の意味での……刺激」


 手に持ったかき氷を見つめながら何かを察した顔をする愛。


「今から何をするか、わかるな?」


 そう、閃きというのはこれだ。


 キンキンに冷えたかき氷を一気に食べさせ、直後に襲ってくるであろう頭痛に耐えながら行うイメージトレーニング。


 頭を使って行うイメージトレーニング。

 その頭に刺激を受けながら行うとなると簡単なものではないだろう。


 重要なのは様々な状態からイメージトレーニングを行うこと。


 一定の状況から同じイメージトレーニングを繰り返しても大した成長は見込めない。

 これまでは体を動かし、消耗仕切った状態からイメージトレーニングを行って来た。

 今回は体を動かさず、特殊な肉体的刺激を受けた状態でのイメージトレーニングとなる。


 このように、考えうる様々な状態から繰り返しイメージトレーニングを行い続けることで着々とイメージ力は向上していく。


 イメージする体力とイメージそのものの質が上がれば、技能を行使する上での技術の向上にも繋がる。


 何も火系Ⅲ類の習得のみに特化した特訓じゃないんだ。

 

 愛は技能検定で3級以上を目指していると言った。

 ならば技力の向上は必要不可欠のはず、ここでの特訓は技力を上げる上で重要となって来るイメージトレーニングの基となっていくことだろう。


 俺は愛に実技を用いた技能の指導はしてあげられない。

 

 してあげられることはイメージトレーニングのみ。


 だからこそ出来ることに全力を尽くそう。


「わかった……いくよ」


 ガツガツガツシャリガツシャリシャリシャリッ。


 ものすごい勢いでかき氷を一気にかっ込んでいく愛。


 きたっ! ジャ◯プ系主人公の食い方!


「うっ………あ、あうぅ……いぃぃぃぃ」


 食べる手が途中で止まり、愛の顔が苦痛に歪んで泣きそうな顔になる。

 まだかき氷は3割程残っているが……これが限界か?


「愛よ、これが限界か? 限界ならそれでいい、ここで食うのをやめイメージするんだ。だがな、このイメトレは自分を追い込むことに意味がある。甘えてイメトレを行っても得られる経験値なんて高々知れている。どっちだ!?」


 本当に限界だというなら仕方がない。

 だが少しでも甘えがあるなら心を鬼にしてでも追い込むべきだ。


「……鬼。おに……おに……おにぃぃぃ!!」


 続けて残りのかき氷もガツガツと一気に口に放り込む。


「あうっ、あうぅぅぅ………死ん……じゃう」


 顔を真っ青にしながら口元についた氷の粒を袖で拭おうとする愛。


「イメージするんだ愛っ! 頭の中がキンキンに冷え切ったいま火を生み出すイメージをするんだ!」 


 容赦なく指示する。


 このために苦しみに耐えてかき氷一気なんてバカな真似をしたんだ。時間が経てば経つほど頭への刺激は薄まってくる。でもそれじゃ意味がない。食べた直後で最も強い刺激にさらされている今イメージすることに意味がある。


「んぐっ……イタイ……イタイけどっ、火を創るんだっ!! 何も無いところからぁぁぁ!!」


 愛は挫けそうになるのをギリギリで踏ん張り、自分に言い聞かせるように渇を入れイメージトレーニングを始めた。


「メラメラ、メラメラとっ! 熱いっ、すごく熱いんだ!」


 あーちぃちぃ、あーちぃ、燃えてるんだーろうかっ!


 頑張れ、愛。


「………ふぅ」


 3分程目を閉じイメトレに励んでいたが、ここで一息つくみたいだ。


「どうだ?」


「うん、少しだけイメージ出来た。痛くて全然集中出来なかったけど」


「それでいい。あえてイメージしづらい状況を作ってやってるんだ、集中出来ないのは当然だ。そういったイメトレを繰り返し行うことに価値がある」


 高々数回イメトレを行った程度じゃ対した実感は得られないだろうが粘り強く継続して行くことが大事なんだ。


「うん、そうだよね。意味はあるよね?」


 視線を空に向けたまま、愛が呟く。


 俺に質問してるのか、自分自身に言い聞かせてるのか、どっち付かずではあるがここは強く返答しておこう。


「意味があるからやってるんだ。むしろ意味しかない」


「うん、だよね。今日の特訓はこれだけ? 時間あるしもっとしたいんだけど」


 ゆっくりと頷いて空に向けていた視線を俺に合わせる。


 少しイタズラに笑みを浮かべ、もう終わりなのか次はないのかと挑戦的に口元を歪める愛。


 ふん、先程まで泣きそうな顔をしていたくせに。


 愛の心情を考えてみると、実技を一切せずイメージトレーニングばかりしている現状に多少なりとも不安や不満はあるのだろう。


 だけど俺を信じて着いてきてくれている。

 

 そのことに強い罪悪感を感じながらも、ならばと俺は愛に言う。


「かき氷を食べただけで終わりなわけがないだろう。次はたこ焼きいくぞ、安心しろ俺の奢りだ」


「えっ、たこ焼きぃ!? ま、また同じことするのっ? し、しかも今度は熱い! 待って、ちょっとだけ待って!」





―――――(#)―――――





 目を閉じ、ふーっと深呼吸する。


 これから先どうしよう。


 盗撮がバレ何とか愛と取り引き出来たまではいい。

 あの時は状況が状況だったからとりあえずはその場しのぎが出来ればいいと思った。後のことはその時の俺が考えて何とかすればいいとも思った。


 その後のことを考えるのが今なんだよな。


 愛との特訓が始まって約二週間が経った。


 初めは俺が提案した体を動かすイメトレに否定的だったが、何だかんだ言いつつも愛は真剣に取り組んでいる。


 それだけ必死なんだ。必死になる理由が愛にはあるのだろう。


 現実的に考えて、これから先も同様にイメトレのみを行い続けることは難しい。


 理由は主に2つある。


 まず第一にネタがない。


 イメージを行う前にランニングやら格闘技やらとやってきたがそれもいつかはネタが尽きる。あの手この手で様々な角度からイメトレを行うにしてもやれる範囲には限りがあり、有限であることに違いはない。


 それに何だかんだ納得はしつつもイメトレばかりしている現状に愛は不満を覚えているはずだ。


 いつになれば実技は出来るのかと不安にも思うはず。


 次に決定的なのは、イメトレの成果を確認する時に実技が必要になること。


 ただイメトレのみを行って終わりというわけにはいかない。

 あくまでも火種Ⅲ類を習得するためにイメトレを行うのであって、その成果を実技を持って確認する必要がある。


 仮に実技を行ったとして火系Ⅲ類を発現出来ていなくても問題はない。その出来る出来ないを確認するために実技が必要になってくる。


 実技を用いて技能を行使するには施設を借りる必要があり、加えて技能を指導・監督する特殊な資格を持った人間の同行が不可欠になる。


 俺は愛に嘘をついていてその資格を持っていないため、施設を借りられても実技を行うことは出来ない。


 施設の役員で一部資格を持った人間もいるにはいるが技能を見てもらうにはかなり前から予約をする必要があり、そもそも俺が資格を持っていると愛は思い込んでいるため施設の役員を頼ること自体が矛盾している。


 今はまだ特訓を始めて二週間しか経っていないのでそういった話は出てこないが、それも時間の問題だろう。


 近いうちに必ず愛の方からその話を切り出してくるはずだ。


 これに関してはわかりやすく有限だな。


 

 いずれにしろ残された時間はそうないだろう。

 騙し騙しやって行くにしろ、いつかはバレる。


 その時が来る前に何かしらの解答を用意しておく必要があるだろう。



 閉じた目をゆっくりと開き、自室の時計を見ると時刻は18時55分。

 今日は令の仕事が早めに終わり、すでに帰宅している。


 令が早めに帰った時はいつも一緒に夕食を食べるのが俺達家族の決まり。


 令が呼びに来る前に2階のリビングに向かうか。


ベッドに下ろした腰をゆっくりと上げ、俺は自分の部屋を出る。




―――――


 

「ングッ、モグッ、モグ……相変わらず具材がでかいな。どんな切り方してるんだ」 


 思わず心の声が漏れてしまう。


 今日の夕食はカレー。

 スプーンでご飯、カレーのルー、具材をうまい塩梅で掬って食べたいのだが、具材が大きすぎてそれだけでスプーンをいっぱいに満たしてしまう。


「モグッ、モグッ……普通に切ってますけど何か? それに食べづらいなら具材をスプーンで切り分けてから食べればいいじゃないですか」


「いや、それなら初めからもう少し小さく切ればすむ話だろう」


「………自分で作りますか?」


 コン、コンッと人差し指でテーブルを二回叩き、俺を睨み付けながら圧をかけてくる。


「………悪い。でも味はすごく美味しい、本当だ」


 即座に謝罪し、令の機嫌をとる俺。

 すぐに機嫌をとらないと令は引きずるからな。


 令に養ってもらっている立場上、令に逆らうことは出来ない。


 令たんはこの家の大黒柱だからな。


「もうっ、何なんですか。そうやって軽く誉めておけば私の機嫌をとれると思ってるんでしょ? 前だって私の料理をバカにして……その後に感謝がどうとかって。あんまり軽く見ないで下さいっ!」


 もじもじしながら照れ隠しのように怒った素振りを見せる令。

 発言と言動が真逆だぞ。



 っと、そういえば令に聞きたいことがあるんだった。


「なあ令、いきなりなんだが指導者無しの施設通いだけでb群にまでなれるもんなのか?」


「今度は何ですか。さっきまでとはずいぶん話が変わりますね」


「ちょっとテレビで見てな。指導者無しの施設通いだけでa群からb群にまでなった神童がいたらしい」


「そうなんですか? それはすごいことですね」


「やっぱり珍しいか?」


「珍しいなんてものじゃないですよ。施設の役員に見てもらえる機会なんて場所にもよりますが数ヶ月に一度と聞きますし、a群とb群では技力の差に明確な開きがあります。例えa群で元々技力が高かったとしても、少ないながらの機会を利用して自力でb群にまで上がるのは至難です」


 なるほど、やっぱりか。


「令は俺と初めて会った時すでにb群だったな。もしかして自力で頑張ったのか?」


「まさか。私の場合は幼少の頃から指導者の方にずっと見てもらってましたよ。その方が相当特殊なんです」


「そうか」 


 愛は以前、施設通いだけで自力でb群にまでなったと言っていた。


 愛の技能を直接見たことがないのでひょっとしたら見栄を張っているだけの可能性もかるが……おそらくその可能性は低い。


 特訓に励む姿勢を見ていれば、どれだけ愛が本気なのかがわかる。

 見栄を張る程度の薄い気持ちならあそこまで真剣にはなれないだろう。


 愛には才能があると思う。


「テレビで見たことがそんなに気になりますか?」


 今の会話に何か引っ掛かりを感じたのか令が不思議そうな顔で問うてくる。

 

 流石に令は鋭いな、この程度の会話で何かを感じとるとは。


「別に。カレーに入ってるクソデカイ具材を見つめていたらふと思い出しただけだ」


「なっ、まだそのことを言いますかっ! そんなにしつこく言うなら次からはあなたが作りなさい。私はもう作りません!」




 俺の咄嗟の返答が再び令の機嫌を損ねてしまい、この後は令を宥めるのにかなり苦労した。


 こうして令との夕食の時間は過ぎていき、今日という1日もまたゆっくりと終わりを迎えていった。




―――――(★)―――――




「政くんって愛ちゃんの連絡先知らん?」


「いきなり何ですか。知りません」 


 今日はバイトの日。


 出勤10分前くらいに店に到着し、事務所で制服に着替えようとするやいなやいきなり店長に声をかけられた。


 今、愛ちゃんって言ったか?


「後輩なんやろ? 連絡先くらい知ってるんちゃうん」


「だから知りませんって。それに知ってたとしても教えませんよ」


 このおっさんはさっきから何なんだ。

 

 どうしてそこまでして中学生の連絡先を知りたい。


 この俺が愛の連絡先を教えると思うか? 断固として拒否する。


「あっ、やっぱ知ってるんやん。頼むわ、連絡先教えてくれへん?」


「だから知りませんって。どうしてそこまで知りたいんですか?」


「いや、愛ちゃんめっちゃ可愛いやん。仲良くなりたいし」


 気持ち悪いなこのおっさん。


 年を考えろ、相手は中学生であんたは50近くだろ。


 それに愛からすれば面識のないおっさんに自分の連絡先を勝手に教えられるなんてたまったもんじゃないはずだ。


「連絡先は知りませんが父親の職業なら知ってますよ」


 これ以上聞かれるのも鬱陶しいので鎌をかけてやることにした。


「……え?」


「警察です。しかも娘のことをかなり溺愛してるみたいですよ」


「へ~……そうなんや」


「だからあんまりちょっかいはかけない方がいいです。年齢的な意味でも色々とまずいでしょ」


「………」


 店長は途端に無言になり、どこか空に視線をさまよわせている。


 もちろん愛の父親の職業なんて知るわけがない。


 だがこういう時は警察や法律と言った言葉を使ってある程度牽制でもしておけば、相手は冷静になって大人しくなるものだ。


「時間なんで行きますね」


 大人しくなった店長を放置し、タイムカードを切って店内へ向かう。


 その俺の背中に、



 微かに、、、



 声が聞こえた気がした。







「………絶対諦めやんからな」




―――――




「もしかしてさっき店長に絡まれてました?」


 時刻は19時30分をちょうど回った辺り。


 俺が出勤したのが17時からだったから店長に絡まれてからだいたい2時間30分くらい経つ。


 この店はかなり客の入りが悪く、18時から19時ぐらいまでにサラリーマンやら学生やらが夕食を買いに来る辺りがピークであり、それ以降の時間は一気に暇になる。


 ピークの時間をなんとかいなし、加えてしなければいけない必要最低限の業務を終えた俺がレジで暇そうに棒立ちしていると同僚から声をかけられた。


「ちょっとな。あの店長の女好きはほんと何なんだ」


 さっきの店長とのやり取りを振り返り思わず愚痴を溢してしまう。


「ははっ。やっぱ女絡みっすか」


 目の前にいる爽やかそうな顔にほんの少しのチャラさを残した短髪の大学生は俺と同じこのコンビニのアルバイト、名前は小村という。


 俺がこの店でアルバイトを始めたのはつい数ヶ月前のことであり、その俺とほぼ同時期にこの小村も入って来た。


 同じ新人ということもありシフトが被る機会もしばしばあったので、こうして暇な時間に話をしてるうちに段々と仲良くなって行き、今ではよく世間話をする間柄となった。


「どんな絡まれ方したんですか?」


 爽やかスマイルを浮かべて小村が質問してくる。


「別に大したことじゃない。知り合いの女子中学生の連絡先をしつこく聞かれただけだ」


「………うわぁ」


 想定外だったのか素で小村がドン引きしている。


「あの人ほんと年下の女好きっすよね。バイトの面接だって女子校生や女子大生は確実に採りますもん」


「だな。そしてみんな辞めていく」


 店長の女好きはこの店の店員全員が周知している。

 

 それに女性店員に対しての贔屓が酷いことも全員が知っている。


「なんかめちゃくちゃ絡んで来るらしいっすよ。研修を装って質問攻めして来たり、勤務外で頻繁に連絡を取ってきたり。結局みんなそれに嫌気を差して辞めるらしいっすね」


 そこまでひどいのか。


 俺のシフトは基本的にこの小村か店長と被ることが多く、他の従業員と関わる機会が少ない。せいぜい出退勤の際にニアミスするくらいのものだ。


 他の人から店長の話を聞いたことはないが、みんな同じことを思ってるんだろう。


「女が絡むと豹変するのは何なんだ。男だけの時はそれなりにやりやすくもあるが」


 フォローというわけではないが、これは事実だ。


 男だけの環境で業務を行う分には悪い店長じゃない。


 丁寧に教えてくれるし、パワハラをしてくるということもない。


 基本的にはおおらかな人だが、女が絡むと変わる。


「それは確かに。まあどこにも年下の女が好きなおっさんはいるんじゃないっすか、そこさえ除けば後は楽ですし。それよりも政さんに中学生の知り合いがいたことの方が以外っすよ、どこで引っ掛けて来たんすか?」


 お前も愛に興味あるのか。

 出逢い方が特殊過ぎて答えづらい。


「人聞きの悪い言い方をするな。俺が卒業した中学の後輩なんだよ」


 ひとまずは無難に返す。


「そうなんすか。政さんって確か晴進学院っすよね?」


「ああ」


 そう言えば前に中学の話をしたことがあったか。


 世間話をしていたらどこの中学出身かという話になり、何も考えずにさらっと答えてしまい後悔したのを思い出した。


 俺が通ってた中学は技能を使える者が多く都内でもそこそこ有名で、それを知っていた小村から根掘り葉掘り質問されてずいぶんと困らされた記憶は新しい。


「ってことはその中学生の子は技能使えるんすか? どんな子なんすか?」


「何だ、店長だけじゃなくお前も興味あるのか?」 


 あまり愛や中学についての話題は続けたくないので、露骨に嫌そうな顔をして答えてやった。


「あの人と一緒にしないで下さいよ。中学生に興味あるんじゃなくて技能の方に興味あるんすよ」


 店長と一緒にされるのがそんなに嫌なのか質問の意図を正直に答える小村。


 ちょうどいい。話題を技能の方へ持っていって逸らすか。


「そう言えば小村は技能使えるんだったか」


 これは前に小村から聞いたことだ。


「うっす、技力は大したことないっすけど。その子は技力高いんすか? どんな種類の技能使えるんすか?」


 しつこいな。


「個人情報に関しては答えない。だれだけ知りたいんだ」


「ははっ。ダメっすか?」


「ダメだ。話は変わるがお前は独自で技能開発を行ったりするのか?」


 こいつはこいつでしつこかったのでやや強引に話題を換える。


 技能に興味があるというのは本当らしいのでこっち方面の話でやり過ごすことにする。


「大学の施設使ってたまにやりますよ。混んでるんで事前に予約して自分の番が回ってくるまでかなり待たされますけど」


 技能開発センターこと通称施設。


 そう言えば大学によっては内部に学生専用の施設が設けられているところもあるんだったな。


「そんなに混むのか? 学生専用の施設なら一般向けに解放されてる施設よりはマシなんじゃないのか」


「確かにそれに比べればマシっすけど、それでも全然っすね」


「ほう、そういうもんなのか。やっぱり個人契約した指導者でもつかないと技能を開発するのは苦労するんだな」


 施設が混む理由は技能開発を指導・監督してくれる資格を持った人間の少なさに起因する。


 施設の役員で資格を持った者も一部いるが、その一部だけでほとんどを回してるのが現状で個人による技能開発はなかなか難しい。


 大学専用の施設ともなれば多少は事情が変わってくると思ったが案外そうでもないみたいだな。


「それはそうなんすけど、そればっかじゃないんすよ。中には贔屓してるクソ役員もいるんでそいつらのせいで余計混んでるっていうのがでかいっす」


「……贔屓?」 

 

 話半分に聞いていたら妙に引っ掛かるワードが出てきた。


「確定的な証拠はないっすけど、学生の間でよく噂されてるんすよ。役員が気に入った学生に目を付けてそいつの番がすぐに回ってくるように調整してるとか」


「そんなことをしてバレたらまずいんじゃないのか?」


「普通にヤバいっすね。だから贔屓する学生との間で取り引きして見返りを求めてるとか言われてるっす」


 ……見返り。


「金か?」


 率直に浮かんで来たものを口に出す。


「体っすね」


 か、からだぁ!?


「本当か? 気に入った学生に目を付けて……というのは」


「見た目が気に入るという意味っす。贔屓して自分の番を優先的に回してやるからその代わりにヤらせろってことっすね。もしかしたら金が絡む場合もあるかもしれませんけど」


「そんなことがあるのか………でも、噂なんだろ?」

 

 思いの外衝撃的ではあるが所詮は噂じゃないのか。


「あくまでも噂っす。でも目撃者とかも結構いて短い期間で特定の人間が何度も施設を出入りしているのを見たり、しかもその特定の人間というのが女ばかりで容姿がいい奴が多いらしいっすよ」


「ずいぶんとリアルな噂だな」


 金にしろ女にしろありそうな話ではある。


「元々指導者と指導される側って距離感が近いじゃないっすか、それなりにコミュニケーションを取る必要もありますし。それにかこつけて女を口説く連中は一定数いますけど、ぶっちゃけ言ってそういう連中よりも遥かに質悪いっすよ。そいつらのせいで諸に他の人間が迷惑受けてますし」


 噂が本当ならその通りだろうな。



 だが……何だ?



 何かへんな感じがする。



 どこか引っ掛かる。



 自分の番を優先的に回してもらう……という部分に妙な違和感を感じる。


 

「政さん、どうかしたんすか?」 


 不思議そうな顔をして小村が声をかけてくる。


 妙な違和感に思わず考えこんでしまい、1分程硬直してしまった。


 いかんいかん今は勤務中だ、考えるのはやめよう。


「何でもない」


「今の話そんなびっくりしたんすか?」


 ニヤリと笑いながら俺の顔を覗きこんでくる。


「別に。サボりすぎも良くないしそろそろ働くか」


「やることなんてほぼないっすよー」


 無視。


 強引に小村との会話を切りレジから離脱する。


 とはいえ、やることがないのは事実なので店内をぐるぐると周るだけ。




 しかし、、、




 噂とはいえ変な話を聞いたな。





―――――(♠️)―――――




 あの後も暇な時間は続き、店内をぐるぐる周り続けるだけでは限界が来たのでウォークインに入り業務をしてるふりをしてサボったり、前出し顔出しをしたり、時たま来る客の接客をしたりで何とか2時間程やり過ごし、やっとのことで退勤時間が来たので即座に退勤した俺はいま帰途に就いている。



 あー、夜風が気持ちいい。


 しかし暇過ぎるというのも考えものだな。


 俺があのコンビニをバイト先に選んだのは暇そうだったから。


 だが実際に働いてみてわかる。暇過ぎるのはかえって毒だ。


 時間が過ぎるのが遅すぎて逆につらい。


 たいして動いてもいないので肉体的な疲労は感じないが精神的な疲労は感じる。


 そういった意味での疲労を感じながらゆっくりと自転車をこぎ、自宅を目指す。


 自宅からコンビニまでの距離は自転車で約10分と程々の位置にあり、まあ後5分もすれば着くだろう。



 そこで、ふと小村との会話を思い出した。


 妙な噂だったな。


 だが、可能性としては十分に考えられる噂でもある。

 

 優先的に自分の番を回してもらう、俺が引っ掛かりを感じているのはこの部分だろう。


 

 愛は、愛はどうなのだろう。



 愛はこれまで施設に通い、それだけで技力を上げてa群からb群にまでなったと言っていた。

 

 令との会話を思い出す。

 テレビで見たなんていうのは真っ赤な嘘で、神童というのは愛のことを指す。


 真っ当に自分の番を待ち、少ないながらの機会で技能を開発して技力を上げb群に属する。



 本当にそんなことが出来るのか?



 

 いや、これ以上深く考えるのはやめよう。愛に失礼だ。


 それにどうしても気になるならそれとなく愛に聞いて見ればいい。


 自分自身を強引に納得させ、むしゃくしゃした頭をブンブンと振り俺は自転車をこぎ続ける。



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