理由なんて
あるところにはあるのか。
今年は、大人しくしているのか。
マスクの絵柄を怪しげにして、
か細い若者らが通り過ぎていた。
世界中の約束みたいなものが、
鋭くて、とんがっているようで、
ハロウィンのカボチャも
あまり見かけない気がしている。
柔らかい感触の出来事が、
少なくなったと思うのは、
いつも想っているからか。
カボチャに繋がっているからか。
柔らかいものが好きな人だった。
服にしても、食べ物にしても、
部屋にあるソファーにしても、
柔らかいものが好きな人だった。
彼が満足したときに、
口から出る言葉は、
ああ、柔らかい、だった。
カボチャの煮付けにそう言っていた。
彼には、開かないを扉を
無理やりこじ開けようとしたり、
固い食べ物を噛み砕こうとするような、
そんな野性味は欠けらもなかった。
まるで、綿の抜け出た、
縫いぐるみのような風貌で、
年がら年中、眠そうな目をしていた。
時々、話の途中でも眠っていた。
なぜそうなのかは、
誰も知らないだろう。
それなりの理由があったのだろうが、
彼はそれを誰にも話さなかった。
彼は死んだ。
誰にも何も言わずに、
お気に入りのソファーの上で、
彼らしく、縫いぐるみのように。
ダラリと止まっていた。
頭の中の血管が、
何故か絡まってしまう病気で、
それは、彼だけの症状だった。
柔らかいものが好きな人だった。
彼を見送るとき、
縫いぐるみを持って行った。
他には何もできなかった。
彼に似た、子犬の縫いぐるみ。
その可愛い子犬を
彼に見てもらって、
旅立ってもらおうとした。
彼がいつも欲しがっていた、
柔らかく、優しい世界へ。
あのカボチャの煮付けを
また食べられる、穏やかな世界へ。
皆、年の瀬に向かっている。
良いことも、悪いこともなく、
皆、カボチャを忘れてゆく。
たぶん、とんがった約束があるから。