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第77話 アルマース帝国の魔手 その5

「でも、恐らくアドポリスほど大事にはならないと思いますわねー」


 忘却派を探すことにした俺達だが、アリサはのんきなものだ。


「それはまたどうして?」


「この国にはお師様がいますもの。それに、ラグナ新教の総本山ですのよ? こう見えて、あちこちには神の目が張り巡らされていますの。小さな騒動は見過ごされますけれど、大きな騒ぎならばすぐに僧兵が駆けつけてきますから」


「ならば、やっぱり俺達が必要じゃないか。小さな騒動は見過ごされても、それで不幸になる人はいるだろ?」


 これを聞いて、ファルクスが嬉しそうに頷く。


「英雄の言葉ですなあ! わたくし、とても嬉しいですぞ」


「センセエすごいでしょー」


『ちゅちゅっ』


 みんな揃って移動しているので、賑やかなものだ。


 俺達は盗賊ギルドにも連絡を取り、連携を取ることにした。

 これで、大教会と盗賊ギルド、神都ラグナスの表と裏の情報はこちらに入ってくる。


 目標は、ザクサーン教忘却派を名乗る司祭、アストラルと、因縁の相手ファレナを倒す……もしくは、この国から追い出すこと。

 多分、彼らをフランチェスコ枢機卿が明確に認識したら、彼らはイリアノスで自由には動けなくなると思う。

 枢機卿は、ドレやブランと同類のような気がするからな。


 ラグナスに来てから、しょっちゅう使用している酒場の一部を借り切り、ここをザクサーン忘却派対策本部とすることにした。


 教会との繋ぎはアリサ。

 盗賊ギルドとの繋ぎは俺。


 その他、酒場とのやり取りや冒険者ギルドとの連携、金勘定に持ち込まれる情報の精査……全部俺。

 雑務に一番精通してるのが俺だからね……!


「わたくしめ、書類関係は全くだめなものでして」


 悪びれず微笑みながら、ファルクスがリュートをかき鳴らした。

 こうして、俺達モフライダーズの忙しい毎日が始まった。


 暴れている者ありと聞けば、カイルを派遣し、路地裏で猫が会議していると聞けばドレを派遣し、ブランが散歩に行きたがったら一緒に散歩に行き……。


「大した事件が起きませんな」


 ファルクスが物悲しげにリュートをかき鳴らした。


「君はひたすら事件を待ってる奴だなあ」


「平穏を朗々と歌い上げられるほど、わたくしめの腕は高くないもので。やはり、誰もが喜び耳を傾けるのは、事件あってこそですぞ」


「そんなものかい」


「そんなものです。誰かの騒動は大衆の喜び。人なんてものは下衆なものなんでありますなあ」


 ぽろんぽろん、とリュートを鳴らす。

 だが、別にファルクスが役立たずだったわけではない。


 喧嘩仲裁にカイルに付いていったかと思えば、舌先三寸で人々を丸め込み、ついでに情報を持って帰ってくる。


「一人が心神喪失状態になっていましてな。雷晶石の欠片で背中を撫でてやったら戻りましたぞ」


「つまり、忘却派の息が掛かっていたということだね」


「ええ。近くで行われていた貴族の私兵と僧兵の争い。その最中に貴族が一人姿を消したそうで」


「つまり貴族をさらうのが目的だったわけか。なるほど……。アリサ、これを枢機卿に」


「魔法で転送済みですわ」


 猫の会議にドレが顔を出す時、トコトコついていったと思ったら、スピーク・スモールアニマルなる呪歌で猫達と会話して戻ってくる。


『こいつ、己よりも喋りまくってたにゃ。前世が猫だったんじゃないかにゃ』


「いやいや、そんなことはございませんがな。猫の情報でも、裏路地で動き回っている連中がいるそうですな。見かけない人間達で、ラグナスの人間とは違うにおいがするとか。ああ、盗賊ギルドの方々と争ったりしているようで」


 その情報の直後、盗賊ギルドから、忘却派と交戦したという話が流れてきたりする。


「うーん、ファルクスは大した男なのかも知れない」


 見直す俺だった。


 とにかく、情報、情報、情報だ。

 俺はもともと、知識や情報を集めて、それらに経験を上乗せするスタイルの冒険者だった。

 ということで、情報を集めてまとめ、それらに繋がりを見出すことは得意中の得意。


 すぐさま、集まった情報の紐付けが終わった。


「さいきんクルミはつまんないのです」


「どうしたんだい?」


「センセエはずーっとテーブルに向かってなにかかいてるし、みんなばらばらで動いてて、クルミはやることなくてつまんないです」


「なるほどー……」


 確かに、頭脳労働はクルミには難しい。

 かと言って、小柄で可愛らしいクルミは喧嘩の仲裁もなあ。

 どっちかというとげっ歯類だから、猫の会議も。


「どうしたものだろう」


『わふ』


「えっ、ブランがクルミを担当してくれるのかい?」


『わふん』


「そうか、君ならクルミとも付き合いが長いしな。二人で街なかを練り歩いてパトロールだね?」


「パトロール! はいです! クルミにお任せですよ!!」


『わふわふっ!』


「ではクルミ、これを持っていきなさい」


 俺はあるものを彼女に手渡した。


「これは! ブラシですか?」


「ああ。大教会謹製のブラシだ。ブランはいろいろな場所、状況に飛び込んでいって汚れると思う。彼の毛並みを整えるのも大事な役割だ」


「なるほどー!! わかりました! クルミがんばるです!」


『わふふん!』


 ブランが尻尾をぶんぶん振るのだった。

 ということで……。


 モフライダーズが全力で情報収集を始める。

 あっという間に居場所を突き止めてやるぞ、忘却派! 


捜査本部設置なのだ!


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[一言] クルミ隊長は脳筋なんすね(笑)
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